第24話「対話」
## 第24話「対話」
### 【あらすじ】
地下基地で、“思考同盟”の代表、久世との交渉に臨んだ川田たち。
車に満載してきた物資と、彼らにとっては有用な情報であったらしいジュニアの情報から、川田たちは地下基地で生活することを許される。
割り当てられた部屋で、澪と二人きりになる川田。
それは、家族を失ったかもしれない彼女と話す絶好の機会で――
### 【本文】
沈黙。ただ、それだけがしばらく続いた。
割り当てられた“二等級”の部屋は狭い。
この沈黙を誤魔化すためのものもない。
この施設は、AI製品をことごとく排除した、現代人からしたら“異空間”とも言える場所。川田もそれは重々承知している。
(何を……話せっていうんだ)
川田は心の中でつぶやいた。
澪は、ただ座ったまま虚空を見つめている。
感情を読み取ることもできない。この場所に来てから、彼女はずっとこの調子だ。
(慰める……べきなんだろう。それが、澪を保護した“大人の責任”。それは理解している……でも――)
川田は、まだ……家族が生きているかもしれないという希望がある。
妻の杏奈と、娘の千花。
“引率の先生”として千花と共に連れて行かれたらしいという情報は、川田の心の支えとなっていた。
そして――その情報をくれたのは、紛れもなく、ここにいる澪なのだ。
そんな事情を差し置いて、彼女に慰めの言葉をかけることは、川田にはできなかった。
「…………家に帰りたい」
先に口を開いたのは、澪だった。
川田に向けられた言葉ではなかった。
ただ、心の底から出たつぶやき。
「……澪」
彼女は、今、何を考えているのか。
それは、想像できた。少し前まで、家族の安否がわからなかった川田も、同じ気持ちだった。
「パパ……ママ……」
澪の目から、涙が溢れる。
(まだ……澪の両親が――亡くなったという確証はない。だが――真田さんから聞いた情報を考えれば……“生きているはずだ”なんて無責任な事、言えないだろ――)
川田は葛藤していた。
目の前にいる、親元を離れた幼い少女。
嘘でもいい。無責任でもいい。
彼女の希望になる言葉をかけてやれれば、彼女は救われるだろうか。
――否。
すでに、ロボットたちの行動原理は判明しつつある。
“両親が家にいなかった”
それが意味することは、彼女でもわかる。
「…………腹、減ってないか」
思考の末、川田が発したのは、ただ、澪の体を案ずる言葉だった。
「……減ってない」
「そうか……」
返事はあった。感情はこもっていなかったが、川田は自分が拒絶されていないことに安心した。
「体、大丈夫か? 俺は……ちょっと気持ち悪い。まだ、な」
「別に……ちょっと、眠い。だけだ」
涙ぐみながら答える澪。
「明日、地下四階……この施設の最下層に行くっていうのは……聞いてたよな」
「ん」
「澪も行くか?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「……いや、なんでって――まぁ、その……」
川田は次の言葉に迷った。
「もし、具合が悪いなら……ここで休んでいても――」
「いい。行く」
澪はそうあっさり言った。
「そ、そうか」
「ここの連中は……色々知ってるんだろ」
「え? あ、ああ……そうみたいだ」
「なら、パパとママが――」
そこまで言って、澪は止まった。
(澪……もしかして)
川田の頭の中に浮かんだ一つの考え。
「……パパとママが、どこにいるかわかるかもしれないだろ」
(そうだ……澪はまだ、諦めてない)
それが、現実から目を背けての逃避か、またはその可能性が低いことを理解した上での覚悟のある決意か、川田にはわからない。
「……そうだな」
川田は同調した。
「おっさんの家族も、保護局に連れて行かれたんだろ? それなら――」
「ああ。澪の家族も、そこにいるかもしれない」
「なら……ここで泣いてたってしょうがないだろ。パパとママを見つけて、助けて、家に帰る」
(澪……俺が思っていたより、ずっと強い子だな)
結局、川田が慰める余地はなく、澪が自身で希望を見出したことに気づかされた。
――しばらくすると、バスルームから音が聞こえた。真衣がシャワーを終えたらしい。
「次アタシ」
そう言うと、澪は真衣と入れ替わるようにバスルームへ転がり込んだ。
「……すみません」
「な、なんで謝るんですか?」
バスルームからでるや否や、真衣は川田に謝罪した。
「…………私、その――」
「それを言うなら俺も……気の利いた言葉一つ、かけられませんでした」
気まずそうに言葉を探す真衣に、川田は言う。
「澪ちゃんは?」
「俺の家族と同じで……保護局に家族がいないか探すと」
「…………そうですか」
真衣は声を小さくして言う。
――二人の頭の中には、同じ問題が浮かんでいた。
澪は、まだ、彼女の家……そのリビングに“二つの弾痕”があったことを知らない。
その事実は、彼女の両親の生存確率を著しく下げる情報だった。
それを伝えることが、彼女の為になるのかどうか。
考えれば考えるほど、答えが遠のくように感じた。
バスルームの奥から、幼い子供の咽び泣く声が聞こえる。
(……明日、俺たちをどんな事実が待ち受けているかはわからない。それでも――行かなければ、何も始まらない。そんな気がする)
川田は、そう決意しながら、ポケットにいれた家族写真を取り出し、噛み締めるように眺めた。
◇◇◇◇◇◇
――同時刻、地下基地、地下四階での会話。
「代表。準備が整いました」
「ご苦労。そっちはどうだ」
「まだ……それらしい個体には」
「そうか。引き続き探せ」
「はっ」
「……脳は人間、体はAI基板を搭載したロボット。全く忌々しい存在ではあるが……AIどもに一泡吹かせるには、必要な人材だ」
「代表……まさか――」
「まさか、も何も。もとより保護局は潰さねばならんのだ」
「で、では――」
「無論、襲撃計画は前倒しにする。ちょうど“有識者”も来たことだ」
「……あの来訪者たち、ですか」
「左様。我々にとって薬となるか毒となるか――見極めようではないか」




