第23話「交渉」
## 第23話「交渉」
### 【あらすじ】
地下基地は、久世老人を代表とする“思考同盟”の同盟員のためのものだった。
部外者である川田たちの扱いを話し合うために、宴会場に招かれた川田たち。
そこで地上で川田たちを取り囲んだロボットについて話を聞くと、その仕組みがジュニアの体と共通している部分があることに気づく。
川田がそれを話すと、久世老人は予想外の反応を見せ――
### 【本文】
「それを、どこで聞いた?」
久世老人の目が鋭く川田を刺した。
――しまった。川田は己の浅慮を嘆いた。
久世を始めとした、“思考同盟”の同盟員たちは、大なり小なりAI製品へ嫌悪感を持っている。そのトップである久世は、その生活から一切のAI製品を排除している。
そのシェルターが運用するロボットに、AI製品の基板が用いられていることは、久世にとっては不都合な事実であることは想像に難くない。
「…………あくまで予想です。地上で……同じようにAI基板を持ちつつ、自我のある存在と出会いました。彼も、ロボットたちから仲間だと思われていたようです」
「…………何だと?」
「代表……これは――」
久世と、その両脇に座る男たちがなにやらざわつき始めた。
「ど、どうしたんでしょう」
真衣も、その様子を見て並々ならぬ雰囲気を感じたようだ。
「……君、川田君。だったね」
「は、はい」
「今の話、詳しく聞かせてくれないだろうか」
久世の態度が変わった。
これまでは、部外者である川田たちの扱いを決める――いわば生殺与奪の権利を握ったような余裕があった。
しかし――今は、違う。
「川田さん」
真衣が短く言う。
(わかってる……これは、チャンス、かもしれない)
「お話……することはできます。ですが、その前に――」
川田はゆっくりと深呼吸してから続ける。
「ここから先のお話は、俺たちがここに滞在する許可をもらってから、させてもらえればと」
「…………」
久世は黙った。
(良かった……即座に拒絶されるような提案ではなかったみたいだ)
川田、真衣は息を飲んで久世の反応を待つ。
「……いいだろう」
久世は、そう言った。
「ただし条件がある」
一瞬ほどけかけた緊張が、再び帰ってきた。
「……君たちが持ち込んだ、食料、水、そのほかの備蓄……こちらに譲ってくれたまえ」
川田たちが乗ってきた車に満載した備蓄品。そのほとんどはジュニア邸から持ってきたものだった。
「ここでは備蓄を公平に分配する。部外者である君たちだけ裕福に暮らされては他の同盟員に示しがつかん。物資を提供したということで受け入れた……とすれば、説明がつく」
(…………これは、拒否できないな。相手の言い分ももっともだ)
川田は静かに頷いた。
「もう一つ……言うまでもないとは思うが、あのロボットたちにAI製品の基板が使われていることは他言無用だ」
「……はい」
「よろしい。では――」
久世に促されるようにして、川田はジュニアと出会ってからのことを話す。
彼の体のこと、彼の人生。そして、ジュニア邸で起こったであろうこと。
――最後に、彼が保護局に連れて行かれたと言うことまで。
◇◇◇◇◇◇
「…………まさか、こんな近くにいたとはな」
その全ての話を聞いて、久世は天井を見上げて言った。
川田も真衣も、その言葉の真意はわからない。
「詳細は話せん。だが、その男は人類を救う希望だったのだぞ」
「…………ど、どういうこと、でしょうか――」
あまりのスケールの大きさに、川田は困惑しながら返す。
「詳細は話せんと言っただろう。だが……その情報は貴重だった。それ相応の評価と礼はしよう」
どうやら、彼らにとってジュニアの存在は重要らしい。ということだけはわかった。
「なにが……どうなっているんでしょうか。皆さんは……世界で何が起こったのかわかっているんですか?」
川田は聞く。
「……まあ、そうだな。同盟のために情報を与えた者には応えねば、か」
久世は一度頷いて、続ける。
「明日、地下四階……この地下基地の最深部に来るといい。飯島に案内させる」
「あ、明日……ですか」
「見せれるものとそうでないものがあってな。準備が必要だ。部屋は……そうだな。諸々鑑みて、二等級の空き部屋を使うといい。案内はこの二人をつける」
久世がそう言うと、両隣の男が立ち上がる。
「この会はこれでお開きとしよう」
促されるままに、川田と真衣、ここまで一切発言もリアクションも見せなかった澪が立ち上がる。
「……その娘、だいぶ参っているようだ。大人が然るべきケアをするべきだと老婆心ながら忠告させてもらう。機械にはできん、血の通った人間ができることだ」
川田は軽く会釈をして、三人は宴会場を後にした。
◇◇◇◇◇◇
「……ジュニアさんには、助けられてばかりですね」
久世老人お付きの男二人に案内され、エレベーターに乗ると真衣が言う。
「そうですね……本当に」
「私たち、ひとまず、ここで暮らせるんでしょうか」
「多分……」
そんな会話をしながらも、川田と真衣は澪の様子を気にしている。
目が覚めてから、彼女は一言も話していない。川田と合流するまでもそうだったようだ。
と、言うより、真衣にはかけられる言葉がなかった。
澪の家族は……もう、この世にはいないかもしれない。
それは、澪も薄々勘付いている。
だが、それを誰も口に出さない環境が、彼女の中で何度も何度も家族のことを考える原因になっている。
川田は、嫌でも自分と澪の境遇を重ねずにはいられない。
川田は、まだ、家族が生きている希望がある。
一方で、澪には、その希望がほとんど残っていなかった。
かけられる言葉が、見つからなかった。
◇◇◇◇◇◇
久世がいう二等級の部屋は、三人で寝るには少々手狭なベッドと、ユニットバスがある、いわゆるビジネスホテルのような部屋だった。
「……せまいですね。ベッド」
「ま、まあ……安心して寝れるだけ、これまでで一番なんじゃないでしょうか?」
「……そうですね」
澪は、川田の手を握ったまま離さない。
最後に久世の言った言葉が頭の中で反芻される。
(機械にはできない……血の通った人間にしかできないこと……か)
「私、先にシャワー浴びてもいいですか?」
「えっ? あ、ああはい……大丈夫ですよ」
真衣の突然の言葉に驚いた川田。
(……もしかして、“俺が話せ”ってこと……か?)
部屋には、川田と澪の二人だけになった。




