第8話:黒炎の蹂躙と、白銀の初太刀
街道を塞ぎ、疾走する重装軍用馬車の前に立ちはだかる巨躯──変異灰熊型の大型灰燼種!
四頭の巨馬もろとも馬車を圧殺せんと振り下ろされる巨腕に対し、夜天第7席『黒炎』のクロードが大太刀を抜き放つ!
赤土の峡谷を黒と紅に染め上げる、圧倒的な暴力の黒炎!
しかし、分厚い灰岩の甲殻に覆われた巨熊の突進は止まらない──!
小隊の危機を前に、カナタが息を吸い、丹田に落とすのは父直伝の「薪割りの呼吸」。
刀身に宿る白銀の熱が、今、初めて死の灰を光の粒子へと昇華させる!!
──グオォォォォォォォォンッッッ!!!!
大気を震わせる咆哮とともに、変異灰熊型の巨体が街道の赤土を力任せに踏み砕いた。
体長四メートルを優に超えるその質量は、立ちはだかるだけで狭隘な峡谷の視界を完全に遮断していた。
全身を覆うのは、長年の風化と死の冷気によって何重にも結晶化した、鈍色に濁る灰岩の甲殻。胸部の中央では、バスケットボールほどもある巨大な灰の核が、脈打つ心臓のように不気味な青白い光条を明滅させている。
「止まれないにゃ! この速度でまともにぶつかったら、装甲馬車ごとひしゃげてペシャンコだにゃ!」
屋根の上で二丁拳銃を構えたフェリが、吹き荒れる突風に青髪を激しく乱しながら悲鳴のような警告を上げた。
青い三角耳は後方へペタンと伏せられ、太く膨らんだ青い尻尾が切迫した緊張感で激しく波打っている。
左右は切り立った赤土の断崖。逃げ場などどこにもない。
時速五十キロを超える速度で疾走する馬車の正面、わずか数十メートルの距離に、岩壁そのもののような巨獣が両腕を広げて立ち塞がっているのだ。
だが──。
四頭の巨馬を操る御者台の上で、男が吼えた。
「ハハッ! 退くわけがねえだろうが! この馬車を誰が操縦してると思ってやがるッ!」
クロードだった。
男は手綱を左腕一本に巻きつけて固定すると、背中に背負った身の丈ほどもある巨大な大太刀の柄を鷲掴みにした。
ズズッ……と鞘から刃が引き抜かれた瞬間、刀身の根元から、赤土の峡谷の冷え切った空気を根こそぎ蒸発させるほどの濃密な熱波が噴き上がった。
ボッ、ボオォォォォッ!!
噴き出したのは、通常の火炎ではない。
光を貪り喰らうかのような、ドス黒い不滅の火炎──十星天刃・第7席『黒炎』の象徴。
黒い双眸の奥に獰猛な怪光を宿したクロードは、跳びかかる灰狼たちの群れを一瞥すらすることなく、大太刀を片手で軽々と上段へ振りかざした。
「おい雑魚共! 俺の小隊の初陣に泥塗ってんじゃねえぞ──消し炭になりなッ!!」
──『黒炎衝』ッッ!!
豪快な一振り。
大太刀が空気を薙ぎ払った瞬間、刀身から解き放たれた黒炎の奔流が、巨大な津波となって街道の全幅を飲み込んだ。
ゴオォォォォォォォォッッッ!!!!
赤土の大地が爆熱によって一瞬でガラス状に焼き溶かされ、黒煙と灼熱の暴風が前方へ吹き荒れる。
街道の両脇を固め、馬車の側面へと飛びかかろうとしていた三十体以上の灰狼たちが、悲鳴を上げる間もなく黒炎の波に呑み込まれた。触れた端から水分を奪われ、炭化し、灰すら残さず灼熱の虚空へと霧散していく。
「なっ……!?」
屋根の上にいたカナタは、頭上を通過していった熱風の凄まじさに息を呑んだ。
肌をチリチリと焼くような圧倒的な質量と暴力。
今朝、素振りや稽古で見せてもらった力など、この男が宿す力のほんの一端に過ぎなかったのだと痛感させられる。十星天刃──人類の最高峰と呼ばれる存在の、桁外れの武威。
一撃で街道を埋め尽くしていた小型の群れは文字通り全滅し、馬車の突進路が真っ赤に焼け爛れた直線となって切り拓かれた。
──だが。
グオオォォォォォォォッッ!!
