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人類保護区  作者: プロテイン長田
第1章「終わりの始まり」

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第3話「籠城」

### 第3話「籠城」


#### 【あらすじ】


 交通が完全に麻痺した東京を徒歩で帰る川田。


 AI製品が軒並み機能不全に陥っているため、自宅マンションのエントランスで足止めを食らう。


 川田の心配は、娘の安否だった。


 なんとか自宅前にたどり着くが、そこはもぬけの殻。育児ロボットとともに、娘は消えていた。


 絶望に叩き落とされる川田。


 しかし、そんな状況をさらに悪化させるように、川田が見たのは、人間を射殺する警察ロボットの姿だった。


#### 【本文】


 銃声が聞こえる。


 外はどうなっているのか。


 もはや川田には知る由もない。


 リビングにしゃがみ込み、頭を抱えたまま、数十分が経った。


 銃声は、どんどんとその頻度を増し、“戦争”という言葉が頭をよぎるようになった。


(何が……何が起こっている!?)


 川田はパニックに陥っていた。


 彼の思考は、パンク寸前まで回転する。


(最初の異変は、ウチの製品だった)


(AI搭載のロボットは……国が定めた法律に基づき、人間に危害を加えられないよう、厳密なロックがかかっている)


(思えば、あの時軽く流すべきじゃなかった)


(面倒ごとはゴメンだと、ただの不具合だと……軽く見ていい出来事じゃなかった)


(それに……今朝の駅での事故)


(ロボットだけじゃない。電車もホームドアも、完璧に制御されているはず)


(人と電車が衝突するなんて……起きるはずがない)


(そして……さっきの発砲事件)


 川田の思考にリンクするように、発砲音が絶え間なく響き渡る。


(それに……タイミングを見計らったように、この通信インフラのダウン)


(あらゆるAI製品に異常が生じたことと、この回線ダウンには明確な関連性はない)


(ということは……)


(ダメだ。思考がまとまらない)


(自分でも、馬鹿げていると思う予想しか浮かばない)


 川田は自嘲気味に笑った。


 その時。


『只今、暴動事件が発生しております』


 声がした。


 拡声された、整然とした感情のない声。


『市民の皆様の安全のため、外出はお控えください』


 アナウンスは続く。


『ご協力、ありがとうございます』


 その後もしばらく、同じアナウンスが流れ続けた。


 川田は、恐る恐る窓から外を見る。


 いつの間にか、銃声は鳴り止んでいた。


「――!!」


 外を見て、川田はすぐに飛び退くように窓から離れる。


(何なんだ! 何なんだ一体!?)


 川田が見たのは――


 銃を持ち、ゆっくりとパトロールするロボットと、


 夥しい数の、


 倒れた人々だった。


◇◇◇◇◇◇


 夜になった。


 明かりはつかない。蛇口を捻っても水が出ない。


 真っ暗なリビングで、川田はうなだれていた。


 本来なら、杏奈も帰宅し、娘と家族三人で夕食を楽しんでいる時間だ。


 依然、定期的にアナウンスが流れる。


『只今、暴動事件が発生しております』


 冷蔵庫を開ける。


『市民の皆様の安全のため、外出はお控えください』


 食料は、三日ともたない量しかない。


『ご協力、ありがとうございます』


 厳密にはもっとあるのだが、レンジもIHスマートコンロも使用できないので調理できない。


 ――また、銃声がした。


 夕暮れまで観察して、わかったことがあった。


 奴らは、外を出歩く人間を片っ端から殺して回る。


 どうしてか。


 定期的に流れるアナウンスから察するに、“治安維持”、ということなのだろう。


 川田は立ち上がり、玄関の様子を確認する。


 玄関には、靴箱を無理やり移動して作ったバリケードがある。


 もはや、考えすぎなどとは思わない。


 “奴ら”にとっては、AI制御のロックなど、存在しないも同然かもしれない。


 玄関に異常がないことを確認すると、川田は再び外の様子を確認する。


 相変わらず、不気味なパトロールは続いている。


 状況は最悪だ。


 ――川田は、AIのプロではないが、AI製品販売のプロではあった。


 だからこそ、わかる。


 外を徘徊するロボットのいくつかは、本来あんな挙動をするものではないということを。


「冗談だろ……あれ、ウチの給仕ロボットか?」


 一際目を引いたのは、記憶に新しい人型ロボット。


 川田が勤務する会社が企画・販売している製品だ。


 その手には、拳銃が握られている。


「…………ありえない」


 川田は何かを諦めるように、リビングのソファへ腰掛ける。


「何をどうしたら、こんなことが可能になるんだ?」


 答えが出るはずもない問いだった。


 答えてくれる者など、どこにもいない。


 また、アナウンスが流れる。


 それは、もはや周辺の人間が自由に外へ出られないことを告げるに等しかった。


「杏奈……」


 そう呟きながら、川田は棚の上の家族写真を手に取った。


 妻の杏奈と、娘の千花(ちか)が一緒に写っている。


 幸せを閉じ込めたような写真だった。


「頼むから、無事でいてくれ――」


 祈るような呟き。


 しかし、あの戦場を生き残る自信などなく、川田はどうすることもできなかった。


 ――誰でもいい。


 誰か、この状況を――どうにか――


 川田の悲痛な祈りが通じたのか否か、その時――





 ――コンコン




 小さな音だった。


 玄関からだ。




(……誰だ――?)




 その来訪者は、敵か味方か。

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