第31話「残された者たち」
## 第31話「残された者たち」
### 【あらすじ】
襲撃作戦は順調に進んでいた。しかし、ロボットの鎮圧部隊が指揮系統をもつ可能性を感じると、状況は一変。苦しい状況の中、“目標発見”の報告が飛ぶ。その同時期、地下基地に残った真衣は――
### 【本文】
川田さんが、基地の人たちと、保護局襲撃に向かった。
澪の両親が亡くなっていたことがわかった翌朝のことだった。
澪は泣き疲れて眠ってから、一度も目を覚まさない。
――私は、どうしてここにいる?
自分でも意味のない問いだと分かりながら、そんな自問を止めることができない。
食糧を求めて、川田さんに出会った。
生き残るために、マンションを出た。
そして、ジュニアさんに出会った。
彼の善意に触れ、死の恐怖に耐えた澪に出会った。
そして、今、ここにいる。
地下基地の地上で、倒れる川田さんと澪を見た時。
私は、死のうとした。
この二人の最期を見届けたなら、もうこの世に生きている理由などなかった。
自分でも驚くほど、心からそう思った。
――二人は、家族の命に、あれだけ心を痛めているのに、私は。
自分は死んでも構わないと、思っているのか?
――私は、二人の家族のためなら、この命を失っても構わないと、思っている。
矛盾した感情だ。
だが、実際はどうだ。
澪の家族は、もういなかった。
川田さんの家族を探しに行く部隊に、私はいない。
目の前で眠る澪を慰めることすら、できない。
――決めた。
もし、川田さんが無事、家族と一緒に帰って来たら、私はここを去ろう。
澪は、きっと、川田さんと、その家族が面倒を見てくれる。
そこに私がいても……迷惑なだけだ。
でも、もし……。
もし……何?
今、私は何を……?
何を考えて……!
違う……! 違う違う違う!
そんなこと、願ってない!
願っていいはずが、ない……!
◇◇◇◇◇◇
夫が、生きていた。
それを知らせたのは、明らかに一般人ではない風貌の男だった。
男がサングラスを外すと、その目は、奇妙に輝いていた。サイボーグ、というものらしい。
夫の仕事柄、様々なAI製品を見てきたが、このようなことも可能なのだと驚かされる。
だが、驚きはそれだけではなかった。
学校からこの場所に連れてこられ、今の今まで、外の世界で起こっていたらしいことは、にわかには信じられないことだった。
もちろん、この男の言うことを全て信じるわけではない。でも、千花のこと、夫のこと。その内容は真実だった。この男が夫と会ったのは、間違いない。
AIが、人を殺す。
信じがたいこと……ではあったが、その片鱗は、私も目にしていた。
子供たちを移送する前、抵抗した職員に、ロボットたちは“何か”をした。
おそらく、テーザーのような、何か。抵抗する大人を無力化し、どこかへ連れて行った。
この男の口ぶりから……おそらく。いや、深く考えるのはよそう。
今すぐにでも、夫に会いたい。会って、お互いの無事を喜び合いたい。
でも……最後にその男が伝えた事実が、今もなお、私の心を離れない。
「兄ちゃんは……もう清掃の対象だ。ここで家族仲良く……とは、いかん。お前さんの夫が目の前に現れた時、どうするかは……いや、野暮な話だったな。ただ一つ、伝える」
男の機械の目が、まるで慈悲深い神父のように感じたのは、気のせいではないはずだ。
「川田拓……その男は、正真正銘命をかけて家族を探していたぜ」
男はそう言うと、「仕事だ」と言って立ち去った。
――清掃の対象。
それが意味することは、わかる。
ここは、安全だ。
でもそれは、私と、千花にとっての安全。
夫の居場所は、ここにはない。
では、どうすれば――
あれだけ心から願った夫との再会が、今では少し……少しだけ、怖い。
◇◇◇◇◇◇
「ウオオオオオ!!!」
雄叫びを上げながら、銃を撃つジュニアの姿は、まごうことなき豪傑だった。
「目標を守れ!!」
「了解!」
保護局の一階で合流した襲撃部隊は、全員がジュニアを目視できるところまで来ていた。
「警察配備型から狙え! 基板に当たらなくても良い!」
こんな場面でも、飯島の指示は的確だった。
ジュニアと飯島の部隊に挟まれ、ロボットたちは判断を迫られた。AIの判断は、人数の少ないジュニア側にフォーカスを合わせることだった。襲撃部隊に背を向ける。
挟撃の片面を突破すれば、この不利な盤面を覆せるとの判断だろう。
だが、それは悪手だった。
殲滅力の高い飯島の部隊が、正確に相手のメイン火力を突く。
数体確認されていた警察配備型ロボットが無力化されると、残りもまもなく制圧された。
「ジュニアさん!!」
川田はジュニアに呼びかける。
「川田の兄ちゃん……! まさかとは思ったが、本当に来てたとはな。こちらさんは?」
「話は後だ! 撤退するぞ!」
飯島が叫ぶ。
「撤退って、コレでか?」
ジュニアが敵から奪ったであろう銃の銃口で、川田たちが乗って来た車を指す。
ボンネットをはじめ、大量の銃弾を受け、穴だらけになっている。
隊員の一人が確認すると、どうやらエンジンすらかからないようだ。
「まもなくバックアップ車両が来る。それまではここで耐えるぞ」
隊列を組み直す部隊員たち。
「じゃ、オレたちはそれまで“人探し”だな」
「そ、それって!?」
「決まってんだろ、ヨメさんとこ行くぞ」
川田の体に熱が走る。
「杏奈に会ったんですか!?」
「会ったもなにも。お前さんの無事も知らせておいたぜ。泣いて喜んでたぞ。良い奥さん持ったな」
川田は、涙を堪え、ジュニアに頭を下げた。
「礼は全部片付いてから聞く。行くぞ、その立派な武器はオレが使うが良いか?」
「ちょっと待て! 許可できん!」
立ち去ろうとするジュニアと川田に、飯島が叫んだ。
「なーんだよ! せっかくの夫婦水入らずを演出しようってんだ邪魔すんなよ」
「我々は、お前を保護するために来たんだ! リスク行動は許容できん!」
「あー……詳しいことは後で聞かせてもらう」
「っ……勝手なことを――どこに向かうつもりだ!」
「そこにバカでかいショッピングモールがあるだろ? そこに保護された子供たちと、連れてこられた連中が住んでんだ」
「…………おい、バックアップ隊に連絡! 合流ポイントをショッピングモールに変更!」
「た、隊長!? 良いんですか!?」
「良いからやれ! 目標を守るぞ!」
川田は、飯島の判断に驚いた。
銃を向けてでも止められそうな予感があったが、飯島は折れた。
(もしかして……俺の家族のこと……)
川田はジュニアにも、飯島にも、心から感謝した。
(待っていてくれ、杏奈、千花……すぐ迎えに行く――!)




