第20話:副官討伐、そして真の絶望へ
カナタの『不知火・天断』が重力結界の要を粉砕し、完全に露出したドレイクの巨大核!
重力の枷から解き放たれた十星天刃第9席カインの雷槍が、黄金の閃光を放ち音速を超える!
「見事だ、第7小隊の諸君。道は──完全に開かれた!」
炸裂する必殺奥義『迅雷穿孔閃』! 鉄鋼砦を蹂躙した人型幹部に、ついに断罪の時が訪れる!
別動隊を殲滅したクロードと迅雷騎兵団も合流し、副官討伐の歓喜に沸き立つ戦場。
しかし──その歓喜を真っ二つに引き裂くように、天空の灰雲が割れ、大地が軋む。
飛来したのは、本物の天災──第12将カリグス!!
パリンッ……! と大気を覆っていた目に見えないガラスが砕け散るような澄んだ音が、中庭の全域に反響していた。
四本の巨大な重力灰鎖が、カナタの不知火から溢れ出た白銀の光によって純白の粒子へと昇華し、完全に蒸発消滅したのだ。
超重力結界の強制崩壊。
その凄まじい反動の衝撃波が、異形化していた副官ドレイクの巨躯を内側から激しく揺さぶった。
「グッ……ガァァッ……!?」
四メートルを超える黒鉄の竜鱗甲殻が激しく軋み、ドレイクは前のめりに膝を折った。
胸元の装甲が左右へと無理やりに押し開かれ、その中心で青黒い体液を散らしながらドクンドクンと脈動する「巨大な核」が、中庭の空の下へと完全に露出していた。
無防備極まりない、急所の中の急所。
「バ、バカな……我が重力灰鎖が……我が結界が消滅しただと……!? 小僧……貴様のその白銀は一体……!?」
ドレイクの爬虫類の瞳が、狂乱と絶望に染まって見開かれた。
怪物は必死に折れた腕を持ち上げ、露出した核を覆い隠そうとする。
だが──その悪あがきは、あまりにも遅すぎた。
「──君の相手は、俺だ」
背後から響いたのは、凛として透き通る青年の声。
中庭に満ちていた粉塵と硝煙が、一瞬にして黄金色のプラズマによって吹き払われた。
カイン・アルヴァレスト。
金髪を風になびかせ、碧眼の瞳孔を竜のように鋭く縦に引き絞った青年騎士が、白銀の雷槍を腰だめに構えていた。
純白と群青の特注軍服の裾が翻り、体表数ミリを覆う高密度の黄金熾衣が、パチパチと周囲の瓦礫を浮き上がらせるほどの電磁嵐を巻き起こしている。
その白銀の穂先には、太陽の欠片を凝縮したかのような極大の黄金雷球が、キィィィィンと高周波の軋みを立てて収束していた。
「見事だったよ、第7小隊の諸君。……そして、カナタ君」
カインは前方を遮るものの一切なくなった直線──カナタたちが命がけで切り拓いた一本の突撃路を見据え、誇らしげに微笑んだ。
「道は──完全に開かれた!」
ドガァァァァァァァンッッッッ!!!!
大気が爆発した。
音速の壁を軽々と突破した踏み込み。
カインが蹴り飛ばした背後の石畳が一瞬にして直径十メートルのすり鉢状に吹き飛び、巻き上がった土煙が宙に静止する暇すら与えられず──黄金の光条と化した青年が、空間を真一文字に両断した。
「オオオォォッ! 死ね、死ねィッ十星天刃ァッ!!」
迫り来る死の予感に錯乱したドレイクが、残された背中の骨翼から無数の死灰の針を散弾のように撃ち放った。
触れたものをことごとく腐食・灰化させる死の雨。
だが──。
バチバチバチバチッ!
カインの全身を包む高密度の黄金熾衣が、飛来する死灰の針に触れた端から瞬時に蒸発させ、ただの光の火花へと変えて弾き飛ばした。
歩みを止めることすらできない。
速度を落とすことすら叶わない。
カインの放つ神速の刺突は、死の灰の濁流を真っ向から切り裂き、露出したドレイクの胸元へと突き刺さった。
──『迅雷穿孔閃』ッッ!!!!
