第20話「儚い夢」
## 第20話「儚い夢」
### 【あらすじ】
ラジオで耳にした“地下基地”の手がかりは、川田の記憶の中にあった。
反AI活動家の“久世慶三”。
その邸宅の地下に、それがあると予想した川田は記憶を頼りにその場所に向かうが、待ち受けていたのはロボットの大群。
ロボットの正確な射撃でタイヤを撃たれ、車は木に激突し――
### 【本文】
「う、うーん……な、なんなんだ……」
車が木に衝突した衝撃で、澪が目を覚ました。
「っ〜!?」
直後、眼前に広がる衝撃的な状況に、声にならない悲鳴をあげる。
「大丈夫。きっと助かるから」
真衣は、自身の恐怖を押し殺して、澪に言う。
『武器を捨て、投降しろ』
その後、車を取り囲むロボットの一体が、車内の川田たちにそう呼びかけた。
「…………真田さん」
相手からの想定外の呼びかけに我に返った川田は、真衣に呼びかける。
「銃」
そう言われて真衣は、思い出したように後部座席に置かれた銃に目をやった。
(おかしい……真田さんの情報では、ルールに違反した人間は問答無用で殺されるはず。この状況はどう考えても不法侵入。車でロボットを壊そうともした。なのに……これはどういうことだ?)
『武器はそれだけか』
次の呼びかけに、川田は恐る恐る持っていた銃を取り出した。
一瞬ロボットたちに緊張が走った気がしたが、弾切れであることに気づいてか、すぐに同じ質問が投げかけられる。
『武器はそれだけか』
川田は頷く。
『ドアを開けろ。お前たちを拘束する』
(拘束……? やっぱり妙だ。それにこの喋り方……まるで人間と喋っているような――)
そう川田が考えていた直後。
――バリィン!!!
「うわっ!?」
ロボットの一体が、肘で車の窓を割った。
飛散したガラスから身を守るように、川田が身を翻した。
『確保しろ!』
その一声で、ロボットたちが一斉に襲いかかる。
「ま、待て!! 俺たちは――」
川田の抵抗も虚しく、車から引き摺り出され、地面に押さえつけられた。
「ぐっ!!」
川田の視界に、同じく組み伏せられた真衣が映る。
「おっさん!! 真衣さん!!」
悲痛な叫びを上げるのは澪。完全にパニックになっており、暴れ始めてしまった。
「嫌だ!! 死にたくないっ! パパ! ママ! 助け――」
『子供の声が外にいる連中に聞かれたらまずい。黙らせろ』
「あっ……! おい待て!」
一瞬の出来事だった。
ロボットの一体が、武器を持ち替え、その引き金を澪に向かって引いた。
直後、澪の体が力無く地面に倒れた。
「………………嘘だろ」
信じがたい光景だった。
「…………どうして」
川田は、地面に押さえつけられながら、言う。
「澪は……保護の対象じゃないのか!? どうして――」
『聞き分けのない男だ。こいつも黙らせろ』
川田の意識は、そこで途絶えた。
「澪ちゃん……? 川田さ……ん……?」
真衣は、動かなくなった二人を視界に収めた。
ピクリとも動かない。
「…………あぁ。こんな、結末ですか。私たちも」
真衣の目から、光が消えた。
『抵抗しなければ、危害は加えない。大人しく連行されろ』
ロボットがそう言った。
その瞬間。
『隊長! この女っ!』
ロボットの一体が叫ぶ。
それを聞いてか、もしくは言われるまでもなかったのか。“隊長”と呼ばれたロボットは真衣の口に手を突っ込んだ。
「がぁっ!?」
『何考えてるんだこのバカはっ! 撃て!』
隊長の指示で、真衣にも引き金が引かれた。
松の木の林、その一本道。
バンパーがへこんだ古めかしい車と、その脇に大勢のロボット。
囲われるように、三人の人間が倒れていた。
◇◇◇◇◇◇
川田拓。
しがない企業のサラリーマンだ。
メインの商材はAIを搭載した多種多様な製品たち。
売れそうな商品を企画して、販売。
飽和した市場に新たな製品で勝負を仕掛ける、やりがいのある仕事だった。
年収もそこそこで、妻の杏奈と出会い、子宝にも恵まれた。
何一つ不自由のない生活。
それが、いつまでも続くと思っていた。
――川田は、夢を見ていた。
それは、かつて存在していた。暖かい家庭の一幕。
川田が疲れて帰宅すると、杏奈が出迎え、夕飯を温めてくれる。その間に川田は寝室で寝ている娘の千花を眺め、その成長と健康を心から願う。
リビングで食事を済ませると、杏奈は寝室に戻り、川田はシャワーを浴びる。
そうしてゆっくり過ごした後、川田も杏奈と千花の隣で眠りにつくのだ。
そう。また、目が覚めたら一日が始まる。
もうすぐ、千花の誕生日が近い。
プレゼントは、何にしようか――
◇◇◇◇◇◇
夢の続きは、儚く消えた。
川田が目を覚ますと、見慣れない石膏ボードの天井が広がった。
ベッドに寝かされている。
薄手のカーテンに囲まれた空間には、薄っすらと薬品のような香りがした。
「…………生きてる。のか」
記憶を辿る。
ロボットに取り囲まれ、車から引き摺り出された。
目の前で、澪が――
そこまで思い出して、川田は勢いよく起き上がった。
「っ……!」
激しい頭痛。
吐き気も襲ってきた。
「うっ……おぇ……」
ベッドの脇のラックに丁寧に置かれていた洗面器に嘔吐する。
「……ぺっ……クソ……なんなんだ……」
口の中に残った不快な吐瀉物を吐き出すと、川田はゆっくりと起き上がる。
足側のカーテンを開けると、ここが医務室のような部屋であることがわかった。川田が寝かされていたベッドとは別に、何台ものベッドがあることがカーテン越しに見える。
「……もう起きたんだ」
声がした。
ギョッとして川田が振り返ると、そこには、白衣姿の眼鏡をかけた女性が立っていた。




