第39話「追跡」
## 第39話「追跡」
### 【あらすじ】
保護局では、撤収のために大勢のロボットが物資を車両に積み込んでいた。当然、目標物である人工心臓もそこにある。
飯島と津田隊員は、追跡部隊として待機。川田と若林隊員、そして……召集された真衣たちもそれに続き――
### 【本文】
「真田さん!」
川田が叫ぶ。
監視のために侵入していた建物の裏手、見覚えのある車が停まっていた。
「…………状況は聞いてます。乗ってください!」
真衣が座る運転席の隣、助手席には飯島たちと同じ装備の部隊員の男が座っていた。川田を見ると、頷く。
「隊長たちは、目標の載ったトラックの追跡を開始しています。報告通り、運転席にいるのは汎用型のドライバーロボットです。そして――」
「助手席には、警察配備型……しかも、機動隊タイプの――」
川田の監視のおかげで、敵の動きはおおよそわかっていた。車両は、満載になった段階で保護局を出る。運転は汎用型。助手席に警察配備型が乗る。
しかし――よりにもよって目標物が載ったトラックには、“機動隊配備型”のロボットが乗車した。
――杏奈を殺したロボットと、同じ型である。
『追跡は順調だ。だが――こっちの狙いがバレている可能性もある』
無線機から飯島の声がする。
「真田さん」
「はい!」
川田の呼びかけで、真衣が車のエンジンをかける。
(慣れたものだな……)
川田はその手際の良さに感心した。
(とはいえ……油断は禁物だ。ジュニアさんを助けるためとはいえ、真田さんをここまで連れてきてしまった)
川田には、一瞬の油断も許されない。誰かを救いたいという想いと行動が持つリスクを、彼は知っている。
「我々は、隊長の追跡部隊に合流します」
車が発進すると、助手席の隊員が言う。
「目標物の箱を目視したのは、川田さんだけです。積み順から、目標が手前側にある可能性は高いですが、迅速な回収、離脱のために、川田さんの合流は必須です」
そう言う隊員の男と、飯島の追跡部隊の連携は見事だった。
無線機で連絡を取り合い、通過ポイントを知らされ、そこに向かう。目標のトラックは法定速度近い速度で航行しており、ポイントを通過するたびに、距離が近づいているのがわかった。
『こっちには気が付かれている。だが仕掛けてこない。川田、どう見る』
時折、状況について飯島は川田に尋ねる。
「……相手は機動隊が出るような現場を想定しているタイプのロボットです。細かい仕様はわかりませんが、“攻撃を仕掛けない”明確な理由があるはずです」
『……こちらから銃撃するリスクは?』
「単純に顔を出すのがリスクです。一般的な警察配備型と比べても射撃の精度が一段上がります。走行しながらでも、被弾するリスクが十分にあります」
『難儀だな――』
「それに……人工心臓は精密機械です。クラッシュすれば……破損する恐れがあります」
『そうか……それは重要な視点だ。感謝する』
両者、目標に向けて航行しながら作戦を固めていく。
『やはり……ジャミング装置を使用した方法しかないか』
飯島が言う。
――後部座席、川田の横。若林は、すでにその作戦のための準備を始めている。
ジャミングを喰らわせ、目標車両の自動走行機能を機能不全に陥れる。
目標車両の運転席に座ったドライバーロボットは、“自動走行機能に不具合が起こった場合、安全に停車する機能”を持っている。こちらの狙い通りなら、トラックを停車させることができる。
だが、問題があった。
『すまない、若林をそちらに回したのは俺のミスだ』
ジャミング装置を装備していたのは、川田とともに行動していた若林隊員。
――川田たちが、トラックに接近し、ジャミング装置を“トラックの運転席に”投げ込む必要があった。
トラックの外側からでは、明確な効果が期待できない。
それは――
高精度の射撃性能を誇るロボット相手に、肉薄する必要がある。ということだった。
◇◇◇◇◇◇
(見えた――)
数分もしないうちに、川田たちの車両は飯島隊に追いつき、目標の車両も視界に入った。
「真田さん、大丈夫ですか?」
「はい……なんとか」
真衣は、なんとか車両を操り、作戦の展開についていっている。
『奴らの目標地点がわからない以上、これ以上引き伸ばすのは危険だ』
飯島から指示が飛ぶ。
『バックアップはする。運転席側に回れ。俺たちは……“奴らの気を引く”』
川田の手足の先に、冷たくなるような嫌な感覚が走った。
(……早い話が、囮、だ)
「川田さん、隊長、ジャミング装置、準備できました」
若林隊員が言う。
――心の準備など、する時間があるはずもなかった。
『必ず、全員生きて帰るぞ』
飯島は、祈るように言う。
『…………今だ! 先行する!!』
飯島隊の車両が急加速し、トラックの左側面につく。
――間髪入れずに、アサルトライフルのフルオート射撃がトラックの助手席を襲う。
「真田さん!」
「はっ……はい!」
川田の指示で、真衣はアクセルを踏み込む。
真衣は見事なハンドル捌きで車両をトラックの右側に入れる。トラックに遮られ、飯島隊の車両が川田の視界から消えた。
銃声は止まない。
「真田さん! もっと寄せてください!」
「無茶言わないでくださいっ……!」
若林隊員は、起動したジャミング装置を持って後部座席左側の窓から身を乗り出す。
銃撃を数発。トラックの運転席の窓を破壊した。
真衣は、進行方向とトラックを何度も確認しながら、車を寄せていく。速度を上げ、トラックの運転席と若林隊員のいる後部座席が並ぶよう調整するが――
その時――
「真田さん! このトラック、“右折”します!」
「えっ!?」
川田は視界に捉えた。
トラックに灯る黄色いランプの点滅。
前方は開けた交差点。
トラックが右折のために減速する。
追うように捉えていたトラックの運転席が、接近した。
「うおおおおおっ!!!」
若林隊員は、そのタイミングを逃さなかった。
叫びながら、ジャミング装置を、はるか高い位置にあるトラックの運転席へと投げ込む。
「真田さん! ブレーキっ!!」
「ハイっ!」
結果はわからない。だが、トラックが川田たちの車を気にせず右折を始めた。
ブレーキによる強烈な慣性が川田たちを襲う。
車は、ギリギリのところでトラックをかわし、停車した。
右折したトラックも、右折した先でゆっくりと、速度を落とし停車した。
「……入ったと思います。成功です」
若林隊員が、震えた声でそう言った。