黒炎の火柱を突き破り、黒焦げになりながらも突進を止めない影があった。
中央に立ち塞がる変異灰熊だ。
体表の灰岩の甲殻は半分以上が赤熱し、溶岩のようにドロドロと崩れ落ちている。しかし、その内側に折り重なっていた第二層の骨装甲が、核から噴き出す絶対零度の冷気を全身に循環させ、クロードの黒炎を強引に凍結・鎮火させていたのだ。
「チッ、肉の壁が何重にもなってやがるか! 手応えだけは一丁前だな!」
クロードが舌打ちし、大太刀を構え直す。
だが、馬車と巨熊の距離はすでに五メートルを切っていた。
黒炎の衝撃波を放った直後の反動と、疾走する馬車の速度が相まって、クロードが二撃目を繰り出すよりも早く、巨熊の丸太のような剛腕が馬車の正面へ向けて振り下ろされた。
「グルアァァッ!」
振り下ろされる巨腕の切っ先には、鋼鉄の装甲板すら紙のように引き裂く鋭利な岩石の爪。
「させませんっ……! これ以上、前へは進ませません!」
客室の窓から身を乗り出したエレナが、凛とした叫びとともに腰の『医療用短杖』を両手で正面へと突き出した。
キィィィィン──!!
短杖の先端に埋め込まれた水色の魔導水晶が、限界を超えた眩い蒼光を放つ。
馬車の前面に展開していた清流の膜が、エレナの全魔導を吸い上げて何倍もの密度へと凝縮された。
──『水輪の障壁・絶流壁』!!
ドッガァァァァァァンッッッ!!!!
激突の瞬間、耳を塞ぎたくなるような凄まじい衝撃音が峡谷に木霊した。
巨熊の剛腕が、凝縮された水の防護壁に激突する。
荒れ狂う水飛沫と白灰の粉塵が爆発的に四方へ吹き荒れ、馬車の車体が悲鳴を上げて軋んだ。
牽引する四頭の巨馬が嘶き、前脚を高く跳ね上げる。
「くっ……、ああぁっ……!」
エレナの口から苦悶の喘ぎが漏れる。
短杖を握る細い両手が激しく震え、制服の袖口から覗く白い肌に青筋が浮かんでいた。
巨熊の突進の勢いは確かに殺した。だが、絶対零度の冷気が水の障壁を内側から侵食し、ピキピキと凍結の亀裂が走り始めている。
このままでは、あと一秒も持たずに障壁が粉砕され、馬車の正面が押し潰される。
「フェリ、撃ち抜けッ!」
クロードの怒号が飛ぶ。
「言われなくてもだにゃあぁぁっ!」
屋根の上から身を乗り出したフェリが、両手の二丁拳銃を変異灰熊の胸部へと突きつけた。
至近距離。照準器など必要ない。
カチャカチャと撃鉄が狂ったように往復し、耳を劈く発砲音が連射される。
ドバババババァンッッ!!
放たれた徹甲魔導弾の乱射が、巨熊の胸部の中央──青白く光る核へと殺到した。
だが──。
ガガガガギィィンッ!
