第37話「急行」
## 第37話「急行」
### 【あらすじ】
ジュニアの人工心臓は、襲撃作戦で破壊されていた。
彼を救うには、保護局にあるという替えのパーツを手に入れるしか無い。
### 【本文】
「どうだ、動きそうか」
川田たちは、地下基地のガレージに急行した。
すでに飯島が指示を出しており、川田たちが乗って来た車両に、何人もの作業員がついていた。
「……問題、ないでしょう。タイヤを換えれば、“動かすことはできる”状態にはできます」
その作業員の言葉に、飯島は顔をしかめながら車両を見た。
バンパーは凹み、銃弾の痕も目立つ。
頼り甲斐のある見た目ではなかった。
「あとは、運転の問題です」
「……そ、そうか」
飯島の額に汗が滲む。
「かなり古いものですから、ウチにあった久世代表のカスタム車両とは訳が違います」
飯島は、作業中の車両のドアを開け、運転席を覗き込む。
「……エンジンは」
「あっ……確か、鍵をここに挿して――」
一度運転したことのある川田が、説明する。
「ハンドルは」
「良くも悪くも、“何もない”です。回転させただけ、曲がります」
「…………」
「お前は、運転できたのか」
「いえ……正直怖かったです。真衣さんの方がよっぽど――」
川田はそう口走り、止まった。
「真衣……真田さんのことか」
「は、はい」
まもなく、タイヤの換装が終わる。そうなれば、考えている時間が惜しくなる。
「正直に言う。俺は、このような車を運転したことがない。ここにあった車両は、“緊急事態用”に久世代表が用意していた、自動運転……またはそれに準ずるアシスト機能の運転経験しかない者にも扱えるようカスタムされた車両だ」
「この作戦は……ミスは許されない。もっとも、車両を失えば、ジュニアの生存は絶望的になるだろう」
「……今回は、バンを出す。バックアップ車両に、この車を」
飯島は指示を飛ばし、バンの方へ移動するようチームを促す。
「……バックアップ車両の運転は、真田真衣に頼みたい」
バンに乗り込む直前、飯島は川田に言った。
「……本気、ですか?」
「他に方法がない。本来運転手を務めるはずだった隊員を道案内につける。」
「俺は……反対です。彼女を危険な場所に送り出すのは――」
飯島は、反論しようとしたが、言葉を探すように戸惑った。
「……気持ちは、わかる。だが、俺も含め、あの車を、この状況で運転した経験のある存在に頼むのが、最も確実だ」
川田は、真衣の能力を疑っているのではない。
実際、彼女の運転で長い距離を移動したが、その技術は信頼に値するものだった。
だからこそ……川田が危惧しているのは――
◇◇◇◇◇◇
バンの中、運転席には飯島、助手席に川田。
後部座席に若林隊員と津田隊員。
襲撃作戦よりも、一人少ない編成。さらには、ジュニアもいない。状況によっては、かなり厳しい戦いになる。
(結局……真田さんはバックアップ車両担当として待機することになってしまった)
川田は、さまざまな焦燥感を胸に、外の様子を観察する。
時刻は午前九時を回った。不幸中の幸いか、今は保護作業と清掃活動の合間。出歩くロボットも少ない。
(それなら……この車両を壊さなければ、真田さんが戦場に出る必要もない)
バンは全速力で保護局を目指す。
とにかく、早ければ早い方が、ジュニアの生存率が上がる。
しかし――
「おかしい……」
飯島が言う。
「飯島さん」
川田も、気づいていた。
「少なすぎる」
そう。前回も、似たような時間に保護局を目指して出発していた。
その時は、武装こそしていなかったが、見回りをするように多くのロボットがうろついていた。
しかし、今は――
「やはり……保護局襲撃が関係してるんでしょうか。子供たちを他所に移送したから、ここはもう――」
「希望的観測はよせ。出発前にも言ったが、あらゆる可能性が考えられる」
車内に、緊張感が漂う。
――まもなく、保護局に到着する。
◇◇◇◇◇◇
飯島の判断で、保護局から少し離れたところに、バンが停まった。
「奴らがそこらじゅうのカメラにアクセスできる以上、バンを隠す意味は薄いが……奴らの目の前に付けるよりはマシだろう。川田、報告してくれ」
「はい。すれ違ったのは、全て汎用の作業用や、家事ロボット程度の性能のものです。最後に視界に入った個体がここまで真っ直ぐ追ってくるにしても、時間に余裕はあります」
「我々が近くに来ていることは割れてる。油断するな」
バンを降りた一行は、先頭を飯島、この後ろに川田、その両脇を若林隊員と津田隊員が挟む隊列で保護局を目指す。
「警戒を怠るなよ」
一度、大きな戦闘を経験して、分かったことがいくつかあった。
まず、奴らはある程度の指揮系統を持っている。
保護局襲撃に対して、手当たり次第ロボットを送り込むのではなく、ある程度ラインをコントロールしているようなそぶりがあった。
次に、戦闘能力の違い。
武器を持っている個体は脅威ではあるが、その脅威度には大きな開きがある。
本来、銃火器を使用する想定のないモデルは、銃を持ったところでさほど脅威ではない。銃についているアシスト機能すらろくに扱えないということは、前回の襲撃で確定事項として報告があった。
逆に、銃火器使用を想定したモデルの脅威度は、飯島たちの想定を上回っていた。
特に、最後にジュニアと対峙し、杏奈を手にかけたロボットは脅威的だった。
動くジュニアの銃撃の合間に、彼の心臓部を的確に撃ち抜く精度。
鉢合わせれば、無事では済まないほどの脅威だった。
(ジュニアさん……今度は、俺が――)
銃を握る川田の手に、力がこもった。




