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『灰燼の世界で、俺の白銀(アウラ)だけが消えない』 ──東方の刀『不知火』で切り拓く夜天の夜明け──  作者: 柊 篝


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第22話:天翔ける竜人、外殻破砕!

地上からの攻撃が一切届かない高度三百メートル!

砦を丸ごと消滅させんとする鋼鉄の四翼灰竜カリグスに対し、十星天刃第9席カインが下した決断──!

「あの偽りの鋼鉄の竜を、僕がこの手で大地へと叩き落としてみせます」

解き放たれる神話の力──『竜化解放』!

夜空を引き裂く黄金の雷翼を広げ、音速を超えて天空へと翔け上がる若き貴公子!

激突する二頭の竜!

炸裂する竜化解放奥義『雷竜天翔・撃滅神鳴槍』が、空を統べる鋼鉄の外殻を粉々に砕き散らす!!

 吹き荒れる猛毒の死灰と、クロードの黒炎が焦がした強烈な熱気が、中庭の大気を歪ませていた。

 瓦礫に覆われた大地の上に仁王立ちするクロードの足元からは、いまだプスプスと黒い煙が立ち昇り、大太刀を握る分厚い手からは僅かに血が滲んでいる。

 十星天刃の剛勇をもってしても、全長二十五メートルの巨竜が放った広域殲滅ブレスを真っ向から防ぎ切るのは、全身の筋肉を千切り取られるほどの過負荷だった。

 そして見上げる天空──高度三百メートルの虚空を、鋼鉄の四翼灰竜は嘲笑うかのように優雅に旋回していた。

 地上にいる限り、人間側にはあの巨躯を捉える決定打がない。

 大太刀の間合いも、カナタの不知火の刃筋も、遥かなる雲海の下には決して届かない。

 二射目のブレスが放たれれば、今度こそ鉄鋼砦の全域が地図の上から消滅する──誰もがその破滅の未来を予感し、息を詰めていたその時だった。

「──クロード。あいつを、引きずり降ろします」

 静かに、けれど鋼のように硬質な決意を宿した声が響いた。

 歩み出たのは、十星天刃第9席、カイン・アルヴァレスト。

 白銀の雷槍を垂直に立て直し、金髪を風に靡かせた青年の横顔に、一切の迷いはない。

「カイン……?」

 カナタが思わず息を呑んだ。

 クロードは黒鉄の大太刀を握り直すと、獰猛な笑みを口元に刻み、肩越しにカインを一瞥した。

「行けるのか、カイン。相手は十二灰将の化け物だぞ」

「愚問ですね」

 カインは端整な唇の端をふっと持ち上げた。

「空を統べるのは、あのような偽りの鋼鉄の竜ではない。……夜天守護騎士団の第9席として、そして、誇り高き竜の血を引く者として──僕の空を、あの死灰に穢させるわけにはいきません」

 ドクンッ──。

 カインの胸の奥底で、大地を揺らすような重厚な鼓動が跳ね上がった。

 青年の全身を包む大気が、一瞬にして超高圧の電磁場へと変貌する。

 バチバチ、バチバチと、足元の石畳から細かな小石が重力を失ったかのようにフワリと浮き上がり、黄金の火花を散らして弾け飛んだ。

「示せ、古の誓約──我が血肉に眠る雷竜の神威よ」

 カインの呟きとともに、劇的な変化がその肉体に訪れた。

 青年の金髪の隙間から覗いていた淡い黄金の突起──小さな竜の角が、メリメリと澄んだ音を立てて伸長したのだ。

 それは頭部を包み込むように優雅な弧を描き、神話の神殿の彫刻にも似た、気高く眩い二本の「黄金の雷角」へと姿を変える。

 さらに、吸い込まれるように澄んでいた碧眼の瞳孔が、爬虫類のように縦に鋭く引き絞られ、神聖なる黄金の光を宿した。

 顔の輪郭や首筋、手の甲に、薄っすらとダイヤモンドのように硬質な金色の竜鱗が浮かび上がり、竜人と人間の血を引く若き騎士の身体能力を、神話の次元へと跳ね上げていく。

 だが──本当の神威は、その直後に現れた。

 ドガァァァァァンッッッッ!!!!

