第29話「襲撃」
## 第29話「襲撃」
### 【あらすじ】
ジュニアの体は、AIの支配から人類を解き放つのに必要だと語る久世老人。
その最初の足がかりは、最寄りの保護局を襲撃すること。期せずして、家族とジュニアを探しに保護局へ向かいたい川田と利害が一致したが――
### 【本文】
翌日午前七時すぎ、川田は車に乗り込んでいた。
運転は、“隊長”こと飯島聡。助手席に川田。
後部座席には、武装した三人の男女。
川田を含め、全員がフルオートタイプのアサルトライフルを装備している。
『作戦には同意します……ですが――』
川田は、移動しながら昨晩のやりとりを思い出していた。
『俺は、保護局にいる家族と……ジュニアさんの安全を最優先に行動します』
『かまわん。もとより、ジュニアくんは最優先目標だ』
依然として、ジュニアを“物”のように言う久世老人の言葉に引っかかりながらも、川田はそれを了承した。
「……何を考えているかは知らんが、優先順位を間違えるなよ」
飯島が、川田に言う。
「わかってます」
「全く……代表は何を考えているんだ。こんな素人を現場によこすなんて――」
飯島という男は、川田をよく思っていないようだった。
それは初対面の時から薄々感じていた。しかし、その態度は川田、真衣、澪が家族でないことを知ってから、少し和らいでいた。
「……久世さんが言うには、ジュニアさんの人相を知っていて……彼と信頼関係がある人間は連れていくべきだ――とのことで」
「それはこちらも把握している。だがな……守る対象が増えたという自覚はしてくれ」
「……一応、俺もロボットと何度か戦闘してます」
「そうか……いや、そうでもなければ生き残って基地まで辿り着けないということだろうな」
飯島はそう言いながら、淡々と運転を続ける。
「……俺の家族で、同盟員は俺だけだった」
「…………」
「俺も、家族にAI製品を使うことを禁止はしなかった。その危険性を理解し、リスクを負う選択をすることを、止めはしなかった」
飯島は、ぽつりぽつりと話し始める。
「だが、それが俺の甘さだった」
「俺は警視庁の機動隊員だった。騒動が起こった時――俺が別件の応援で詰めていた署のロボットが誤作動……いや、今思えばあれは正常な動作だったんだな――とにかく、銃を持って騒ぎ始めた」
「ロボットは高価だ。即時鎮圧しようとする俺を、周りは止めた。強制終了やメンテナンスモードに移行しようと試行錯誤している間に、三人撃たれた。一瞬の出来事だった。」
「俺は即座に引き金を引いた。ロボットが動かなくなるまで、撃ちまくった。その間に、また二人撃たれた」
川田は、その飯島の言葉を噛み締めるように聞く。
「ロボットは動かなくなった。だが、署に配備されたロボットは一体じゃない。すぐに署の至る所から銃撃音が聞こえるようになった」
「清掃や土木作業用のロボットすら、銃を拾いこちらに牙を剥いた」
「すぐに、動ける人間より銃を持つロボットの数が上回った」
「もうダメだというのは、誰の目にも明らかだった。俺は、近くにいたこいつらを含めた数人を連れて、逃げた」
後部座席の三人が顔を伏せる。
「銃撃から身を隠し、時には応戦した。最終的に署を脱出できたのは、俺と後ろにいる三人だけだ」
――凄惨。という言葉以外、見つからないような体験談。
「そして……署の外で、信じられない光景を見た」
「市民に銃を向けるロボット。この騒ぎは、署内だけの出来事じゃなかった」
「助けを求めるように、署に向かう人間も多かった。だが、その先も、地獄そのもの」
「その中には……妻の姿もあった」
「…………撃たれたよ。俺の目の前で」
「買い物帰り……だったんだろうな。まっすぐ家に帰っていれば……もしかしたら今も――」
飯島の声が震える。
「俺はな、今もすれ違うロボットどもを撃ち殺したくてたまらない衝動に駆られてるんだよ。もちろん、そんなことをしても何の復讐にもなりゃしねえけどな」
自嘲的な笑み。
「基地に来たお前たちを初めて見た時のことも教えておこう」
「俺は……お前たちに嫉妬した」
「家族を連れて、生き残ったお前たちを」
「だが……それで、自分の浅ましさを知った」