──ズドォォォォォォォォォォンッッッッ!!!!
閃光が、中庭を昼間のように白熱させた。
白銀の雷槍の切っ先が、ドレイクの胸元の巨大核の中心へと、寸分の狂いもなく深々と突き刺さった。
ギ……ギチィィッ……!
核の表面に、蜘蛛の巣のような黄金の亀裂が走る。
次の瞬間──槍の穂先から極限まで圧縮されていた莫大な黄金の雷撃が、核の内部へと一気に解き放たれた。
「ガ……ッ!? ア、アガァァァァァァァァッッッッ!!!!」
ドレイクの巨躯のあらゆる隙間──黒鋼の竜角、骨翼の付け根、竜鱗甲殻の合わせ目から、奔流のような黄金の雷光が噴き出した。
内部からの電撃破砕。
パリンッ! ドゴォォォォンッ!
青黒く脈打っていた巨大核が、耐えきれずに内側から木っ端微塵に爆散した。
「カ……カリグス……様……! この……愚かな……羽虫どもに……死……を……ッ!!」
断末魔の絶叫とともに、ドレイクの四メートルを超える巨躯が、頭部の竜角から足先に至るまで、ボロボロと崩れ始めた。
黒煙を噴き上げながら、異形の肉体が真っ黒な灰へと変貌し、夜風に煽られてパラパラと崩壊していく。
そして最後には、ただの一片の肉片すら残すことなく、濛々たる灰の煙となって荒野の空へと四散・消滅した。
…………。
静寂が、中庭に戻ってきた。
カインは流れるような所作で白銀の雷槍を引き抜き、くるりと回して背中へ担ぎ直した。
パチリと小さく放電が弾け、青年の体表を覆っていた黄金の熾衣がふっと収束する。
金髪の隙間から覗く小さな黄金の竜角が誇らしげに輝き、縦に細まっていた碧眼の瞳孔が、元の穏やかな人間の瞳へと戻っていった。
「ふぅ……。敵幹部、副官ドレイクの討伐を完了した」
カインの静かな宣言。
その言葉が中庭に響き渡った瞬間──。
「やったにゃあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
歓喜の叫びを上げて飛び出してきたのは、フェリだった。
青いショートヘアを弾ませ、青い三角耳をピンと垂直に突っ立たせながら、太い尻尾をちぎれんばかりに左右へぶんぶんと振っている。
「倒したにゃ! あのデカ物トカゲを、本当にやっつけたにゃーっ!」
「……幹部個体の反応、完全消滅を確認」
シエルもまた、影縫いクナイを鞘へと収め、陶器のような白い額の汗を拭った。
銀白のポニーテールが風に揺れ、緊迫で震えていた長いエルフ耳が、安堵の息とともにピクッ、ピクピクと小刻みに揺れて落ち着きを取り戻している。
「……カイン様の槍撃、見事。そして、カナタの白銀も」
「皆さん、無事で良かったです……! 本当に……本当によく頑張りました……!」
エレナが『医療用短杖』を胸に抱きしめ、大粒の涙をポロポロと零しながら駆け寄ってきた。
豊かな胸元を震わせ、カナタとフェリを抱きしめるようにしてその頭を撫でる。
「はは……やりましたね、皆さん」
カナタは不知火を静かに鞘へと納め、その場にへたり込みそうになる足を必死に踏ん張った。
全身の筋肉が熱を持ち、アウラを使い果たした倦怠感が押し寄せてくる。
だが、その胸の奥底には、仲間たちと共に強大な敵を打ち倒したという、誇らしい達成感がじんわりと満ちていた。
「ふん、妾の指示が的確だったからこその勝利じゃな!」
首元のコハクが、カナタの頬にふかふかの尻尾を擦り付けながら、得意げに鼻を鳴らした。
「褒めて遣わすぞ、カナタ! それに、あの雷の若造も……竜の血を荒立てず、見事な槍筋であったわ!」