 青年の背中から、純白と群青の特注軍服を突き破ることなく、純粋なアウラと黄金の稲妻で編み上げられた巨大な「二枚の雷光の翼」が、左右十数メートルにわたって爆発的に展開されたのだ。

「にゃ……にゃあああぁぁぁっ!?」

 フェリが青い両手で頭を抱え、文字通り飛び上がった。

 青いショートヘアを激しく逆立て、青い三角耳をピンと垂直に突っ立たせている。太い青い尻尾を針のようにピーンと伸ばして、その青い双眸を丸く見開いていた。

「せ、背中から雷の羽が生えたにゃーっ!? カイン様、本当に竜になっちゃったにゃ!?」

「……竜化、解放。竜人の先祖返り」

 シエルもまた、息を呑んで立ち尽くしていた。

 銀白のポニーテールが強烈な電磁風に煽られ、その長いエルフ耳が、超高密度の魔力放電の音を拾ってピクッ、ピクピクと激しく跳ね上がっている。

「……信じられない密度。純粋な神話級の雷霆」

「ほほう……見事なものじゃな」

 カナタの首元で、コハクがふかふかの純白の尻尾を立て、感嘆の声を漏らした。

「人の身でありながら、暴走することなく内なる竜の血を完全に統御しておる。並の精神力では、竜の闘争本能に飲み込まれて理性を失うところじゃが……さすがは十星天刃というべきか」

「カインさん……」

 カナタは、ただただ圧倒されていた。

 自分と同じく、人の形を保ちながらも、その背中に宿る黄金の翼はあまりにも神々しく、戦場を覆う絶望の死灰を一片たりとも寄せ付けない。

 特注軍服の防護性能などもはや不要と言わんばかりに、カインの体表から溢れ出る黄金の熱量は、上空から降り注いでいた死灰の微粒子を触れる端からパチパチと瞬時に蒸発させていた。

「カナタ君、第7小隊の諸君」

 カインは雷翼を背に羽ばたかせ、ゆっくりと宙へ浮き上がりながら、地上を見下ろした。

 その声は、重厚な雷鳴の響きを帯びていた。

「砦の地上を頼む。あいつは俺が、必ずこの大地へと撃ち落とす!」

「任せとけ!」

 クロードが大太刀を肩に担ぎ直し、不敵に笑った。

「派手にぶちかましてこい、カイン!」

「はい──『竜化解放(ドラグ・リリース)』!!」

 ドズオォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 中庭の石畳が円形に爆砕した。

 カインの黄金の雷翼が力強く一羽ばたきした瞬間、青年はもはや人の目では捉えられない「光条」と化して垂直に跳ね上がった。

 衝撃波が地上を叩き、遅れて大気を突き破る轟音が轟く。

 音速の壁を軽々と突破した超急上昇。

 青年の身体は、空を覆う鉛色の灰雲を突き破り、わずか一秒で高度三百メートルの空中領域へと到達していた。

『──グ……ル……ァ……ッ!?』

 突如として自らの絶対安全圏へと侵入してきた黄金の光に対し、四翼灰竜カリグスが不快そうに顎門を鳴らした。

 全長二十五メートルの巨竜が、四枚の灰鉄の翼を大きく羽ばたかせる。

 ヒュオォォォン……!

 巨竜の全身を覆う重力超合金の外殻から、目に見える重力歪曲の波とともに、無数の黒い結晶弾──『重力死灰散弾』が全方位へと撒き散らされた。

 直撃すれば、巨大な飛空艇ですら瞬時に蜂の巣にされ、質量で圧壊させられる死の弾幕。

 だが──カインの速度は、その散弾の嵐を遥かに上回っていた。

「遅い──!」

 キィィィィンッ!

 カインは空中で急停止、直角に軌道を曲げるという、三次元機動の極致を見せつけた。

 黄金の雷翼を畳み、大気の摩擦を電撃で相殺しながら、飛来する散弾の隙間を縫うようにジグザグに疾走する。

 地上で見上げるシエルの長いエルフ耳が、空を引き裂く幾重もの音速突破音を捉えてピクピクと激しく跳ね回る。

 巨竜の放つ重力波など、音速を超えるカインの前にはただの停滞した水溜まりに過ぎない。

 シュバッ! シュバッ!

 散弾の嵐を完全に置き去りにしたカインは、瞬く間に巨竜の死角──頭上数百メートルの、さらに高い天空の頂点へと回り込んでいた。

 そこは、灰雲の切れ目から覗く、わずかな星空の領域。

 カインは白銀の雷槍を両手で握り締め、頭上の巨竜を見下ろした。

 黄金の雷角が眩く明滅し、背中の雷翼が極大まで広げられる。

「これでおしまいだ、偽りの竜よ」

 カインの全身から、すべての黄金熾衣が、そして竜人の心臓から汲み上げられた莫大な生命の熱量が、白銀の雷槍の穂先へと収束していった。

 キィィィィィィィン……ッ!

