↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人類保護区  作者: プロテイン長田
第7章「保護局襲撃作戦」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/45

第34話「帰還」

## 第34話「帰還」


### 【あらすじ】


 救出作戦は、残酷な結末を迎えた。


### 【本文】


 飯島部隊は、その場から動こうとしない川田を、引きずるように階下の撤退車両まで移動させた。


 ジュニアは、物言わぬ姿の杏奈を背負い、それに続く。


 足取りは重い。


 ロボットは、子どもたちの避難にその残りの人員を割いたようで、更なる攻撃はなかった。


 バックアップ車両は、バンタイプの車。


 飯島は助手席に座り、後部座席には部隊員たちが、荷台にジュニアが杏奈を寝かせ、川田はその横に座った。


 撤退が始まる。


◇◇◇◇◇◇


「……兄ちゃん」


 揺れる車内で、ジュニアが声をかける。


 返事はない。ただ、虚しい表情で杏奈を見つめる川田。


 ――心臓を撃たれ、ショック死。と飯島部隊の隊員は判断した。


 飯島たちが川田に追いついた直後、川田は飯島の部隊に、何とかしてくれと懇願した。


 ひたすら、絶叫するように頼み続けた。


 女性隊員が確認するまでもなく、すでに息を引き取っていることは明らかだったが、川田には正常な判断ができなくなっていた。


 飯島が川田を宥めると、しばらくして、川田は動かなくなった。


 絶望の淵に沈んだ。という表現が最適とすら思えるほどに、彼は何も喋らなくなった。


「済まねえ。俺がもっと素早く合流していれば――」


 ジュニアの自責も、川田には届かない。


 飯島たちも、かける言葉がなかった。


 彼らにとっては、ジュニアの回収という大目標は果たした。だが、だからといって、川田の家族の死が肯定できるはずもなかった。


 ただ、ひたすら無言の車内が、地下基地へと向かう。


◇◇◇◇◇◇


 地下基地の入り口、久世邸の門は、例にのっとり開け放たれていた。


 門の前には、二体の“偽装体”。


 彼らが出迎えれば、他のロボットの目を誤魔化すことができる。


 “この車両は異常なし”


 この大義名分が、今日までこの地下基地を存続させている。


 車はスロープを降り、地下基地の車両搬入口へ。


「……おい、そろそろ出るんだ」


 停車後、しばらくして、飯島が川田に促す。


「……杏奈さんは、我々で丁重に弔おう。できることはする」


 川田の拳が、強く握られる。


「…………済まなかった。ジャミング装置の使い方次第では、防げた死かもしれない」


「…………いえ」


 川田は、消え入るような声で言う。


「上階からの銃声は、突入直後に聞こえました。どちらにせよ、間に合っていません」


「…………まさか、自分を責めているのか」


「どうでしょう。俺たちが乗り込まなければ、杏奈は今も生きていたかもしれません」


「…………」


「それなら……だったら……たとえ一生会えなくても――どこかで生きていてくれたほうがずっとマシだった……!」


 川田はうずくまる。


 ガラガラと音を立てて、担架が到着した。


 杏奈の遺体が、乗せられる。


「…………川田。自分を責めるのはよせ。辛いだけだぞ」


 飯島が言う。


「……俺も、そうだった」


 杏奈が、運ばれていく。


 川田はうずくまったまま、動くことができなかった。


◇◇◇◇◇◇


「川田さん、迎えにきました」


 幾許かの時が経った。


 川田の前に、真衣と澪が現れた。


「……聞きました。奥さんのこと」


「…………」


 澪は、複雑そうな顔で、川田を見ていた。彼女の目にはクマが浮かび、彼女もまた、喪失に打ちのめされた一人だった。


「戻りましょう。ご飯もありますから」


「…………」


 川田は動かない。


「おっさん……なにやってんだよ」


 そんな川田の様子に痺れを切らしたのか、澪が口を開いた。


 真衣が驚いた表情で、澪を見る。


「……何やってんだよ――まだ、いるだろ……おっさんの家族――」


 川田は、澪を見る。


「絶望すんなら……全部失ってからにしろよ……!」


 彼女は怒っていた。


 自らの境遇。


 唯一の家族である両親を、同時に失った澪。


 一方で川田は、まだ……娘の千花を探さなくてはならない。


「……なに自分が一番不幸みたいな顔してんだよ――」


「…………すまん」


「川田さん……戻りましょう。きっと……大丈夫ですから」


「…………はい」


 川田はフラフラと立ち上がり、バンの荷台から降りる。


「澪……悪かった」


 川田はぼそりと言う。


 澪は、返事をしなかった。


◇◇◇◇◇◇


 その日の夜。


 真田真衣は、タブレット端末から、すべての小説を消した。


「……川田さん……ごめんなさい」


 真衣は、己を恥じた。


 川田たちが、家族を連れて無事に戻ったら、自分は身を引こうなどという考え。


 そして……一瞬でも、頭をよぎった想像。醜い感情。


 ――杏奈の代わりに、自分が川田の家族になる。


 たった一瞬の気の迷いだった。すぐに打ち消した想像だった。


 しかし、目の当たりにした現実から、真衣は自分を恥じた。


「私では、到底代わりなんて務まりませんね」


 また、自嘲するように笑い、タブレットの電源を落とした。


 明日は、どうしようか。


 安全な寝床はある。ロボットの脅威も、考えなくていい。


 それでも……この夜は、真衣にとって最も長く、辛い夜になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。