その言葉に、カインが優雅に歩み寄ってきた。
端整な顔立ちに爽やかな笑みを浮かべ、カナタの前で足を止める。
「礼を言うよ、カナタ君。君が迷わずあの重力結界の要を断ち切ってくれなければ、俺の足は止まったままだった。……それに、君のその太刀筋。死の灰そのものを消滅させる白銀の力……本当に、驚かされたよ」
「そ、そんな……! 僕なんて、カインさんが作ってくれた隙に飛び込んだだけです! カインさんの槍撃がなかったら、僕たち全員やられていました……!」
カナタが慌てて両手を振って恐縮すると、カインは声を立てて笑った。
「謙虚だね。だが、自分の武勇を過小評価する必要はないよ。君は立派な戦士だ」
「おいおい! うちの弟子をあんまり口説くんじゃねえよ、カイン!」
豪快な怒号とともに、中庭の通路の奥から大股で歩み寄ってくる大男の姿があった。
クロードだった。
肩に担いだ黒鉄の大太刀からは、まだプスプスと漆黒の煙が立ち上っている。
その背後には、青白い電撃を纏う魔導馬を引いた迅雷騎兵団の竜人や獣人、人間の戦士たちが、整然と隊列を組んで続いていた。
「クロード隊長!」
カナタの顔がパッと明るくなった。
「クロードさん、内郭の別動隊は……!?」
エレナが尋ねると、クロードは目を細め、親指で背後を指差した。
「安心しな。迅雷騎兵団の連中と挟み撃ちにして、一匹残らず黒焦げの灰にしてやったよ。砦の奥に逃げ込んだ怪我人たちも、全員無事だ」
クロードはカナタの前に立つと、ゴツゴツとした大きな手で、カナタの黒髪を乱暴に、けれど心底愛おしそうにワシャワシャと撫で回した。
「よく五分持たせたな、カナタ。……いや、持たせるどころか、敵の副官の首を獲る道までこじ開けやがったか。上出来だ、馬鹿弟子が」
「痛っ、痛いですクロード隊長……! で、でも……ありがとうございます!」
手荒な褒め言葉に、カナタは痛がりながらも満面の笑みを浮かべた。
「副官を討ち取ったぞォォォッ!!」
「勝った……! 俺たちは生き残ったんだッ!!」
通路の陰から、地下救護所へ避難していた守備兵たちが続々と姿を現した。
右腕を包帯で吊ったリックが、軍医バートンと共に涙を流しながら叫び、砦の兵士たちが武器を空へと掲げて大歓声を上げる。
三千の灰燼種の第一波を退け、外郭を吹き飛ばした規格外の人型幹部すらも撃破したのだ。
鉄鋼砦の誰もが、死の淵からの生還に酔いしれ、互いの肩を抱き合って勝利を称え合っていた。
誰もが、これで悪夢は終わったのだと信じて疑わなかった。
そう──あの異変が、訪れるまでは。
…………カチリ。
不意に。
中庭に満ちていた歓声の渦を切り裂くように、小さな「音」がした。
「……え?」
カナタが、微かな違和感に眉をひそめた。
足元の石畳。
先ほどドレイクの重力結界が消滅したはずの地面が──ピシッ、と音を立てて微細な亀裂を走らせていた。
いや、それだけではない。
胸壁に設置されていた魔導重力計の針が、狂ったように右へ左へと振り切れ、キキキキキッと火花を散らしてガラス盤を内側から弾け飛ばした。
「……ッ!?」
シエルの長いエルフ耳が、風下の気配を捉えてピクッ、ピクピクと、これまで見たこともないほど激しく跳ね上がった。
その顔から、血の気が一瞬にして完全に引いていく。
「……待って。おかしい。空気が……反転している」
「シエル……? 何を言ってるにゃ……?」
フェリが首を傾げた、その刹那だった。
ヒュオオオオオオオオッッッッ……!!