 高周波の軋み音とともに、槍の先端に直径五メートルを超える巨大な黄金の雷球が形成される。

 その光はあまりにも強烈で、暗黒に閉ざされていた鉄鋼砦の空を、真昼の太陽のように黄金色に染め上げていた。

『──オ……ォ……ォ……ッ!?』

 頭上に生じた尋常ならざる熱量に、巨竜カリグスが初めて明確な恐怖の咆哮を上げた。

 四枚の翼を無理やりに上空へと反転させ、その凶悪な口腔をカインへと向ける。

 二射目の『滅界灰化咆哮』を放とうと、青黒い重力光が喉奥で収束を始める──。

 だが、遅い。

 すべてが、十星天刃の神速の前には遅すぎた。

「我が槍は天を穿ち、大地を震わす神鳴りの一撃──!」

 カインの全身が、逆さまの姿勢で大地へと照準を合わせた。

 雷翼が一気に羽ばたき、重力と推力のすべてを味方につけた、音速の数倍に達する垂直急降下──!

 竜化解放奥義──『雷竜天翔・撃滅神鳴槍(らいりゅうてんしょう・げきめつしんめいそう)』ッッ!!!!

 ──ズドォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 世界から、一瞬だけ音が消えた。

 天空から地上へ向けて振り下ろされたのは、一本の巨大な黄金の雷柱そのものだった。

 迎撃のブレスを放とうとしていた巨竜の口腔が開き切るよりも早く、カインの白銀の雷槍が、巨竜の頭部の天辺──漆黒の重力超合金の外殻へと、真っ向から突き刺さった。

 ピキ……ピキピキピキッ……!!

 時間すら凍りついたようなコンマ零秒の静寂。

 厚さ数メートルを誇り、あらゆる砲撃を傷一つなく弾き返してきた鋼鉄の外殻に、黄金の亀裂が蜘蛛の巣のように走った。

 そして──。

 ──ドガガガガガガガガガガガァァァァァンッッッッ!!!!

 装甲が、耐えきれずに木っ端微塵に爆砕した。

 槍の穂先から解き放たれた数百億ボルトの黄金雷撃が、外殻を突き破って巨竜の体内へと一気に雪崩れ込んだのだ。

 ズババババァンッ!

 巨竜の体内を駆け巡る雷の濁流が、背中の四枚の灰鉄の翼の関節部を、内側から力任せに吹き飛ばし、焼き千切る。

 推進力を生み出していた飛行器官が、一瞬にして完全破壊された。

『──グ……ギ……ヤ……ア……ア……ア……ア……ッッッッ!!!!』

 断末魔の叫びを上げながら、全長二十五メートルの巨躯が、天から力なく千切れ落ちた。

 頭部を砕かれ、翼をへし折られた鋼鉄の巨神が、重力に引かれるまま、地上へと真っ逆さまに落下していく。

「お、落ちてくるにゃあぁぁぁっ!」

「退避! 外郭広場へ落ちるぞッ!」

 砦の兵士たちが叫び、一斉に胸壁の陰へと伏せた。

 そして──。

 ──ズドォォォォォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!

