第25話「情報」
## 第25話「情報」
### 【あらすじ】
澪との会話で、彼女が家族の生存に希望を抱いている事を聞いた川田。
一方、地下基地を運営する“思考同盟”代表、久世慶三はジュニアの情報から保護局襲撃作戦の前倒しを決め――
### 【本文】
「な、なんだ、これ――」
地下基地の最下層、地下四階。
――情報統括ブース。
川田、真衣、澪の三人はその場所の情報の多さに辟易していた。
何十人もの人が机に向かい、キーボードを叩いている。
壁一面には周辺の地図やさまざまな情報が書かれた紙が貼られている。
「あら、来たのね」
見覚えのある人物が、川田たちに気づき近づいてきた。
「あ……榊さん、でしたっけ」
「覚えていてくれたのね。嬉しいわ」
「まあ……あんなことがあった後でしたから」
「それもそうね」
「川田さん……この方は?」
「麻酔で眠った俺たちを診てくれていた人です。えーっと――」
「榊詩乃。ここのデータ研究者も兼任してるわ」
「データ研究?」
川田が周囲を見回すと、確かにそれらしい空間ではある。
机に向かった研究員が叩くキーボードは、古めかしい機械に接続されている。その機械についている著しく解像度の低いモニターのようなものには、情報の羅列。
「意味、わかるかしら?」
「え? あ、はい……まぁ大体は」
「さすが、元AI企業戦士」
榊女医は嬉しそうに言う。
川田はモニターに指を指しながら説明を始めた。
「これは野外清掃用ロボットの型番ですね。で、こっちに映ってるのがその外観。あとは類似のバージョン違い機が並んでいて……こっちの数字は――」
「東京都第三地区に配備されている該当機の台数よ」
川田の説明に、榊女医が補足した。
「そ、それって――」
「そう。ここでは地上のAI機器の活動についてモニタリングしてるの」
「そ、そんなことできるのかよ」
ここで初めて、澪が施設の設備に食いついた。
「できるわ。そのために、あの“偽装体”を作ったんだから」
「“偽装体”って――あの、俺たちを襲った?」
「襲っただなんて人聞きが悪いわね。あれは正当な防衛じゃないかしら? 最初に車で突っ込んできたのはそっちなんだし」
「いや……それは――」
「まあまあ、それは置いておいて、今は必要な事を話しましょう? 代表がここに入ることを許可したってことは、聞きたいことがあるんじゃない?」
榊女医は川田を見る。
「……聞きたいこと、ですか」
川田はちらりと澪を見た。
澪は、その川田の目線の動きに気づいてか、顔を伏せた。
(……自分からは、流石に言い出せないか)
「聞きたいことは、あります。ですがその前に――教えてもらえませんか。偽装体の仕組みについて」
「……え〜?」
榊女医は困ったように小首を傾げた。
「な、なんですかその反応」
「だって……どこまで話していいかわからないんだもの」
「…………俺たちは、ここに住まわせてもらってる身ですから……話せない事を聞く気はありません」
「そう言ってくれるのはありがたいんだけど……」
榊女医は数秒考えると、続ける。
「まあ、仕組みを知られたところでどうこうなるものじゃないから、ま、いいかな!」
(いいんだ……)
榊女医は空いているモニターの前に座ると、キーボードを叩いた。
「これが“偽装体”ね」
モニターに映し出された画像を、川田、真衣、澪の三人が見る。
「銀の個体が汎用機。金の個体が戦闘特化機体ね」
「戦闘特化……」
「代表が昔から色々便利に使ってたペーパーカンパニーがあってね。この機体はそこが開発したAI機能搭載汎用ロボットとして登録されてるの」
「…………なる、ほど」
「あら? もうわかったのかしら」
「なんとなくは……」
「聞かせて」
「……AI基板が入っている……でも、操作は人間が遠隔で行う。製品自体はAIロボットとして登録されているから、地上で他のAIロボットとコンタクトしても怪しまれない……こんなところですか」
川田の話を聞いて、榊女医は目を見開いた。
「驚いた……その情報だけでそこまで推理できるのはすごいわよ」
「じゃ、じゃあ……この場所が他のロボットから狙われないのは――」
「そう。この場所はうちのロボットが毎日“調査済み”。ここにはもう誰もいないし、誰も来ていない」
川田は言葉を失った。
久世老人は、どこまで予想していたのだろうか。
このAI製品による異常事態。
ロボットによる人類の殺害。子供を回収するように攫うこと。
この地下基地も、金銀のロボット“偽装体”も。この事態を想定していたかのように用意周到に準備されていた。
――まさか、と最悪の想像が頭をよぎる。
「さらに、“偽装体”は“セントラル”からの情報も受信できるわ」
「……“セントラル”?」
「ジュニアさんを連れて行ったロボットが、そんなことを言ってた……と、思います」
「……今のところ、“セントラル”は各AI製品に指令を出している“何か”……だと考えてる」
「まだ、その辺は研究中って事ですか」
「そうね。しかも、各AI製品がアクセスできる情報も“偽装体”からアクセスできる。もちろん、怪しまれない範囲でだけど」
「…………その情報に、“住民情報”……みたいなのはありますか?」
川田は、思い切って聞いた。
榊女医を含む、全員に一瞬の間が生まれる。
「こういう仕組みには……さすが詳しいわね。ええ。あるわよ。ここにいるロボットが担当する東京都第三地区。その住民たちの管理情報リスト」
――住民の管理情報リスト。
川田は確信した。
ロボットたちは、その情報をもとに保護と清掃を行っている。
その結果は、リストに記載されるのだろう。
なら――
川田の家族も、澪の家族も。真衣の家族は――どこに住んでいるか川田はまだ聞いていないが――
わかる。わかるはずだ。
今、どうなっているのかが。