「もう……そういう状況じゃねえんだ。俺もお前も、家族とか、仲間とか……同僚とか、そんな繋がりは吹けば飛ぶ。そんな状況だ」
「飯島さん……」
「お前の家族はまだ生きてるんだろ」
「はい」
「死んでも守れよ」
「…………はい」
「俺は……俺たちは……どこまで面倒見れるかわからん。地下基地だって、いつまで持つかわからん。保護局の監視をどうにかしなくちゃ、食料も水も減る一方だ。電気だって、発電がすでに追いついてねえ」
「……この作戦は、俺たちの未来がかかってる」
「隊長! 武器持ちが、一時の方向!」
「クソ……! 時間外とはいえ保護局の周辺はやっぱりうろついてやがるな――」
川田の視界に一瞬映ったのは、ハンドガンを持つ警察配備型のロボット。
こちらに気づくや否や、躊躇なく引き金を引いてくる。
「頭下げろ!」
「うおっ!?」
正確に運転席を狙った銃撃は、飯島の急ハンドルで回避。
飯島の叫びで咄嗟に頭を下げた川田。
「迂回する!」
「ナビします!」
飯島の宣言に、後部座席の女性隊員が答える。
その後も、何度も武器を持ったロボットに遭遇し、その度に進行方向を変え、それでもなお、車は保護局に向かって進む。
(作戦は……保護局についたら車を降りて……俺は飯島さんについて行く。一階部分を制圧して、捜索部隊と警戒部隊に分かれる。ジュニアさんを発見し次第、撤退戦に移行。車両が破壊された時のバックアップとして、地下基地に車両が待機。飯島さんが車両手配をすれば、緊急発進する手筈だ)
素人の川田には、この作戦の是非はわからない。
だが、すでに多くのロボットにこの車両は捕捉されている。保護局が狙われていることがわかれば、AIたちがどんな抵抗してくるかは、想像に難くない。
「突っ込むぞ!!」
飯島が叫ぶ。
車は、速度を落とさず、保護局……その元々、役所として使われていた名残であろうタクシー乗り場に入っていく。
「展開!」
飯島の号令で、後部座席の三人が車外に飛び出す。
視界に入っていたロボットを即座に撃ち抜き、ハンドサインで進行方向を示す。
エントランスの柱の合間から、保護局の正面入り口を確認する。
「想像より多いな……!」
「飯島さん! あれ、ほとんど充電中です!」
「それがどうした!」
「あのタイプは充電中、スリープ状態に入ります! 外部からの入力があるか満充電にならないと、自発的には動きません!」
川田は叫ぶ。
「突入! 一発で仕留めろ! 奴らが目覚める前に!」
飯島は即座に判断を下し、指示を飛ばす。
隊員の一人が先行し、ライフルの銃床で入り口の自動ドアのガラスを破壊する。
川田は一瞬、ロボットたちに目をやるが、反応はない。
(……そうだよな。警察配備型はいない。汎用型は外部からの入力がないとスリープから復帰しない……!)
飯島たちが突入すると、充電中のロボットを片っ端から撃っていく。
川田の事前指示通り、胸部の基板部分を正確に打ち抜く隊員たち。
川田はそれに続いて、ロボットの機能停止を確認していく。
そのうちの数体は、手に銃が握られていた。
「武装解除、忘れるなよ!」
飯島に言われるまでもなく、隊員たちはロボットの手から銃を抜き取り、弾倉を抜く。スライドを引き、装填済みの弾も抜く。丁寧にその弾も回収した。
飯島曰く、武器がある限り、武器持ちのロボットは減らないらしい。武器の無力化は重要な作戦の要だった。
「一階部分の捜索を開始する! 油断するなよ!」
飯島の号令で、隊列を組んでの一階部分の捜索が始まる。
(…………本当に、ここに杏奈たちが……いるのか?)
川田には、すでにある違和感があった。
あまりにも無機質な室内。
人間が暮らしている雰囲気は、微塵も感じない。
しかし――探すしかない。
一縷の望みに縋るように、飯島隊は進む。
◇◇◇◇◇◇
同時刻。
保護局から少し離れた居住区。
「…………マジかよ」
ジュニアの機能追加までの繋ぎとして、保護局から与えられていた端末からの連絡。
『保護局に襲撃。男女五名。武装確認。鎮圧に向かってください』
「…………まさか、兄ちゃんたちじゃねよな……?」
ジュニアの足が、一瞬杏奈たちの部屋に向く。
だが、すぐに踵を返し、ジュニアは保護局に向かった。




