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人類保護区  作者: プロテイン長田
第5章「地下基地」

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第24話「対話」

## 第24話「対話」


### 【あらすじ】


 地下基地で、“思考同盟”の代表、久世との交渉に臨んだ川田たち。


 車に満載してきた物資と、彼らにとっては有用な情報であったらしいジュニアの情報から、川田たちは地下基地で生活することを許される。


 割り当てられた部屋で、澪と二人きりになる川田。


 それは、家族を失ったかもしれない彼女と話す絶好の機会で――


### 【本文】


 沈黙。ただ、それだけがしばらく続いた。


 割り当てられた“二等級”の部屋は狭い。


 この沈黙を誤魔化すためのものもない。


 この施設は、AI製品をことごとく排除した、現代人からしたら“異空間”とも言える場所。川田もそれは重々承知している。


(何を……話せっていうんだ)


 川田は心の中でつぶやいた。


 澪は、ただ座ったまま虚空を見つめている。


 感情を読み取ることもできない。この場所に来てから、彼女はずっとこの調子だ。


(慰める……べきなんだろう。それが、澪を保護した“大人の責任”。それは理解している……でも――)


 川田は、まだ……家族が生きているかもしれないという希望がある。


 妻の杏奈と、娘の千花。


 “引率の先生”として千花と共に連れて行かれたらしいという情報は、川田の心の支えとなっていた。


 そして――その情報をくれたのは、紛れもなく、ここにいる澪なのだ。


 そんな事情を差し置いて、彼女に慰めの言葉をかけることは、川田にはできなかった。


「…………家に帰りたい」


 先に口を開いたのは、澪だった。


 川田に向けられた言葉ではなかった。


 ただ、心の底から出たつぶやき。


「……澪」


 彼女は、今、何を考えているのか。


 それは、想像できた。少し前まで、家族の安否がわからなかった川田も、同じ気持ちだった。


「パパ……ママ……」


 澪の目から、涙が溢れる。


(まだ……澪の両親が――亡くなったという確証はない。だが――真田さんから聞いた情報を考えれば……“生きているはずだ”なんて無責任な事、言えないだろ――)


 川田は葛藤していた。


 目の前にいる、親元を離れた幼い少女。


 嘘でもいい。無責任でもいい。


 彼女の希望になる言葉をかけてやれれば、彼女は救われるだろうか。


 ――否。


 すでに、ロボットたちの行動原理は判明しつつある。


 “両親が家にいなかった”


 それが意味することは、彼女でもわかる。


「…………腹、減ってないか」


 思考の末、川田が発したのは、ただ、澪の体を案ずる言葉だった。


「……減ってない」


「そうか……」


 返事はあった。感情はこもっていなかったが、川田は自分が拒絶されていないことに安心した。


「体、大丈夫か? 俺は……ちょっと気持ち悪い。まだ、な」


「別に……ちょっと、眠い。だけだ」


 涙ぐみながら答える澪。


「明日、地下四階……この施設の最下層に行くっていうのは……聞いてたよな」


「ん」


「澪も行くか?」


「なんでそんなこと聞くんだよ」


「……いや、なんでって――まぁ、その……」


 川田は次の言葉に迷った。


「もし、具合が悪いなら……ここで休んでいても――」


「いい。行く」


 澪はそうあっさり言った。


「そ、そうか」


「ここの連中は……色々知ってるんだろ」


「え? あ、ああ……そうみたいだ」


「なら、パパとママが――」


 そこまで言って、澪は止まった。


(澪……もしかして)


 川田の頭の中に浮かんだ一つの考え。


「……パパとママが、どこにいるかわかるかもしれないだろ」


(そうだ……澪はまだ、諦めてない)


 それが、現実から目を背けての逃避か、またはその可能性が低いことを理解した上での覚悟のある決意か、川田にはわからない。


「……そうだな」


 川田は同調した。


「おっさんの家族も、保護局に連れて行かれたんだろ? それなら――」


「ああ。澪の家族も、そこにいるかもしれない」


「なら……ここで泣いてたってしょうがないだろ。パパとママを見つけて、助けて、家に帰る」


(澪……俺が思っていたより、ずっと強い子だな)


 結局、川田が慰める余地はなく、澪が自身で希望を見出したことに気づかされた。


 ――しばらくすると、バスルームから音が聞こえた。真衣がシャワーを終えたらしい。


「次アタシ」


 そう言うと、澪は真衣と入れ替わるようにバスルームへ転がり込んだ。


「……すみません」


「な、なんで謝るんですか?」


 バスルームからでるや否や、真衣は川田に謝罪した。


「…………私、その――」


「それを言うなら俺も……気の利いた言葉一つ、かけられませんでした」


 気まずそうに言葉を探す真衣に、川田は言う。


「澪ちゃんは?」


「俺の家族と同じで……保護局に家族がいないか探すと」


「…………そうですか」


 真衣は声を小さくして言う。


 ――二人の頭の中には、同じ問題が浮かんでいた。


 澪は、まだ、彼女の家……そのリビングに“二つの弾痕”があったことを知らない。


 その事実は、彼女の両親の生存確率を著しく下げる情報だった。


 それを伝えることが、彼女の為になるのかどうか。


 考えれば考えるほど、答えが遠のくように感じた。


 バスルームの奥から、幼い子供の咽び泣く声が聞こえる。


(……明日、俺たちをどんな事実が待ち受けているかはわからない。それでも――行かなければ、何も始まらない。そんな気がする)


 川田は、そう決意しながら、ポケットにいれた家族写真を取り出し、噛み締めるように眺めた。


◇◇◇◇◇◇


 ――同時刻、地下基地、地下四階での会話。


「代表。準備が整いました」


「ご苦労。そっちはどうだ」


「まだ……それらしい個体には」


「そうか。引き続き探せ」


「はっ」


「……脳は人間、体はAI基板を搭載したロボット。全く忌々しい存在ではあるが……AIどもに一泡吹かせるには、必要な人材だ」


「代表……まさか――」


「まさか、も何も。もとより保護局は潰さねばならんのだ」


「で、では――」


「無論、襲撃計画は前倒しにする。ちょうど“有識者”も来たことだ」


「……あの来訪者たち、ですか」


「左様。我々にとって薬となるか毒となるか――見極めようではないか」

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