第22話「審判」
## 第22話「審判」
### 【あらすじ】
川田たちがたどり着いたのは、ラジオ放送であった“地下基地”だった。
しかし、安心するまもなく、同盟員ではない川田たちの扱いを決めると運営委員から呼び出しがかかり――
### 【本文】
地下基地の廊下は、整然としていた。
まるで、このような事態を想定していたかのように、一つ一つ部屋が用意され、そこでは避難してきた同盟員たちが暮らしているようだった。
廊下の先にある扉を抜けると、バックヤードのような場所に繋がる。
何人かの作業員が、忙しなく作業をしている。食料の備蓄を確認している……ようだ。
「乗れ」
さらにしばらく進むと、エレベーターが現れた。
飯島の案内で、川田、真衣、澪の三人が乗り込む。
古めかしいビープ音がなると、エレベーターの扉がゆっくりと閉まる。
「…………飯島聡だ」
飯島は唐突に自己紹介を始めた。
「えっ……ああ。川田です。川田拓。こっちは朝倉澪――」
「真田真衣です」
川田たちも足早に自己紹介を済ませる。
「……ちょっと待て、お前たち、家族じゃないのか」
飯島が、三人の名前を聞いて言う。
「はい……色々あって――俺たちは、元は他人です」
「“元は”……か。今は違うのか?」
「まあ……はい」
川田は考えた。そう言われると、今の三人は、どんな繋がりがあるのか?
家族でも、恋人でも、何でもない。
ただ偶然出会った三人。だが、決して他人とは切り捨てられない関係。
「…………そうか、お互い大変だな」
川田は飯島の物言いに引っかかったが、詮索はやめた。
やがて地下三階に到着すると、再びビープ音がなり、エレベーターの扉がゆっくり開いた。
「運営委員会はこの先の宴会場でお待ちだ」
飯島はそう言うと、川田たちに進むよう促す。
「飯島さんは……」
「俺は呼ばれていない」
このやり取りだけで、この“地下基地”の規律めいた風習が見て取れた。
川田は息を呑む。
この先にいる“運営委員会”が、三人の命運を握っているのだ。
◇◇◇◇◇◇
記憶にあった、“久世慶三”という老人の朧げな印象が、まるでそのまま出てきたかのような風格を持つ老人が、そこにはいた。
巨大な宴会場。
その中央に一台だけ、大きな丸テーブルが置かれていた。
中央に久世、その両サイドには、見知らぬ男が二人。
対面には、三人のものであろう椅子も用意されている。
「掛けたまえ」
しゃがれた声が、宴会場に響く。
三人は、促されるまま、席についた。
久世は三人を順番に見ると、一呼吸おいて口を開いた。
「同盟員が乱暴をしたようだ。すまなかったね」
予想外の謝罪だった。川田が面食らっていると、久世は続ける。
「我々のことは、ご存知かな?」
「え? ああ……はい。“思考同盟”の久世慶三さん、同盟の代表ですよね……?」
「もっとも。この地下基地の代表でもある」
久世はグラスに注がれた飲み物を一口、飲んだ。
「ここは同盟員のために用意したシェルターでもあってな……収容可能人数は千を越える。現在は――おい」
久世は左隣の男に目をやる。
「はい。現在は五百十三名、収容しております」
「だそうだ。正直言って君たちを受け入れる余裕はある」
川田たちにとって都合のいい情報だったが、まだ油断はできない。
「だが、問題はそういうことではない。まずは、両者の責任の所在を明らかにしようではないか」
「せ、責任ですか……」
「まず聞こう。この場所はどうやって知った?」
川田はちらりと真衣を見た。
真衣はゆっくり頷く。
「ラジオを……聴きました」
「ほう……このご時世にラジオ……どのように聞いたか聞いてもよいか」
「車に……ついていたんです」
「冗談はよしたまえ。今時ラジオ電波を受信できる車に誰が乗るというんだ」
久世は笑う。
「代表。警備隊の情報ですと、たしかに、この者たちが乗ってきた車には、ラジオが搭載されていたと――」
右隣の男がそう告げると、久世は目を見開いた。
「私が言うのもおかしいが、妙な趣味をしているな。いや、もっとも、この状況下では、そのような車でなければ自由に走らせられまい」
久世は嬉しそうに言う。
「同盟員には……こんな事態のためにラジオを常に持っておくように伝えていた。君たちが聞いた放送も、内容自体は何でもよかった。あれで、同盟員は地下基地の受け入れ態勢が整ったことを知ることができる」
「だから、詳しい場所が放送されなかったんですね……」
「左様。AIどもはどこからこの場所が人間の隠れ家になっていると知るかわからん」
「そ、それじゃあ……どうして地上の門が開け放たれていたんですか?」
「簡単な話だ。“ここは確認済み”。そうAIどもに誤認させるためだ」
「誤認……?」
「我々は反AIを実現するために、日夜AIの危険性を検証してきた。その成果もあってな。奴らの行動パターンをいち早く分析し、対応したのだ」
「すみません……言っている意味が――」
「君たちが破壊しようとした、ロボットたちがいただろう」
「あ……」
意識を失う前、川田たちを取り囲んだロボットたち。それは、AI製品に精通した川田も知らないモデルだった。
しかし……それも無理はない。
「あれは、AIの目を欺き、我々が地上で活動するための“偽装体”だ」
「“偽装体”……ですか」
「詳しい説明は省くが――AIどもはあれを自分たちと同じ仲間だと認識する。実際は、この地下基地から人間が遠隔操作しているのだがな」
(……もしかして、理屈はジュニアさんがロボットから狙われなかったのと同じ……?)
川田は、何の気なしに――いや、彼の中にはまだ、ジュニアへの心配も残っていた。
だからこそ、聞いた。
「もしかして……その“偽装体”には、AI製品に使われている基板を使っていますか?」
「……ほう」
川田の問いに、久世老人の目が鋭く反応した。
――何か、まずいことを聞いてしまったかもしれない。