熱風が消えた。
硝煙の匂いが消えた。
砦を包み込んだのは──絶対零度すら生温いと感じるほどの、肌を直接削り取るような「死の冷気」だった。
呼吸をするだけで、喉の粘膜が凍りつき、肺が真っ白に凍結するかのような激痛。
「ヒッ…………ッッッッ!!!!」
カナタの首元で、コハクがこの世の終わりのような悲鳴を上げた。
神獣の純白の毛並みが、針山どころではなく、全身の毛穴から血が噴き出すのではないかというほど激しく逆立っている。
金色の瞳孔が極限まで収縮し、ガチガチと激しく歯を打ち鳴らしながら、カナタの首筋へ必死に爪を立てて潜り込もうとしていた。
「に、逃げ……逃げられぬ……! 何じゃ……何なのじゃ、あれは……!? ドレイクなど児戯に等しい……あれは……あれは『神の天罰』じゃァァッッ!!!!」
「コハク!?」
カナタが驚愕してコハクを抱きしめようとした瞬間──。
ズズズズズズズズズズズズズズズズッッッッ……!!!!
大地が、鳴動した。
地震ではない。
砦が建つ巨大な岩盤そのものが、頭上からの「質量」に耐えかねて、数センチ単位で沈み込み始めたのだ。
中庭の守備兵たちが、誰一人として立っていられなくなり、恐怖に顔を歪めて石畳へとへたり込んだ。
「全員、構えろォッッ!!」
クロードが、血管が千切れんばかりの怒号を張り上げた。
その双眸には、かつて見たことがないほど険しく見開かれ、大太刀を握る両腕に全身全霊の黒炎を噴き上がらせていた。
「カイン! 上だッ!!」
「……ああ、分かっている!」
カインもまた、雷槍を天へと掲げ、全身の竜の血を沸騰させていた。
金髪の隙間から伸びた黄金の竜角が眩く発光し、その碧眼が戦慄と決意に満ちて天空を睨み据える。
カナタもまた、息を呑んで空を見上げた。
頭上──。
鉄鋼砦を覆い尽くしていた鉛色の灰雲。
何百キロメートルにもわたって大地を閉ざしていたその雲海が──まるで、巨大な神の鉈で両断されたかのように、真っ二つに、ゆっくりと押し開かれていく。
雲の裂け目から、吹き荒れる白灰の嵐。
そして、その嵐の向こう側から、巨大な「影」が姿を現した。
「…………嘘、だろ……」
リックが、震える声で呟いた。
それは──山だった。
いや、空を飛ぶ、生ける要塞だった。
全長、二十五メートルを超す巨躯。
漆黒の重力超合金と死灰の結晶で編み上げられた、鋼鉄の外殻。
空を覆い尽くすように広げられた、四枚の巨大な灰鉄の翼。
その四翼が一羽ばたきするたびに、大気が悲鳴を上げて圧縮され、地上へ向けて目に見える重力の衝撃波が叩き落とされる。
巨竜の胸部と頭部には、青白く、おぞましい光を放つ紋様が脈打っていた。
十二灰将の末席──。
鋼鉄の四翼灰竜、第12将カリグス。
前座の三千の軍勢も、先ほどの副官ドレイクも、この怪物が吐き出す吐息の余波に過ぎなかったのだ。
国をひとつ滅ぼすことができる、正真正銘の「天災」。
『──グ……オ……ォ……ォ……ォ……ン……ッッッッ!!!!』
灰竜が、天を仰いで咆哮した。
その咆哮の余波だけで、第二城門の胸壁がドガガガガッ! と音を立てて粉々に破砕され、荒野へと吹き飛んでいく。
歓喜は消え去った。
希望は粉砕された。
鉄鋼砦の頭上に、真の絶望の幕が──今、無慈悲に振り下ろされた。
第20話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
カナタと第7小隊が命がけで切り拓いた一瞬の隙へ、十星天刃第9席カインの雷槍奥義『迅雷穿孔閃』が炸裂!
副官ドレイクの核を穿ち、鮮やかに中ボス討伐を果たしました!
別動隊を殲滅したクロードや迅雷騎兵団も合流し、砦が勝利の歓喜に沸き立つ中……。
その歓喜を真っ二つに引き裂くように、天空から飛来した真の絶望!
全長25メートルを誇る鋼鉄の四翼灰竜──十二灰将の末席、第12将カリグス降臨!!
次回より、第1章の最大クライマックス【決戦! 第12将カリグス】が開幕します!
第21話、砦の命運を賭けた、総力戦の行方は──!?
どうぞお楽しみに!




