第38話「探し物」
## 第38話「探し物」
### 【あらすじ】
ジュニアを助けるため、川田たちは人工心臓奪取作戦に臨む。
不気味なほどロボットが少ない街を移動し、保護局へとたどり着いたが――
### 【本文】
状況は最悪だった。
「……奴ら、保護局の物資を移動するつもりだ」
スコープを覗く飯島が言った。
保護局メインエントランスの向かいの建物から、様子を伺う部隊員たち。
侵入した建物の目につく監視カメラは破壊したが、そこから川田たちの存在を気取られた可能性は非常に高い。
だが、ロボットたちがこちらに向けて動く気配はなく、大勢のロボットはせわしなく荷物を車両に積んでいく。
「……ロボットたちが少なかったのは、搬出作業に人員を割いているから……ということですかね」
川田が言う。
メインエントランスには、何台も車両が停まっており、続々と荷物が積まれていっている。
「どうだ、目標のブツは」
「いえ……まだ、段ボールを見る限り、今は食料品や水などを運び出しているようです」
川田は報告する。
「やはり、あそこの収容施設は完全に引き払うつもりなんだな」
川田の心臓が、締め付けられる。
その事実は、娘の千花が川田の知らぬどこかへ連れて行かれたという事実と何ら変わりない。
――それに、そこにはもう、杏奈もいない。
「……今は、作戦に集中してくれ」
「……分かってます」
「すまない」
川田と飯島は、短い会話を交わす。
「問題は、警察配備型が車両を固めていることだ。このまま突っ込んでも、各個撃破されて終わりだ」
ロボットたちから仕掛けてこないのは、そのことを向こうも承知だからだろう。
川田たちが狙っているものを知ってか、または、襲撃の教訓からか、ロボットたちの防御は厳重になっていた。
「隊長……」
津田隊員が、不安そうに言う。
「手をこまねいていてもしょうがない。作戦を伝えるぞ」
飯島は、額に汗を滲ませた。
「川田は、このままこの建物で、引き続き奴らの積荷を確認。目標を発見次第報告しろ」
「……はい」
「目標が積まれた車両を特定したら、無線で俺たちに伝えてくれ。護衛は、若林に任せる」
「わかりました!」
「俺と津田は、車両で待機。目標の車両が保護局を出たタイミングで、叩く」
飯島は冷静だった。
この作戦なら、わざわざ防御を固めた敵に突っ込んでいく必要はない。
問題があるとすれば――
「……最終的に、二手に分かれることになる。俺たちはそのままバンで脱出できるが――」
飯島は、息を整え、続ける。
「川田と若林は、別に脱出手段を手配する必要がある」
川田の心臓が打つ。
飯島の言葉、それが指し示すのは――
「……召集は俺の方でかける。この建物の裏で、待機するよう伝えておこう」
真衣を、この戦場に連れてくることだった。
◇◇◇◇◇◇
その後数分、事態はこう着状態が続いた。
徐々に、川田の表情に焦りが見え始める。
「…………時間、かかりすぎてますかね」
それは若林隊員も同じだった。
「仕方ありません。今の段階では、こちらからできることはありませんから」
言葉ではそう言うが、一行の焦燥感は募るばかり。
「……ジュニアさん……でしたっけ。すごいですよね」
その空気に耐えかねてか、若林がジュニアに関する話題を振ってきた。
「脳以外を機械化したサイボーグ……自分、初めてみました」
「それは俺も同じです。ロボットたちが人を殺す現場を見た後でしたから……少し怖かったのを覚えています」
「今は……全然そんなことないですよね?」
「もちろんです。むしろ……いや、正真正銘、ジュニアさんは命の恩人です」
「その辺の話、詳しく聞いてもいいですか?」
「…………俺は……家にいたはずの娘と、妻を探すために、自宅を出る必要がありました」
川田は、スコープで車両に積まれていく物資を確認しながら話し始める。
「そんな状況の中……籠城していた自宅で、真田さんと出会ったんです。彼女は……食料を探していました。なんでも、デリバリー頼りの生活だったみたいで――」
「あ〜なんとなくわかります。便利ですもんね」
「対して俺は、食糧はあったんですが……調理する方法がなくて――」
「…………異変の後、電気も水道も止まっちゃいましたからね」
「真田さんが持っていたライターには、助けられました。でもその後……今思えば、清掃活動中のロボット、ですかね? 訪問してきたロボットに、浮気の最中と間違えられて――」
「え……? あ、いや……すみません」
「ゴルフクラブでロボットを破壊して、マンションを出たんです。ですが……当然外はロボットたちがいます。絶体絶命のところを、ジュニアさんに助けてもらったんです」
「…………そんなことが――」
「その後も、仮の住まいと、備蓄。妻を探すのも手伝ってもらいましたし、地下基地に行くための車両だって、元はと言えばジュニアさんのものです」
「…………すごいですね」
「本当です。これだけのことが起こっても……人のことを助けられる力があるのは――」
「違います。いえ……ジュニアさんももちろんすごいですけど――川田さんもですよ」
「……え?」
「俺、田舎から上京してきて、東京で暮らしてたんです。不安でたまらないですよ。田舎の家族がどうしてるか、知る方法すらないんですから」
「…………そう、なんですね」
「異変が起こった時、飯島さんと一緒で、署にいました。正直……飯島さんがいなかったら、俺、とうに死んでます。今もそうですが……俺は飯島さんの指揮で生き残ってるようなもんです」
「…………そうですか。お互い、助けられてここまできてるってことですね」
「どう……でしょうね。川田さんは……川田さんも、いろんな人を助けてると思いますよ」
「…………そんなことは――」
「俺なんかがこんなこと言っても何にもならないと思いますが、真田さんも、澪ちゃんも、川田さんのこと頼りにしてると思います」
川田の視線が、一瞬ブレた。
「……ありがとうございま――」
川田がお礼の言葉を口にしようとした瞬間――
「あっ……!」
川田の目に飛び込んできた、大型の段ボール。
――間違いない。
「目標、発見しました!」