 鉄鋼砦が、まるで巨大な隕石の直撃を受けたかのように激しく揺れ動いた。

 外郭広場の堅牢な石畳が何十メートルにもわたって陥没し、数千トンもの瓦礫と土煙が、巨大なキノコ雲となって天へと吹き上がった。

 爆風が中庭を吹き抜け、残されていた胸壁の残骸をガラガラと崩れ落ちさせる。

 パチ……パチパチパチ……。

 濛々と立ち込める煙の中を、黄金の放電を纏った一人の騎士が、優雅に舞い降りてきた。

 カインだった。

 背中の雷光の翼はすでに淡く消え去り、黄金の角も元の小さな突起へと戻りつつあった。

 青年は片膝をついて中庭の石畳へ着地すると、白銀の雷槍を支えにして立ち上がり、荒い息を吐きながらカナタたちを振り返った。

「ハァッ……ハァッ……。……約束通り、引きずり降ろしたよ」

 その純白の軍服の裾は焦げ、額には激しい疲労の色が滲んでいた。

 神話の血を極限まで引き出し、奥義を放った代償は小さくない。

 だが、その碧眼には、敵の最大戦力を撃墜したという確かな誇りが宿っていた。

「カイン様……!」

 エレナが胸を押さえ、駆け寄ろうとした。

「す、すごいにゃあぁぁぁっ!」

 フェリが青い三角耳をピンと立て、青い尻尾をちぎれんばかりに振って跳び跳ねた。

「あのデカブツを、本当に一人で叩き落としたにゃ! 十星天刃、半端ないにゃーっ!」

「やった……! 勝ったんだ……!」

 瓦礫の陰から顔を出したリックが、涙を流して叫んだ。

 守備兵たちからも、喉が張り裂けんばかりの大歓声が沸き起こる。

 全長二十五メートルの鋼鉄の四翼灰竜が墜落し、頭部を粉砕されて動かなくなったのだ。誰もが、今度こそこの悪夢が終わったのだと確信した。

 だが──。

「…………待て」

 クロードの、氷のように冷たい声が響いた。

 歓喜に沸く兵士たちの声を制するように、大太刀を構えた大男が、煙の立ち込める外郭広場を鋭い黒い双眸で睨み据えていた。

「クロードさん……?」

 カナタが不知火の柄を握り締め、師の横顔を見つめた。

 クロードの表情には、微塵の安堵もなかった。

 それどころか、先ほどブレスを受け止めた時以上の、凄まじい殺気と緊張感がその巨躯から滲み出ていた。

「……おかしい。温度が、戻らない」

 シエルの震える声が重なった。

 銀白のポニーテールを強張らせ、その長いエルフ耳が、外郭広場の方向を捉えてピクッ、ピクピクと、恐怖に痙攣するように小刻みに跳ね上がっている。

「……巨大個体の生命反応は、消失。……なのに、その奥から……別の、桁違いの魔力脈動が……」

 ヒュオォォォォォォォォッッッッ……!!

 シエルの言葉を裏付けるように、風が吹き抜けた。

 墜落した巨竜の残骸の周囲の温度が、上がるどころか──急速に、絶対零度へと急降下を始めていた。

 地面に転がっていた石や瓦礫が、チリチリと白い霜に覆われていく。

 先ほどまでの死灰の嵐など比べ物にならないほどの、魂を直接凍結させるような、悍ましい威圧感。

「た、たわけ共が……! 喜んでおる場合ではないわッ!」

 カナタの首元で、コハクが全身の毛を針のように逆立て、金色の瞳を剥き出しにして絶叫した。

「あれは……あれは死んでおらん! いや、違う……あの巨大な竜そのものが……ただの『殻』じゃったのじゃァッッ!!!!」

「な……んだと……!?」

 カインが碧眼を見開き、息を呑んだ。

 ガシャン……。

 濛々と立ち込める黒煙と粉塵の奥底から、乾いた金属音が響いた。

 ガシャン……ガシャン……。

 それは、巨大な竜が這い回る音ではなかった。

 規則正しく、静かに大地を踏み締める──人間の「重厚な甲冑の足音」だった。

 ピキ……ピキピキピキッ!

 墜落した全長二十五メートルの巨竜の残骸が、内側から両断されるように裂け落ちた。

 砕け散った鋼鉄の外殻を無造作に踏み砕きながら、黒煙を割って歩み出てくる、ひとつの「人影」。

 カインが全力で打ち砕いた巨躯は、命などではなかった。

 その内に眠る「真の怪物」を縛り付けていた、ただの拘束具に過ぎなかったのだ。

 夜天の静寂を切り裂いて、冷徹な声が、凍りついた鉄鋼砦の中庭へと響き渡った。

「──人の身にしては、よく動く羽虫どもだ」

 現れたその存在を目にした瞬間、戦場にいたすべての者の息が、完全に止まった。

第22話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

十星天刃第9席カインの秘められた力──『竜化解放』!

黄金の雷翼を背に広げ、音速を超える空中機動戦の末、必殺奥義『雷竜天翔・撃滅神鳴槍』で全長25メートルの鋼鉄巨竜を見事に地上へと撃墜しました!

しかし、砕け散った巨竜は、真の力を封印するための単なる「外殻(拘束具)」に過ぎませんでした……。

瓦礫を踏み砕き、煙の中から現れた甲冑の人影。

第23話、現れた真の姿(第2形態)を前に、消耗を押して挑むカイン!

しかし、十二灰将の本物の絶技が炸裂します……!

どうぞお楽しみに!

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