甲高い跳弾の音が響き渡り、火花が虚しく夜空を焦がした。
巨熊は咄嗟に左腕を胸の前に交差させ、最も分厚い灰岩の肘当てで核を覆い隠していたのだ。
魔導弾は分厚い甲殻の表面をわずかに削り取っただけで、急所である核には一片の傷すら届かない。
「嘘でしょ……!? アタイの徹甲弾が、弾かれた……!?」
フェリの瞳に、戦慄の色が走った。
巨熊が激怒の咆哮を上げ、塞がれていた右腕を再び振り上げる。凍結しかけたエレナの水流障壁を、今度こそ粉々に粉砕せんと、その爪先が振り下ろされようとしていた。
「カナタッ! 左胸の装甲の継ぎ目を見るのじゃッ!!」
絶体絶命の瞬間、カナタの首元に巻きついていたコハクが、鼓膜を震わせる鋭い声を張り上げた。
白狐の金色の双眸が、神獣特有の霊視の光を宿して爛々と輝いている。
「あやつ、右腕を振り上げたことで左脇腹の岩板がわずかに浮いておる! 冷気の巡りが滞っておるあの隙間──核の直上じゃ! そこを通せば、一刀で核まで届くぞッ!」
「左胸の、継ぎ目……!」
カナタの視線が、巨熊の胸元へと一直線に射抜かれた。
確かに見える。
赤熱した岩板と、新たに再生しかけている灰の装甲が重なり合う、わずか数センチメートルの亀裂。
その奥底で、青白い絶対零度の光が、無防備に脈動していた。
けれど、あの巨熊の巨躯はまだ動いている。振り下ろされる右腕の速度は、生半可な踏み込みでは迎撃されて空中で叩き潰されるのが関の山だ。
「……動き、止める」
怜悧な囁きが、カナタのすぐ隣から響いた。
シエルだ。
銀白髪のポニーテールを夜風になびかせ、彼女は屋根の縁から音もなく身を躍らせていた。
疾走の余波で舞い散る赤土と水煙の中、シエルの両手から、黒い霊符が巻かれた四本の特殊クナイが放たれる。
シュパッ、シュパパパッ!
狙いは巨熊の肉体ではない。
巨熊が大地に落としている巨大な『影』──その四隅の急所。
カツン、カツンと硬質な音を立てて地面に突き刺さったクナイから、濃密な夜天紺の術式が蜘蛛の巣のように展開された。
──影縫い・『四方縛鎖』。
グ……ッ!?
振り下ろされかけていた巨熊の右腕が、まるで目に見えない鉄の鎖で縫い止められたかのように、空中でピタリと静止した。
地面の影を固定されたことで、四メートルを超える巨躯が前傾姿勢のまま硬直する。
「……持続限界、コンマ八秒!」
着地したシエルが、膝をつきながら叫んだ。
陶器のような横顔は険しく引き絞られ、ポニーテールの隙間から伸びた長いエルフ耳が、極度の集中と感情の昂ぶりでピコピコッと激しく上下に跳ね上がっている。
「……斬って、カナタ……ッ!!」
「──はいっ!!」
カナタの身体が、思考を置き去りにして地を蹴っていた。
馬車の屋根の装甲板を強く踏み抜き、空中へと跳び出す。
風が止まった。
視界が極限まで引き絞られ、世界がゆっくりとした時間の流れへと沈み込んでいく。
目の前には、凍りついたように静止した巨大な異形。
エレナが命がけで繋ぎ止めてくれた障壁。
フェリが削り取ってくれた外殻の装甲。
シエルが命を削って縫い止めてくれた、コンマ数秒の隙間。
そして、首元で信じて叫んでくれたコハクの声。
(みんなが……繋いでくれた……!)
昨夜の光景が、再び脳裏をよぎる。
父ソウマが灰になって崩れ去る瞬間、自分に遺した最後の言葉。
『生きろ、カナタ。お前の中にある火を……絶やすな』
恐怖は、もうなかった。
足の震えも、指先の冷えも、すべてが嘘のように消え去っていた。
ここにあるのは、仲間を守るという純粋な意志。
この温かい居場所を、二度と冷たい灰なんかに奪わせはしないという、魂の叫び。
(吸って、吐いて、丹田に落とす──)
胸いっぱいに冷気を吸い込み、下腹部の奥底──丹田へと意識を沈める。
毎朝、父と繰り返した薪割りの呼吸。
太刀を振るうのではない。ただ、真直ぐに、無駄を削ぎ落とし、芯を捉えて割り落とす。
ドクンッ──!!
心臓の奥底で、小さな火種が眩い閃光を放って弾けた。
純白の熱量が、毛細血管の隅々を通って全身へと吹き荒れる。
カナタの両手が、腰から抜き放たれた太刀──『不知火』の柄を力強く握り締めた。
キィィィィィィンッッッッ!!!!
