第21話「呼び出し」
## 第21話「呼び出し」
### 【あらすじ】
ロボットたちに取り囲まれた川田たち。
打開策を模索するも、三人はロボットたちの制圧に倒れた。
川田が次に目覚めると、知らない医務室にいて――
### 【本文】
「おはよう。気分はどう?」
川田は医務室の扉の前に立っていた女性を見る。
――ロボットではない。はずだ。
「私は人間よ」
川田の思考を見透かしたかのように女性は言った。
「…………真田さんと、澪は」
「大丈夫。あなたの家族はみんな無事。面会用の部屋であなたを待ってる」
川田は一瞬混乱したが、すぐに女性の発言の意図を理解する。
(この人……真田さんと澪を俺の家族だと勘違いしているのか)
「……全く、ロボットとはいえ、車で体当たりって――地上で長時間生き残るのは相当大変みたいね」
女性は呆れたように言う。
「いろいろと聞きたいことが山ほど……って感じかしら」
「……ああ、ここは、“地下基地”なのか?」
「…………??」
女性は首を傾げる。
「ラジオで聞いた。東京都第三区域の地下基地に来いって」
「あ、ああ! ラジオね! 確かに……そんなことやってるって上が言ってたかも」
(この人……ミステリアスなのか単に抜けているのか――)
「それなら、ここが地下基地で間違いないわ。“思考同盟”代表、久世慶三が作った地下シェルター」
川田は胸を撫で下ろした。
久世のAI嫌いは病的だった。それなら、ここにいる限り、AI製品の魔の手から逃れられる。
「…………ここだけの話なんだけど、あなた、同盟員じゃないわよね」
――同盟員、とは、おそらく、“思考同盟”のメンバーかどうか、ということだろう。
「違いますが……まさか」
「そうね……ここは同盟員に向けて作られたシェルターなの。ラジオも同盟員に向けて流してたらしいんだけど――」
川田の額を汗が伝う。
この後、何を言われるのかは想像に難くない。
「榊先生――っとこれは……」
その時、廊下から声が聞こえた。
同時に姿を現したのは、ガタイのいい……川田よりすこし年下であろう男性。
「目を覚ましたのか」
男は川田をみるなり、威嚇するように目を細めた。
「飯島くん、そんな目しちゃダメよ? 一応怪我人なんだから」
「敷地に侵入し、あろうことか偽装体を破壊しようとした連中ですよ?」
「それでも、です」
川田には、話の断片しか理解できない。しかし――
(もしかして、地上にいた金銀のロボット――)
「すみません……俺たち、あのロボットがAI制御のものだと誤解して――」
「…………まあ、そんなことだろうとは思ってはいたがな」
飯島と呼ばれた男は、依然川田を警戒するように言う。
「同盟員以外がここにたどり着いたのはお前たちが初めてだ。どうするかは運営委員会で話し合っている。結論が出るまでは大人しくしていろ」
飯島が言う。
「ちょ……ちょっと待ってください! 結論って――」
川田の声を耳に入れず、飯島は去って行ってしまった。
「ごめんなさいね? 飯島くん……いろいろあってピリピリしてるから」
榊女医は困りながら言う。
「まあ、いろいろあるのはみんなそうなんだけどね」
「……俺たちは、どうなるんですか」
「さあ……? 運営委員会は代表を含む数人で構成されているってところまでは知ってるけど、非同盟員をどう扱うかは知らないわ」
「…………」
「た、たぶん……追い出す……なんてことにはならない、と、思うけど……たぶん」
随分と曖昧な物言いに困惑する川田。
「……ひとまず、ご家族に会ったら?」
状況もこの先もわからないまま、川田は榊女医に案内され、面会用の部屋に連れられた。
◇◇◇◇◇◇
「ごゆっくり〜」
榊女医はそう言うと、部屋の扉を閉める。
机と椅子。しかない。簡易な部屋だ。
そこでは、先に案内されていたらしい真衣がタブレットで小説を書いていた。
澪は……真衣の隣に座っていた。川田が部屋に入るなりチラリと見たが、すぐに視線を外した。
「真田さん……」
川田が呼びかけると、真衣は手を止めた。
「……生きてますね。私たち」
「えっ……ええ。そうです、ね」
「私、澪ちゃんも川田さんも死んじゃったと思ったんです」
川田の頭に、地上での光景がフラッシュバックする。
(そうだ……澪が撃たれた――アレはなんだったんだ?)
「麻酔タイプの銃らしいです。私たちが撃たれたの」
「ま、麻酔?」
「紛らわしいですよね。でも……向こうからしたら私たちが襲撃者に見えたとか何とか――」
「襲撃者って……まあ、銃は持ってましたけど」
「私たち、追い出されますよ。きっと」
「な……そんな、まだそうと決まったわけじゃ――」
「川田さんが“思考同盟”側だとして、私たちみたいなのを受け入れますか?」
「同じ人間ですよ? 受け入れるに決まっているじゃないですか」
「食料や水が限られていても?」
「……それは――」
「受け入れるかどうか選ばなくてはいけない時、その社会集団に属しているかどうかは立派な理由になると思いますけど」
真衣は、川田を責めたいわけではない。この不安を、来たるべき最悪の未来を口に出さなければ、自分を保っていられない気がした。
「…………ごめんなさい。川田さんに言っても仕方ないですよね」
「い、いえ……真田さんの話、もっともだと思います」
川田は、そう言いながら奥に座る澪に目をやる。
「…………澪ちゃん。川田さん、来たよ」
澪は反応を示さない。
川田は、あまりの無力感に押しつぶされそうになった。
――澪の両親はここにはいない。いるはずの場所にも、いなかった。
なら彼女は……どうすればいい?
頼るべき親を失った子供。そんな存在を支える社会基盤は、すでに崩壊している。
では、どうすれば――
「澪……」
川田は彼女に優しく声をかけた。
(俺たちだ。彼女を支えられるのは、俺たちしかいない)
「俺が……俺たちが……必ず守る」
川田は言う。
澪は、少し、体を揺らして反応した。
拒絶でも、肯定でもない。だが、確かに川田の声は届いた。
そんな少しの希望を見出したその時――
部屋の扉がノックされた。
ギョッとして川田が振り返ると、そこには先ほど会った飯島が立っていた。
「運営委員会から呼び出しだ。すぐに来い」
――三人に、審判の時が迫っていた。




