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『灰燼の世界で、俺の白銀(アウラ)だけが消えない』 ──東方の刀『不知火』で切り拓く夜天の夜明け──  作者: 柊 篝


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第25話:白銀の一閃、『不知火・瞬閃』!

傷だらけの仲間たちが血を流し、命を削って繋いだ──奇跡のコンマ数秒。

倒れたカイン、遠くで大軍を食い止めるクロード。

託された全ての想いを丹田に収束させ、カナタが居合の深淵から解き放たれる!

音速を突破する踏み込み!

鞘走る不知火の刃が描くのは、死の灰を根底から消滅せしめる純白の軌跡!

「不知火流抜刀術──『不知火・瞬閃』ッッ!!!!」

第1章最大クライマックス!

十二灰将第12将カリグスとの死闘、完全決着の一閃が放たれる!!

 すべての音が、世界の彼方へと吸い込まれて消え去っていた。

 吹き荒れていた死灰の冷気も、立ち込める血煙の匂いも、遙か後方でクロードが振るう黒炎の轟音すらも、今のカナタの耳には届かない。

 張り詰めた薄氷の膜のような静寂。

 その透明な静止世界の中で、カナタの鼓動だけが、ドクン、ドクンと深く、力強く魂を揺さぶっていた。

 目の前には、第12将カリグス。

 エレナの水流鏡壁が砕かれ、フェリの零距離斉射が跳ね除けられ、シエルの影縫いが引き裂かれ、コハクの全霊の神気縛鎖が軋みを上げて弾け飛ぼうとしていた。

 四人が血を流し、骨を軋ませ、自らの命の灯火をギリギリまで削り取ってこじ開けてくれた──わずかコンマ数秒の硬直。

「小癪な、羽虫どもがァッ……!」

 カリグスの漆黒の甲冑が、神気の残滓を力任せに吹き飛ばした。

 頭上高くへと掲げられた『超重力両刃竜骨大剣』。

 数トンの質量と空間を歪曲させる漆黒の重力波を宿したその巨刃が、大地へ向けて無慈悲に振り下ろされようと動き出す。

 その巨刃が地面へ触れた瞬間、倒れ伏すフェリも、シエルも、エレナも、コハクも、そしてカインも──中庭に存在するすべての命が、原子レベルで押し潰されて消滅する。

 だが──その凶刃が振り下ろされるよりも、ほんの刹那。

 カナタの意識は、すでに「極限の先」へと到達していた。

(吸って、吐いて……丹田に落とす)

 父ソウマが教えてくれた、雪深き寒村での薪割りの呼吸。

 無心。無我。

 恐怖を捨て、迷いを払い、ただ目の前の一点を割ることだけに己の全存在を捧げる平穏なる拍動。

 へその下──丹田の奥底で渦巻く「純白の火種」が、仲間の流した血と重なり合い、太陽の核をも超える白銀の超高熱となって臨界点を突破した。

 クロードに叩き込まれた、全身全霊のアウラ操作。

 拡散させてはならない。

 体表から溢れ出させてもならない。

 すべての熱量を、ただ一振りの太刀へ。

 刀身の表面、わずか数ミリの隙間に、宇宙の始まりのような超高密度の白銀の熱を極限まで圧縮し、吸着させる。

 カチリッ──。

 不知火の鯉口が、静かに弾けた。

 沈み込んだカナタの身体。

 低く、水面を這うように沈下した重心。

 右足の親指が、血塗られた石畳を寸分の狂いもなく噛み締める。

 骨格が、筋肉が、血流が、そして魂の熱量が、一本の研ぎ澄まされた槍となって完璧に噛み合った。

 カリグスの大剣が、頭上からわずかに下降を始めた──そのコンマ零秒の瞬間。

 ──ドガァァァァァァァァァンッッッッ!!!!

 大地が、爆砕した。

 カナタの右足の踏み込み。

 蹴り出された足元の石畳が、半径十メートルにわたって粉微塵の砂へと破砕され、白銀の衝撃波が円形に爆ぜ広がった。

 音速の壁を軽々と突破した、神速の踏み込み。

「……ッ!?」

 瓦礫に倒れ伏していたシエルの長いエルフ耳が、超音速の破裂音を捉えてピクッ、ピクピクと、かつてないほど激しく跳ね上がった。

 フェリの青い三角耳がピンと垂直に突っ立ち、血溜まりの中で碧い双眸が見開かれる。

 折れた雷槍の傍らで横たわるカインの、細まりきった竜の縦瞳が、信じられないものを見るように見開かれた。

 カナタの姿が──カリグスの視界から、完全に「消失」していた。

「な……ッ!?」

 十二灰将の深淵たる知性を持ってしても、その速度は認識の埒外だった。

 大剣を振り下ろすカリグスの漆黒の瞳。

 その網膜に映ったのは、残像すら置き去りにして自らの懐──死角の最深部へと滑り込んできていた、一人の黒髪の少年の姿。

 少年の顔には、一切の憎悪も、怒りもなかった。

 ただ澄み渡る夜空のように静かで、仲間を護るという純粋なる意志だけに研ぎ澄まされた、凛々しい双眸。

 左手で鞘を引き絞り、右手の掌が不知火の柄を握り締める。

 鞘走る刀身。

 引き抜かれた不知火の刃が、夜の闇を純白に染め上げた。

 立ち昇る煙はない。

 散る火花もない。

 ただ、世界そのものを両断するかのような、絶対の純度を誇る白銀の極光。

 不知火流抜刀術 覚醒新奥義──

「──『不知火・瞬閃(しらぬい・しゅんせん)』ッッ!!!!」

 閃光が、水平に走った。

 ──ズババババババババァァァァァァァンッッッッ!!!!

