第28話「ジュニア」
## 第28話「ジュニア」
### 【あらすじ】
久世老人から、彼らの目的を聞く川田。
それには、AI基板を持ちつつ、人間の思考で行動できるジュニアが必要だという。
そのために保護局襲撃を計画しているというが――
### 【本文】
――時間は、ジュニアが川田たちを残して自宅を発った直後に遡る。
「……なんで徒歩なんだよ」
「ご迷惑をおかけします! ですが、燃料も電気も貴重ですので!」
川田、真衣、澪を残し、ロボットと自宅を発ったジュニアは、深夜の東京を徒歩で移動していた。
「その“保護局”ってのはどこにあんだ」
「区役所を使わせていただいています! 保護した子供たちは、近隣の施設で生活してますね!」
「そうか……で、俺はこれからどうなるんだ?」
「保護局で専門の知識を持つAIが、あなたの基板をチェックし、合致する部品を確認します! 部品を手配したら実装し、作業は完了です!」
「……俺の基板に合致する部品があるとは思えねえがなぁ」
「専門外AIの回答で恐縮ですが、それは鋭い意見だと思います!」
「気持ち悪りぃ日本語だな」
「部品の手配中は、保護局で一般作業に従事していただきます!」
「そうかよ……具体的には?」
「保護した人間の健康状態の確認や、食事の配膳、保護局員として連れてきた教師の授業を監視したりです!」
「…………そうか」
ジュニアは、この場でこのロボットを破壊して逃げることもできた。
すでに自宅は遠く離れている。川田たちにとっては、今日の保護作業を凌いだと考えていいだろう。
だからこそ、ここでジュニアが逃げ出しても、川田たちに危険が及ぶ可能性は低い。
しかし――ジュニアがそうしない理由は一つ。
(好都合だな……部品がすぐに到着するようなことがなければ、川田の兄ちゃんの家族を探す余裕くらいはありそうだ)
ジュニアは川田の家族を気にかけていたのだ。
(……車も食事も、逃げるのに必要なもんは揃えた……それでも、何日持つかわからねえ。俺が保護局で何とか……兄ちゃんたちを助ける方法を見つけねえと)
同時に、残してきた川田たちの安否も、ジュニアの行動を支えていた。
(こうして俺が自由に物考えられんのも、相互通信機能がない今だからこそだ。時間はない……と考えるのが妥当だろうな)
そんなことを考えながら、ジュニアはゆっくりと保護局に向かう。
◇◇◇◇◇◇
「大変申し訳ございませんが、部品の手配は数日かかるようです」
その後、保護局に到着したジュニアは、聞いた通り、やけに大量のカメラが搭載されたエンジニアロボットの調査を受け、相互通信化に必要な部品を見定められた。
ジュニアの想像通り、サイボーグに使用できる部品は珍しく、到着まで数日かかるようだった。
川田たちのいる地下基地とは異なり、地上の建物を改造して造られた保護局。
もとは、近隣の住民の様々な手続きを請け負う役所だった。
しかし――騒動勃発から幾日で内装は様変わりし、“保護局”と一目でわかる様相になっていた。
人間が座るような椅子や作業に必要な椅子は悉く撤去され、代わりにAIロボットが充電するためのブースが配備されていた。
ジュニアは若干の抵抗感を示しながらも、自身の胸部パネルを開け、端子を挿した。
(気持ち悪りぃな……一応、食事からエネルギーを作る機能、あんだけどな――)
無論、この状況で人間の食事を要求するのは不自然極まりない。
エンジニアロボットはジュニアがサイボーグであることを理解していたようだが、問題にはならなかった。であれば、これ以上詮索されないようにするのが無難だ。
「これか……」
その後、ジュニアに課されたのは保護した人間を収容する保護施設の巡回。
訪れたのは、通りを挟んだすぐ隣にあるショッピングモール。
二階部分が大幅に改造され、見事な居住空間が作り出されていた。
「こういう仕事は、ムカつくほど優秀なんだよなぁ」
ジュニアはその居住区のクオリティに毒づく。
確認すると、一部屋に二人程度の子供が収容されているようだった。未就学児は、一人につき一部屋。必ず育児用ロボットが配備されている徹底ぶりだ。
「さて……川田の兄ちゃんの家族を探すには……」
幸いなことに、部屋ごとに表札が掲げられており、中に誰がいるのかは容易に把握できた。
ジュニアは、隅から隅へとその表札を確認していく。
――川田、真田、朝倉。
ジュニアが出会った人の名前が、ぐるぐると彼の頭を駆け巡る。
ジュニアにとって、彼らにとってのそれに該当するものは、型番しか知らない執事ロボットだった。
「あいつにも、名前くらいつけてやればよかったか」
呟く。
しかし、その後悔ももう遅かった。
◇◇◇◇◇◇
――半分ほど回っただろうか。
外が明るくなってきた。
「なんでこんなアナログな探し方しなきゃならねえんだか……川田って苗字……そんなに奥に行くことあんのか?」
そう呟いた直後――
「川田……今、あなた、川田って言いましたか!?」
女性の声だ。
ジュニアが振り返ると――
「お前……もしかして、兄ちゃん――いや、川田拓の――」
「なっ……あなた、主人を……私の夫を知ってるんですか!?」
泣きそうな顔でそう言う女性。
間違いない。彼女は――
川田拓の妻、川田杏奈だ。




