第40話「命の代償」
## 第40話「命の代償」
### 【あらすじ】
ジュニアを救うための人工心臓が積まれたトラックを追跡する川田たち。
飯島隊と、真衣が運転する川田隊の二手に分かれた作戦は、ジャミング装置をトラックの運転席に放り込み、成功したが――
### 【本文】
川田は、車内から停車したトラックを睨む。
安全に停車したトラック。目標の人工心臓も、これなら破損した可能性は低い。
懸念点は一つ。一切の油断も許さない機動隊配備型ロボットの稼働状態。
(飯島さんたちが、どこまでやってくれたか――)
川田がそこまでの思考に至った瞬間。
悪寒が走った。
隣にいる若林隊員を、恐る恐る見る。
若林隊員は、ゆっくりと後部座席の扉を開けた。
這い出るように外に出ると、車両の進行方向とは逆にゆっくりと歩き出し、膝をついた。
川田はそのまま視線を上げ、その先を見る。
「川田さん……!」
真衣も、何かに気づいた。
「あ……!?」
――川田たちの乗る車両、その遥か後方。
バンが、電柱に衝突して静止していた。
「飯島さん!!」
川田は、咄嗟に車外に飛び出す。跪く若林隊員を追い抜き、走った。
視界に入るバンは、運転席部分が大きく潰れている。
後方で銃撃音が聞こえた。
川田を呼ぶ叫び声も聞こえた。
だが、止まらなかった。もはや、理性的な判断が可能な状況ではない。
――川田は走った。
バンにたどり着くや否や、川田は運転席のドアを探す。
「……嘘だろっ」
しかし……もはやバンはどこまでが“運転席だった”のかわからないほど変形していた。
川田が反対側に回ると、そこには――
「…………」
割れた助手席の窓。
そこから、投げ出されるように上半身が車外に飛び出した――
津田隊員の姿。
目は虚に開かれており――
「うっ……あ……ああ……!!!」
上顎が、欠けていた。
銃撃が直撃したのだ。
川田は、一瞬その姿を見た直後、その場にうずくまった。
飯島も、恐らく無事ではない。無事でいられるわけがない。
「ど……どうして――こんなっ!」
その場から逃げ出したくなる衝動に駆られる川田の耳に、銃声が飛び込んでくる。
ハッと顔を上げる。
そのまま、バンの脇から前方を覗く。
仰向けに倒れる若林隊員。アスファルトに広がるうだるほどの赤。
さらに川田の目に飛び込んできたのは――
「ダメだ……ダメだダメだダメだ!!!!」
仰向けに倒れるロボット。
――見覚えのあるデザイン。機動隊配備型だ。
動きが鈍い。足を撃たれたのか。
ロボットの周辺に視線を走らせる。
銃がある。ロボットが取り落としたのだ。
――拾われたら、全員死ぬ。
思考がそこに辿り着いた時点で、川田は動いていた。
振り返り、車から投げ出された津田隊員の上半身から垂れ下がったアサルトライフルを回収する。
鮮血が、川田の顔に飛んだ。
「うわァァァ!!!!」
川田はそのまま、銃をロボットに向け乱射しながら突進した。
一度も扱ったことのない銃。引き金を引けば、弾は出た。
明後日の方向に飛んでいく銃弾を、なんとか力づくで制御する。銃弾の行く先を引きずり、ロボットに向けていく。
銃弾の道がロボットを薙いだ。金属音が響く。
川田は止まらない。
カチ、カチ、と二回の音。
そのまま川田は銃をロボットに投げつけ、敵が拾おうとしていた銃に飛び込み、必死に拾い上げた。
構えて、引き金を引く。
だが――
弾は出ない。ロボットが使うのはID認証機能付きの銃。
川田には、この銃を扱う資格がない。
「…………」
銃を構えたまま硬直する。
ロボットは、損傷しながらもよろよろと立ち上がる。
川田は知っている。このタイプは銃を失っても暴徒鎮圧程度はなんでもない性能を持っている。
そして今、このロボットにとっての暴徒は――
(……死ぬ)
「暴徒に……告グ……直ちニ――」
音声機能が破損したロボットが、不気味な声を発する。
川田の脳裏に、杏奈の姿が浮かんだ。
(杏奈も、この恐怖に直面したのか)
ロボットがその重い腕を振り上げた。
(すまん……千花。俺たちは、お前を置いて――)
川田が諦めかけた、その時。
――銃声が、後方から何発も鳴り響いた。
目の前にいたロボットが、そのうち数発を受け、よろめく。
「川田さん! 立ってください!!」
(真田さん……!?)
両手をついて後退りながら、川田はなんとか立ち上がった。
「逃げましょう!!」
立ち上がれない川田の腕を、真衣が引く。
「だ、ダメです……! まだジュニアさんの――」
「なら、速く!!」
真衣の言う事はもっともだった。
状況は最悪。真衣が車から出て来たことを考えると、助手席にいた隊員も動けない可能性が高い。
「は……はい!」
川田は使えない銃を持ったまま、立ち上がる。
真衣は、もう数発ロボットに銃弾を打ち込んだ。
ロボットはすでに胸部含め、多くの弾痕を残しているが、止まる気配はない。
「川田さん、こいつ!」
「胸部の基板は装甲で守られています! 顔面のカメラを潰した方が確実――」
川田が言い終わる前に、真衣はロボットに接近し、至近距離で顔面を撃ち抜いた。
バランスを崩したロボットに、川田は間髪入れずに踏み込む。
撃てない銃の銃底で、ロボットのカメラ部分を殴りつけた。
「離れてください!!!」
川田が叫ぶ。
真衣が飛び退いた。
直後、ロボットがやぶれかぶれに腕を振り回し始める。
「ぐうっ!?」
腕が川田の足を直撃し、川田は声をあげて倒れる。
「っ――!!!!!」
川田は歯を食いしばり、もう一発銃底でロボットを殴りつけた。
「真田さん! 足です!」
川田の叫びを聞いて、真衣はロボットの足を撃った。
ハンドガンから放たれた数発のうち一発が、足を捉えた。
「完全な破壊は無理です! トラックに向かいます!」
川田は足を引きずりながら言う。
(移動性能は削った。これ以上の戦闘は無意味だ――)
真衣は一瞬、トラックに向けて駆け出したが、振り向き、川田の状態を確認すると、戻ってきて肩を貸した。
背後でロボットの蠢く音が聞こえる。
川田と真衣は、無言でトラックに向かった。




