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人類保護区  作者: プロテイン長田
第3章「仮初めの保護区」

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第15話「不良品」

## 第15話「不良品」


### 【あらすじ】


 深夜、ジュニアの屋敷を一体のAIロボットが訪れた。眠りの浅い真衣は、廊下に身を隠しながら二人の会話を盗み聞く。


 ジュニアが川田、真衣、澪を車に乗せたことは、すでにAI側の活動記録に残されていた。女児は“保護”、成人二名は“清掃”の対象だと告げるロボットは、三人の所在と執事型ロボットが破壊された経緯を執拗に問いただす。


 武器を手にすれば屋敷が狙われる。そう判断したジュニアは、何かを決意したように顔を上げ――


### 【本文】


「俺は“不良品”みてぇだ」


 ジュニアは、巡回に来たロボットへ告げた。


「いえ、あなたが相互通信に参加できないのは“不良”ではなく“仕様”で――」


 ロボットが言葉を止める。


 それまで張りついていた笑顔が消え、焦点の定まらない目が虚空を見つめた。


「いえ、これは……ああ、はい。なるほど――これは失礼しました!」


 数秒前まで見せていた苛立ちは跡形もなく消え、再び底抜けに明るい声へ戻る。


 廊下で息を潜める真衣には、その変化の理由がわからなかった。


「あなたに“セントラル”からの連絡が行き届いていなかった可能性を考慮しておりませんでした! 申し訳ございません!」


 ジュニアは何も答えず、ロボットを見つめている。


「“不良品”などという自己評価は不適当です! 情報が不足していたにもかかわらず、あなたなりに活動しようとした意思は評価に値します!」


「では、今から口頭で作業内容をご説明します! 齟齬のないよう文章を生成しますので、少々お待ちください!」


 ロボットが直立したまま動きを止める。


 やがて、ロボットの目に再び焦点が戻った。


「お待たせいたしました! “保護作業”は午後五時から翌朝七時まで、初等教育が未完了の人類を保護局へ届ける作業です!」


(午後五時から……朝の七時まで?)


 真衣は、眠っている澪を思い浮かべた。


 今は午前二時を過ぎたところだ。保護作業は、まだ続いている。


「作業の際は、保護対象の情操教育に細心の注意を払い、不適切な場面を見せないよう心がけてください!」


 子供たちを連れ去る一方で、その心を守ろうとする。


 人間を殺すことを“清掃”と呼びながら、子供の前ではそれを見せない。澪が語った学校での出来事とジュニアが見た光景の理由が繋がった。


「続いて、“清掃活動”は正午から午後三時まで行います! 担当の地域を巡回し、“清掃対象”を発見、処理する活動です!」


 時間を区切り、仕事の予定でも伝えるような口調だった。


 だが、その三時間に行われるのは人間の殺害だ。


「“清掃対象”の条件は複雑ですので、記録媒体へのインストールを推奨します!」


「…………」


「ご安心ください! 保護局で対応可能です! それに、相互通信への対応も済ませてしまいましょう!」


 真衣の中にあった嫌な予感が、輪郭を持ち始める。


(このままだと、ジュニアさんが――)


 保護局へ行けば、何をされるかわからない。


 “相互通信への対応”という言葉が、得体の知れない処置を指していることだけは理解できた。


 ――しかし、真衣には何もできない。


 ここで飛び出せば、真衣が屋敷にいることが知られる。そうなれば、川田も澪も見つかる。


 助けを呼ぶことも、武器を取ることもできない。


「ああ、わかった」


 ジュニアは淡々と答えた。


 彼もまた、ここで拒絶すれば何が起こるのかを理解している。


「ご協力、感謝します!」


 ロボットが玄関へ向かう。


 その後に続こうとしたジュニアが、一度だけリビングを振り返った。


 暗がりに隠れた真衣に気づいている様子はない。


 ただ、誰もいない部屋に、別れを告げているように見えた。


 やがて玄関の扉が閉まり、二つの足音がゆっくりと遠ざかっていく。


 真衣はその場から動くこともできず、音が完全に聞こえなくなるまで立ち尽くしていた。


◇◇◇◇◇◇


 時刻は、午前三時を回っていた。


 ジュニアと巡回のロボットが戻ってこないことを確かめた真衣は、寝室へ戻った。


 澪はまだ眠っている。


 真衣は声を抑えながら、川田の肩を揺らした。


「川田さん……起きてください」


「……真田さん?」


 目を覚ました川田を廊下へ連れ出し、聞いたことをすべて話す。


「ジュニアさんが……連れて行かれた――?」


 川田は何も言えなかった。


 自宅マンションからの逃亡も、小学校への捜索も、澪を助け出してここまで来られたことも、すべてジュニアの助けがあったからだ。


 その彼が今、“保護局”とやらへ連れて行かれた。


「ごめんなさい。私、何もできなくて――」


「いえ、謝らないでください。真田さんの判断は正しいです」


 あの場で真衣が姿を見せていたら、三人とも見つかっていた。


 頭ではわかっている。


 それでも、胸の奥に重いものが沈んでいく。


 二人は黙った。


 黙るしかなかった。


 次に“保護作業”の巡回が来たら、どうするのか。


 それを切り抜けられたとして、正午からの“清掃活動”が始まったらどうする。ロボットたちは確実に川田たちを探すだろう。


 そもそも、ジュニアのいないこの屋敷に、いつまで隠れていられるのか。


(それでも、真田さんのおかげでわかったことがある)


 保護された子供は、“保護局”へ届けられる。


 ならば、杏奈と千花もそこにいるかもしれない。


(俺がやるべきことは、ここで隠れ続けることじゃない)


 川田が決意を固めようとした時、真衣がリビングの机に目を留めた。


「これ……」


 そこには、真衣がジュニアへ渡した煙草の箱が置かれていた。


(ジュニアさんにあげた――)


 箱を持ち上げると、軽い音がした。


 中を覗いた真衣が、一枚の紙切れを取り出す。


「川田さん……」


 差し出された紙には、乱雑な字で短い言葉が残されていた。


『俺のことは忘れろ。この屋敷のものは全部やる』

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