 それは、雷鳴よりも速く。

 光よりも鋭い、神速の一文字。

 カリグスが振り下ろしかけていた『超重力両刃竜骨大剣』の分厚い刀身──数千トンの重力を束ねた漆黒の神鉄が、まるで温めた刃で撫でられたバターのように、音もなく、抵抗もなく、滑らかに真っ二つに両断された。

 そして、白銀の太刀筋は止まらない。

 大剣を切り裂いた不知火の刃は、そのままカリグスの胸元──漆黒の竜鱗甲冑の中央で青白く不吉に脈打っていた、十二灰将の証たる刻印【 Ⅻ 】の核を、寸分の狂いもなく、真一文字に両断した。

 ズッ……と。

 核の内部に眠る超重力の深淵を、不知火に纏わせた白銀の熱量が真っ向から焼き切り、融解させ、貫通した。

 シュバッ……!!

 カナタの身体が、カリグスの背後十数メートルの空間へと一瞬で突き抜けた。

 石畳を滑るように低く着地する両足。

 左手に鞘を水平に構え、右手に白銀の光条を微かに残す不知火を握り、滑らかな円を描いて残心をとる。

 世界が、完全に停止していた。

 カリグスは、大剣を振り下ろす姿勢のまま、ピクリとも動かなかった。

 両断された竜骨大剣の切っ先が、重力に従ってガラン……と鈍い音を立てて石畳へと落ちる。

 男の漆黒の瞳が、ゆっくりと、己の胸元へと落とされた。

 胸当ての中央。

 青白く輝いていたはずの【 Ⅻ 】の刻印。

 その真ん中に、一条の細く、眩い白銀の亀裂が走っていた。

「バ……カな……」

 カリグスの唇から、掠れた声が零れ落ちた。

 それは、生まれて初めて「死」という概念に直面した、天災の驚愕だった。

「我ら……十二灰将が……この……深淵の理を統べる我が……このような……名もなき……人の子の……白銀に……ッ!?」

 ピキ……ピキピキピキピキッ……!!

 刻印の亀裂から、血は出なかった。

 黒煙も出なかった。

 噴き上がったのは──濛々たる純白の蒸気と、中庭全体を昼間のように照らし出す、圧倒的な「白銀の浄化光」だった。

 ジュウウゥゥゥゥッ! ジュウウゥゥゥゥッ!!

 シュオオオオオオオオオオオッッッッ……!!

