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人類保護区  作者: プロテイン長田
第3章「仮初めの保護区」

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第14話「監査」

## 第14話「監査」


### 【あらすじ】


 ジュニアの屋敷へ身を寄せた川田たちは、久しぶりに温かな食事と安全な寝床を得た。


 学校で保護された澪は川田の手を離さないまま眠り、真衣も同じベッドで休むことになる。大切な人を失った者、失いかけている者たちは、同じ屋根の下でかりそめの安息を分かち合った。


 しかし、杏奈と千花の行方も、「人類保護局」や“保護作業”の目的も、いまだ何ひとつわかっていない。川田は胸の奥に渦巻く不安を押し殺し、目を閉じるのだった――


### 【本文】


 真衣は、暗闇の中で目を覚ました。


 隣では、川田と澪が寄り添うように眠っている。


 枕元の時計へ目を向けると、午前二時を少し回ったところだった。


(……また、起きちゃった)


 彼女は、眠りが浅い。


 とりわけ何か明確な障害を抱えているわけではないが、一度目を覚ますとなかなか寝つけない。


 この状況で、その不眠が改善するはずもなかった。


 真衣は寝返りを打ち、目を閉じ直す。


 その時だった。


 かすかに、誰かの話し声が聞こえてくる。


(……ジュニアさん?)


 声は廊下の先――リビングルームの方から聞こえてくる。


 ジュニアが独り言を言っているのかと思ったが、そうではない。


 ――もう一人いる。


 聞き覚えのない、妙に明瞭な声だった。


 真衣は身を起こし、隣で眠る川田を見る。


 起こすべきかもしれない。


 だが、川田はようやく眠れたばかりだ。昨日は澪を抱えて走り、ここへ着いてからも彼女に手を握られたまま、ろくに身動きすら取れていない。


 何より、今ここで声をかければ、澪まで起こしてしまうかもしれなかった。


(様子を見るだけ……)


 そう自分に言い聞かせ、真衣は音を立てないようベッドを抜け出した。


 裸足のまま寝室を出る。


 屋敷の廊下は、淡い月明かりに照らされていた。


 リビングルームへ近づくにつれ、二人の会話が鮮明になる。


「ああ……わかってる。“保護作業”、だろ?」


 ジュニアの声だった。


 真衣は足を止める。


「はい! あなたの識別登録番号の活動記録に“奇妙な点”があり、確認に参りました!」


 背筋に冷たいものが走った。


 不気味なほど聞き取りやすい発音。抑揚まで計算された、底抜けに明るい声。


 人間ではない。


 真衣は壁に身を寄せ、聴覚に集中した。


「……お前ら、俺がどんな個体なのかわかってんのか?」


「はい! こちらのお屋敷のハウスキーパーとして登録されております!」


 ロボットは淀みなく答えた。


「執事型ロボットも一体、在宅と記録されておりますが、現在は“破壊”ステータスとなっておりますね!」


 ジュニアの顔が、一瞬だけ険しくなる。


「ですので、“彼”を破壊した者は“清掃”の対象となります! ご報告をお願いします!」


「知るか。俺ん家のことは俺が片づける」


「これは失礼しました! では、あなた自身の活動記録について、ご報告をお願いします!」


 ジュニアは答えなかった。


「奇妙なことに、あなたの詳細なデータを参照できないのです。口頭でのご報告をお願いします!」


「…………」


「あなたが成人男性、成人女性、小学生女児を連れ、車に乗り込んだことは報告に上がっています」


 真衣の心臓が大きく跳ねた。


 ――追跡されていた。


 いや、川田の言った通りだった。とも言える。


 マンションから逃げ出す時、ジュニアの車に乗り込む時ですら、AI製品の“目”に真衣たちは映っていた。


「許可のない外出、不貞、指定場所以外での喫煙、ロボットへの暴行――女児は“保護”の対象ですが、残る二名は“清掃”の対象です」


 明るい声のまま、ロボットは人間の処分を告げる。


「ですが、該当人類が保護局へ届けられた記録も、“清掃”完了の報告もありません。彼らは今、どこにいるのでしょうか?」


 真衣は無意識に後ずさりかけ、必死に踏みとどまった。


 今、わずかでも音を立てれば見つかる可能性がある。


「ご在宅だった執事型ロボットは、破壊される直前に自らオフライン環境へ移行しています。不審な動作です。ご報告をお願いします」


 ジュニアの手が、わずかに動いた。


 その視線の先に、リビングの隅へ立てかけられたライフルがある。


 だが、ジュニアは手を伸ばさなかった。


(ここで撃ったら……)


 この一体を破壊したところで、何にもならない。


 むしろその行動が知れ渡れば、別のロボットが来る。あるいは、この屋敷そのものが一斉に狙われる。


 そうなれば、川田たちは助からない。


「ご報告を、お願いします」


 ロボットの笑顔は変わらない。


 それなのに、繰り返された声には、先ほどまでなかった硬さが混じっていた。


 苛立っている。


 真衣には、そうとしか思えなかった。


 ジュニアは俯き、しばらく黙り込む。


 やがて、何かを決めたように顔を上げた。


「……すまない」


「どうして謝るのでしょうか?」


「俺は“不良品”みてぇだ」


 ジュニアの言葉を聞いた真衣には、その意図がわからなかった。

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