第32話「救出作戦」
## 第32話「救出作戦」
### 【あらすじ】
ついに川田とジュニアが再会した。
飯島率いる襲撃部隊は、ジュニアと川田に続いて、杏奈たちの待つショッピングモールへと向かうが――
### 【本文】
「連れてこられた連中は、向こうのショッピングモールに収容されてやがる」
「……だから保護局には人間がいなかったんですね――」
ショッピングモールへと移動しながら、川田はジュニアから状況を聞く。
「兄ちゃんのヨメさんだけじゃねえ……相当な人数いる。もうほとんど“保護”とやらは終わってるのかもな……で――」
ジュニアは後続の飯島部隊に目線を送る。
「俺たちは“思考同盟”が運営する地下基地の実働部隊だ」
「“思考同盟”だぁ……? 兄ちゃん……また胡散臭いところに転がり込んだな……」
「……ジュニアさんにとってはとりわけ……なんというか――相性悪そうですもんね」
「今はそれどころじゃない。とにかく目標であるお前を生きた状態で回収するのが俺たちの任務だ」
「そーかい」
ジュニアと飯島の部隊は、移動しながら周囲を警戒、ロボットを発見し次第、アサルトライフルの単発射撃で制圧していく。
「ヒュ〜! いい銃じゃねえか」
ジュニアは川田から受け取った銃を満足そうに眺める。
「……それは、久世代表が有事の際にも使えるようにとID認証機能を解除した特別な銃だ。言っておくが、カメラによる補助機能などは一切ないぞ」
「銃ってのは本来そういうもんだろうがよ」
川田も、ハンドガンを握って彼らの後をついて行っているが、今の所一切出番がない。
飯島たちはもちろんだが、ジュニアも射撃の腕がかなりいいようだ。
(そういえば……家に銃のコレクション、いろいろあったしな――)
「……で? タバコの姉ちゃんと、澪の嬢ちゃんはどうしてる?」
「あ……今は、彼らの地下基地に」
「嬢ちゃんの家族は? 見つかったか?」
「…………いえ」
「…………そうか」
ジュニアはそれ以上詮索しなかった。
「もうすぐだ。中にはロボットがウヨウヨ居やがるが、基本的には武装してねえ」
エントランス前の車道から様子を確認する一行。
「……だが、奴らが一番守りたいのはここにいる子供のはずだ。すでに、何かしらが送り込まれていると考えるべきだろーな」
作戦を考えている余裕はない。
――バックアップ車両が到着し、脱出するまでの猶予時間は長くない。
それまでに、杏奈と千花を探し出し、救出する。
「いくぞ兄ちゃん」
「はい」
川田の心に、恐怖はなかった。
それは、家族との再会を願う思いが生んだ勇気か、それとも――
◇◇◇◇◇◇
――けたたましいサイレンの音。
「……なに!?」
時刻は午前八時になろうかという頃。
杏奈はすでに起床し、配給の食事を準備していた。
『保護局より、緊急連絡。不審者が建物に侵入しました。指示に従い、避難を開始してください』
杏奈がいるのは、ショッピングモールの三階部分。もとはフードコートだった場所を改装して、ここに収容される人間が食事を取る食堂となっている。
「何……いったい何が――」
アナウンスが繰り返され、館内を大音量で満たす。
「不審者って……そんなこと――」
混乱する杏奈に目もくれず、ロボットたちはどこからともなくゾロゾロと現れ、階下へと降りていく。
「……千花――!」
ともかく、娘の安全を確保することが最優先と我に返った杏奈は、二階の居住区を目指して走る。
何台ものロボットとすれ違い、時にはぶつかりながら、必死で娘のいるはずの部屋に向かう。
この場所では、大人と子供の部屋は、明確に区別されている。
例え家族であっても一緒に寝ることは許されない。
杏奈の役目は、引率の先生。
子供たちとロボットたちの間に立ち、AIが果たそうとしている“何か”を円滑に進めるための存在。
――でも……今なら。
緊急事態の今なら、我が子を抱いて避難することができるかもしれない。
杏奈は、通りがかりに停止したエスカレーターの吹き抜けから階下を見る。
――銃声。思わず一瞬、目を閉じる。
見下ろした先に見えたのは、銃を持ったロボットたち。
杏奈はそのまま急いで娘の部屋に向かうために停止したエスカレーターを下る。
すでに、ロボットによる避難指示が、子供たちを整列させどこかに向かわせ始めていた。未就学児は、育児用ロボットが抱えて避難させるようだ。大人や中高生の姿もちらほらと見える。彼らは杏奈と同じ、何かしらの役割のために連れてこられた人たちだろう。
杏奈は流れるように視線を走らせ、その避難の列に娘がいないか確認しながら、走る。
(……非常階段から、下に向かって……?)
ロボットの指示を断片的に聞く杏奈。
おそらく、非常階段を使って、裏口から子供たちを逃す手筈のようだ。
避難の列を作る子供たちは、多くが不安の表情。怯え、泣き出す子も少なくない。
列を乱したり、逃げ出そうとする子どもは、ロボットが丁寧に回収し、列に戻す。
AI搭載のロボットらしい見事な避難行動。
手のかかる子には、一対一でロボットを配置する。
これなら、ものの数分で子供たちは外に――
「千花っ……! どこ……? どこにいるの!?」
焦りからか、杏奈は叫びながら我が子を探す。
列を作る人たちが、一斉に杏奈に注目した。
『避難行動の妨げになります。そのような行動はお控えください』
近くにいたロボットが、杏奈に警告する。
「あ、あの……! 娘が……娘の千花はどこに……!」
『現在は避難が最優先です。個人単位の検索は受け付けておりません』
ロボットはそのまま業務に戻る。
「待って! 千花……! どこなの……!?」
『繰り返し警告します。避難を妨げる行動はお控えください』
ロボットの警告を無視し、杏奈は取り乱しながら我が子を探す。
『どうかしましたか!』
すると、一体のロボットが突然、底抜けに明るい声でそう言った。
杏奈の前に立ち塞がっていたロボットは、その声を聞くと、すぐに元の業務に戻った。
『あなたは……引率の先生ですね! はい! 娘さんが、心配ですよね! すぐにご案内しますよ!』
代わりに杏奈の前に現れたのは、白と黒のツートンカラーが特徴的な、他のロボットたちよりも明らかに金のかかっていそうな個体だった。
「ほ、本当ですか……! す、すぐに娘のところに――」
『こちらです!』
杏奈は、そのロボットの先導についていく。
避難の列から、どんどん遠ざかり、居住区の端へ、端へと。
「あ、あの……ほ、本当に千花はこっちに――」
子供たちの混乱、階下の銃声が遠のき、杏奈の頭の中の混乱、焦りが少しだけ和らぐ。
その時――
(あ……)
強烈にフラッシュバックした、“あの時”の会話。機械の眼を持つ男が教えてくれたこと――
――AIが、人を殺す。
杏奈は、まだその現場に遭遇していない。
学校からこの場所に連れてこられ、指示に従う限りは安全だと悟り、そうしてきた。
だが今……娘と離れ離れになる恐怖から――
歯向かってしまった。
「っ……!」
先導していたロボットが、くるりと振り返る。
その手には、銃――