赤土の峡谷の闇を切り裂いて、澄み渡る白銀の光条が溢れ出した。
今朝の稽古で見せた不完全な薄膜ではない。
刀身の輪郭を完全に呑み込み、揺らめく白銀の陽炎となって燃え盛る、人類唯一の絶対の熱量。
──『熾衣・白銀纏刀』。
「おおおおおおおおっっ!!」
巨熊の影縫いが弾け飛んだ。
拘束を解かれた巨腕が、カナタを空中で叩き潰そうと横薙ぎに迫る。
だが、カナタの太刀筋は、すでにその上を行っていた。
上段からの、真っ直ぐな一刀。
雑念を一切交えない、薪割りの軌道。
白銀の光を纏った不知火の切っ先が、コハクの指示した左胸の装甲の継ぎ目──わずか数センチメートルの亀裂へと、吸い込まれるように滑り込んだ。
ズバァァァァァァァァンッッッッ!!!!
硬質な岩を断ち切る感触は、一切なかった。
白銀の刃に触れた瞬間、何十重にも重なり合っていた灰岩の甲殻が、まるで熱したナイフを押し当てられたバターのように、音もなく両断されたのだ。
刃はそのまま深々と吸い込まれ、胸の奥底で青白く脈打っていた絶対零度の核を、真っ向から真一文字に両断した。
「──ッ!?」
巨熊の瞳から光が消えた。
咆哮すら上がらない。核を両断された巨躯が、空中でピタリと硬直する。
そして、その直後だった。
戦場にいた全員の呼吸が止まるほどの、圧倒的な光景が広がったのは。
シュウゥゥゥゥッ……!
不知火が通り抜けた切り口から、眩い純白の光の粒子が、奔流となって噴き出したのだ。
通常、灰燼種が倒された時は、ドス黒い煤と悪臭を放つ煙となって崩れ落ちる。
だが、カナタの白銀が触れた変異灰熊の肉体は、全く違う反応を示していた。
切り口から広がった白銀の輝きが、巨熊の全身を覆う灰岩の装甲を、冷たい腐食の筋肉を、みるみるうちに光の粒子へと変換していく。
まるで、凍りついた時間が急速に解け、命の熱が満ちていくかのように。
灰化の侵食が逆流し、黒泥の巨体が、透き通るような白銀の燐光となってサラサラと解け崩れていく。
パラパラ、サラサラ……。
赤土の峡谷に、光の雪が降る。
悪臭も、冷気も、黒煙すらも残さない。
体長四メートルを超えていた大型灰燼種は、ただの一欠片の灰すら残さず、美しく輝く光の粒子となって大気の中へと完全に昇華し、蒸発消滅した。
トンッ。
カナタは軽やかに街道の赤土へと着地した。
両手で構えた不知火の刀身からは、微かに白い湯気が立ち上り、白銀の燐光が静かに鞘へと収まるように消え去っていく。
「はぁ……っ、はぁ……っ……」
荒い呼気が口から漏れる。
膝の力が抜けそうになりながらも、カナタは不知火を正眼に構えたまま、周囲を見渡した。
街道を塞いでいた巨影は、跡形もなく消え失せていた。
ただ、カナタの周囲にだけ、ふわりと温かな陽光のような光の粒が漂い、ゆっくりと鉛色の空へと溶けていくだけだった。
「……消え……た……?」
屋根の上で拳銃を下ろしたフェリが、呆然と呟いた。
青い瞳を極限まで見開き、口元に手を当てている。
「灰が……煤にもならずに、光になって消えちゃったにゃ……? あんなの、見たことないにゃ……」
フェリの背後で、青い尻尾が驚きのあまりピーンと直立していた。
「……完全消滅」
クナイを収めたシエルもまた、胸元を押さえながら息を呑んでいた。
感情を殺す訓練を受けてきたエルフの忍びの顔に、隠しきれない驚愕が張り付いている。
銀白のポニーテールの隙間から伸びた長い耳が、小刻みに、何度も何度もピコピコと激しく痙攣するように動いていた。
「……灰の残留反応、ゼロ。核の再生力、完全無力化。……信じられない」
「カッカッカ! 見たか、愚か者どもめが!」
静まり返った峡谷に、尊大な笑い声が響き渡った。