 不知火の一閃によって叩き込まれた白銀の熱が、刻印【 Ⅻ 】を起点として、カリグスの全身へと爆発的に駆け巡った。

 漆黒の竜鱗甲冑が、銀髪が、背中の竜骨翼が、両断された大剣の残骸までもが、白銀の光に触れた端から、ジュウジュウと激しい昇華音を立てて溶け崩れていく。

 腐食ではない。

 破壊ですらない。

 死灰という呪縛そのものが、世界の理から優しく解き放たれ、ただの清らかな光へと還っていく絶対の浄化。

「グ……ガ……アァァァァァァァァッッッッ!!!!」

 断末魔の絶叫とともに、第12将カリグスの巨躯が、頭の天辺から足の爪先に至るまで、無数の眩い「純白の光の粒子」へと変貌していった。

 キラキラと、夜空に舞い散る蛍のように。

 あるいは、陽光に照らされて溶けゆく粉雪のように。

 鉄鋼砦を恐怖の底に叩き落とした十二灰将の末席は、一片の灰も、一滴の血も残すことなく、美しい光の雨となって虚空へと溶け、完全に蒸発・消滅した。

 パリンッ……。

 核の完全消滅を告げる澄んだ音が、中庭に優しく響き渡った。

 チャキン──。

 静寂の中、カナタがゆっくりと不知火を鞘へと納めた。

 鯉口がカチリと噛み合う澄んだ金属音。

 それと同時に、カナタの体表を包んでいた白銀の熱が、淡く、優しく夜風の中へと溶けて消え去っていった。

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 カナタの肩が、大きく上下した。

 全身の筋肉が熱を持ち、アウラを使い果たした疲労が津波のように押し寄せてくる。

 足が震え、膝をつきそうになる。

 けれど──少年は倒れなかった。倒れるわけにはいかなかった。

 しっかりと両足で大地を踏み締め、ゆっくりと振り返った。

 そこには、呆然と自分を見つめる仲間たちの姿があった。

「……う、そ……」

 瓦礫に埋もれていたフェリが、青い三角耳をピンと立てたまま、ポカンと口を開けていた。

 太い青い尻尾が、信じられないといったように小刻みに震えている。

「き、消えちゃったにゃ……? あの……カイン様すら倒した化け物が……跡形もなく、光になって消えちゃったにゃ……!?」

「……核の消滅、確認」

 シエルが血の滲む額を押さえ、震える声で呟いた。

 銀白のポニーテールを揺らし、その長いエルフ耳が、静まり返った大気の気配を捉えてピクッ、ピクピクと、驚愕と安堵に揺れている。

「……信じられない。太刀筋ひとつで……十二灰将を、消滅させた……」

「カナタ君……!」

 エレナが泥だらけの顔を上げ、大粒の涙をボロボロと零しながら微笑んだ。

「よかった……本当に、よかった……!」

「ふ……ふん! 妾の見込んだ男じゃ、当然じゃわい……!」

 地面に転がっていた小さな白い毛玉──コハクが、プルプルと身体を震わせながら起き上がり、誇らしげに鼻を鳴らした。

 その金色の瞳には、かつてないほどの敬意と感嘆の色が宿っていた。

 そして──。

「……はは……すごいな、君は……」

 掠れた、けれど心底からの賛辞を込めた声が響いた。

 瓦礫に背を預けていたカインだった。

 胸元の傷を押さえ、血を流しながらも、その碧眼──人間としての穏やかな瞳が、眩いものを見るようにカナタを見つめていた。

「俺でさえ倒すのが難しかった十二灰将を……君は、たった一振りでやってのけたんだね……」

 その時だった。

 グルルルルッ……!? ギィィィッ……!?

 外郭の裂け目を埋め尽くしていた数百の灰燼種の群れから、動揺の悲鳴が上がった。

 主である第12灰将カリグスが消滅したことにより、怪物を縛り付けていた魔力の楔が完全に崩壊したのだ。

 統率を失った灰獣たちは、次々と足元からボロボロと黒い灰となって風化し、崩れ去っていく。

 生き残った個体も、恐怖に駆られたように荒野の彼方へと我先にと逃げ散っていった。

「──ガハハハハハハハッッッッ!!!!」

 戦場の空気をビリビリと震わせる、豪快極まりない笑い声が轟いた。

 黒炎の大太刀を肩に担ぎ、大股で歩み寄ってくる大男──クロードだった。

 特注軍服を煤だらけにし、その黒い瞳を爛々と輝かせた隊長が、天を仰いで腹の底から歓喜の咆哮を上げた。

「やりやがったなァ、馬鹿弟子がッッ!! 十二灰将を一刀両断たァ、最高の初陣じゃねえかァッッ!!!!」

 クロードの怒号のような賛辞が響き渡った、その瞬間──。

 ヒュオオオオオオオオッッッッ……!!

 中庭を、一陣の清らかな風が吹き抜けた。

 カリグスが消滅した地点から立ち昇った白銀の光の奔流が、天を衝く巨大な光柱となって、遥かなる天空へと突き抜けたのだ。

 ズズズズズッ……!!

 見上げる頭上。

 何十キロメートルにもわたって大地を閉ざし、鉄鋼砦の頭上から太陽を奪い去っていた鉛色の灰雲。

 その分厚い雲海が──まるで巨大な神の御手によって押し開かれるように、真っ二つに、ゆっくりと割れていった。

 雲の裂け目から差し込んできたのは──。

「あ…………」

 カナタが、息を呑んで空を見上げた。

 澄み渡る、どこまでも深い碧──本物の「青空」。

 そして、その青空の真ん中から、黄金色に輝く暖かな「太陽の光」が、幾重もの光条となって中庭へと燦々と降り注いできたのだ。

「太陽……光だ……!」

「あったかい……本当に、お日様だ……!」

 瓦礫の陰から這い出してきたリックや軍医バートン、生き残った守備兵たちが、空を見上げて涙を流した。

 降り注ぐ陽光が、傷だらけの戦士たちの頬を、優しく、暖かく包み込んでいく。

 死の灰の闇は、払われた。

 絶望の嵐を越えたその場所に、新しい時代の光が、確かに満ちていた。

第25話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

仲間たちが命がけで繋いでくれた奇跡のコンマ数秒を受け取り、カナタが放った音速を超える一閃!

不知火流抜刀術 覚醒新奥義『不知火・瞬閃』が、十二灰将第12将カリグスを胸元の刻印【 Ⅻ 】ごと一刀両断しました!

死の灰を根底から消滅させる白銀の浄化光により、第12将は一片の塵も残さず完全消滅!

そして、鉄鋼砦の頭上を長年覆っていた鉛色の灰雲が晴れ渡り、奇跡の青空と太陽の光が降り注ぎました!

これにて、第1章の最大決戦が完全決着!

次回より、死闘を生き抜いた戦士たちのご褒美エピローグが開幕します!

第26話もどうぞよろしくお願いいたします。

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