カナタの首元で、コハクが誇らしげに胸を張り、純白の尻尾をふわりと揺らす。
「これぞ妾の主たるカナタの力! 世界で唯一、死の灰を光へと還す浄化の白銀じゃ! そなたら人間如きの浅薄な常識で測れると思うでないわ!」
「コハク、言い過ぎです……」
カナタが苦笑しながら首元を撫でると、コハクは満足そうに目を細めて喉を鳴らした。
「カナタ君!」
馬車の扉が開き、エレナが駆け寄ってきた。
短杖を腰のホルダーへと収め、彼女はカナタの両手をぎゅっと包み込んだ。
「怪我はありませんか!? 無理にアウラを巡らせて、脈が乱れたりしていませんか!?」
「だ、大丈夫です、エレナさん。身体中がすごく温かくて……どこも痛くありません」
「ああ、良かったです……!」
エレナは心底安堵したように胸を撫で下ろし、柔らかな笑みを浮かべた。
「本当に、お見事でした。あなたの白銀は……本当に、この世界を救う光なのかもしれませんね」
仲間の温かい視線が、カナタの胸を満たしていく。
守れたのだ。
逃げ出さずに、仲間たちと共に刃を振るい、この温もりを守り抜くことができた。
「──おいおい、湿っぽい空気にしてる暇はねえぞ」
御者台から、豪快な足音が響いた。
大太刀を背中の鞘へと荒々しく収めたクロードが、腕を組んでカナタを見下ろしていた。
その瞳の奥に浮かんでいるのは、満足げな、獰猛な笑みだ。
「へっ、合格点だ、カナタ。薪割りの呼吸、実戦でも忘れずに丹田に落とし込めてたじゃねえか。仲間が作った隙を逃さず仕留める──それが小隊の戦い方だ」
「クロード隊長……! はいっ!」
師匠からの初めての称賛に、カナタの顔がパッと明るくなる。
「乗り込め! 峡谷を抜けるぞ!」
クロードが再び手綱を握り直し、長鞭を振るった。
カナタたちが慌てて馬車へと飛び乗ると、四頭の巨馬が力強く地を蹴り、馬車は赤土の峡谷を一気に駆け抜けていった。
ガタガタと揺れる車体。
切り立った崖が途切れ、視界が一気に開けた。
だが──。
「……っ!?」
小窓から外を覗き込んだカナタの息が、再び凍りついた。
峡谷を抜けた先に広がっていたのは、地平線の果てまで続く荒涼たる岩石地帯。
そして、その中央にそびえ立つ、巨大な黒鉄の要塞──西方国境第3区『鉄鋼砦』。
だが、その砦の姿は、あまりにも無残だった。
外郭を取り囲む第1防衛区の巨大な城壁は無惨にへし折られ、至るところから真っ黒な煙と、不吉な白灰の竜巻が立ち上っている。
上空を覆う鉛色の雲海は不気味に渦を巻き、砦の遥か彼方から、何十本もの救難を知らせる黒い狼煙が天を焦がしていた。
「……第1防衛区が、すでに陥落しているにゃ……」
フェリの震える声が響く。
クロードの鋭い双眸が、氷のように冷たく細められた。
「おい、お前ら。寛ぎタイムはここまでだ。腹を括れ」
男の低く重い声が、車内の空気を一瞬で戦時へと引き戻す。
「砦が丸ごと呑まれかけてやがる。……強行突入だッ!!」
第8話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
十星天刃第7席クロードの圧倒的な『黒炎衝』による大蹂躙!
そして、立ち塞がる大型変異灰熊に対し、シエルの影縫い、コハクの指示、エレナの防護、フェリの射撃という完璧な連携から放たれた、カナタの『白銀纏刀』による初討伐!
切り口から光が溢れ、死の灰が完全に蒸発消滅する「白銀の奇跡」が、仲間たちの前で初めて披露されました。
しかし、峡谷を抜けた先に広がっていたのは、黒煙を上げて炎上する鉄鋼砦の惨状……!
第9話は西方前線の凄惨な現実と、絶望に抗う守備兵たちのもとへ、第7小隊が突入します!
どうぞお楽しみに!




