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『灰燼の世界で、俺の白銀(アウラ)だけが消えない』 ──東方の刀『不知火』で切り拓く夜天の夜明け──  作者: 柊 篝


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第19話:共闘! 雷電と白銀の閃光

追い詰められ、ついに異形化の咆哮を上げた副官ドレイク!

肥大化した黒鋼の竜角と骨翼から解き放たれたのは、中庭全体をペシャンコに押し潰す『超重力結界』!

音速を誇る十星天刃カインの足すら鈍らせる絶対的な空間圧殺に対し、若き二人の刃が重なり合う。

「カナタ君、君のその白銀の太刀を僕に貸してくれるかい?」

カインの黄金の雷光と、カナタの白銀の浄化光。

そしてフェリの弾丸、シエルの影縫い、エレナの加速水流──第7小隊の絆がひとつに結集する!

今、規格外の異形を屠るための、奇跡の反撃作戦が幕を開ける!!

 ズズズズズズズズズズッッッッ……!!

 中庭の石畳が、まるで生き物のように激しく波打っていた。

 濛々と立ち込める黒煙と死灰の噴煙を内側から引き裂き、異形の怪物がその巨躯を現した。

 副官ドレイクの姿は、もはや人の輪郭を完全に失っていた。

 身長は四メートルを超え、全身の皮膚は硬質な黒鋼の竜鱗甲殻に覆われている。

 額から天を衝く二本の竜角は丸太のように太くねじれ曲がり、禍々しい青黒い雷光をパチパチと放電させていた。背中からは肉を突き破って巨大な骨翼が生え広がり、その翼膜は死灰の冷気そのもので編み上げられている。

「グガアァァァァァァッッッッ!!!!」

 鼓膜を破らんばかりの咆哮。

 その巨腕が、中庭の石畳へと力任せに叩きつけられた。

 ドズゥゥゥゥゥゥゥンッッッッ!!!!

 中庭の四隅へ向けて、ドレイクの両手首から伸びた極太の漆黒の鎖──『重力灰鎖』が、巨大なアンカーのように深々と突き刺さった。

 鎖の輪のひとつひとつが大蛇のように脈動し、青黒い魔導光が幾何学模様を描いて中庭の空間全体を覆い尽くしていく。

 キィィィィィィィンッッッッ……!!

 大気が激しく軋みを上げた。

 中庭全体を覆う、巨大なドーム状の歪み。

 ──超重力結界『圧殺領域(グラビティ・プリズン)』。

「ぐっ……身体が……重い……!」

 カナタの足元が、メリメリと音を立てて石畳へめり込んだ。

 先ほどまでの重力波とは桁が違う。

 数十倍に圧縮された空間そのものが、全身の皮膚、筋肉、内臓をあらゆる方角からペシャンコに押し潰そうと襲いかかってくる。

「チッ……これは厄介だな」

 カインが眉をひそめ、白銀の雷槍を握る手に力を込めた。

 特注軍服と体表の黄金熾衣、そして竜人の強靭な肉体によって死灰の毒と直撃の衝撃波こそ防いでいるものの、空間そのものが数十倍に重く引き絞られた領域の中では、カインの最大の武器である「音速の機動力」が削がれてしまう。

「クハハハハ! 我が結界の中では、貴様らの神速などただの這い虫よ!」

 異形と化したドレイクが、胸元の竜鱗を震わせて哄笑した。

「この領域の重力は、四本の主鎖が砕けぬ限り永久に維持される! だがその鎖は、我が死灰の魔力によって瞬時に再生する無敵の枷! 貴様らはただ、己の自重に押し潰されて肉泥となるのだ!」

 ドレイクの骨翼が羽ばたき、突風のような重力波がカナタたちへと吹き荒れる。

 カインは碧眼を鋭く細め、戦況を冷徹に分析していた。

「……なるほど。四隅に刺さったあの巨大な鎖が、この重力結界の『要』というわけか。だが、ドレイクの言う通りだ。僕の雷撃で外殻を粉砕しても、あの鎖に宿る死灰の再生力が生きている限り、数秒で元通りに繋がってしまう」

 カインは、横手に立つ黒髪の少年──カナタへと、その澄み渡る碧眼を向けた。

 その瞳孔は、爬虫類のように縦に鋭く細まりながらも、確かな信頼の色を宿していた。

「カナタ君」

「は、はいっ!」

「先ほど、君が見せた白銀の太刀筋……あれは、死の灰そのものを完全に『消滅』させていたね?」

「えっ……消滅、ですか……?」

 カナタは目を瞬かせた。

 無我夢中で振るった不知火の一閃。

 父の形見の太刀に、自らの丹田の熱を乗せて斬り裂いただけだったが、カインの言葉にハッとした。確かに、両断された鎖は黒煙も残さず、純白の光の粒子となって綺麗さっぱり消え失せていたのだ。

「僕たち十星天刃の熾衣は、灰を弾き、防ぐことしかできない」

 カインは白銀の雷槍を構え直し、静かに告げた。

「けれど、君のその白銀なら……あの重力鎖に宿る死灰の呪縛ごと、完全に消滅させられるはずだ。結界を破る役目を、君に頼めるかい?」

 十星天刃からの、真っ直ぐな言葉。

 初陣の自分に対し、王国の最高峰に君臨する青年騎士が、対等な戦友として背中を託そうとしている。

 カナタの胸の奥底で、熱いものがカッと音を立てて燃え上がった。

「はい……! 僕が必ず、あの鎖を断ち切って、結界を消してみせます!」

「たわけ、一人で格好をつけるでないわ!」

 カナタの首元で、コハクがふかふかの純白の毛を逆立て、金色の瞳を爛々と輝かせた。

「妾を忘れてもらっては困るのじゃ! あの異形トカゲの結界……見よ、カナタ! 右奥の鎖じゃ! あそこに結界の魔力循環の『起点』がある! あの基部を両断すれば、他の三本も連鎖して崩壊するぞ!」

「右奥ですね……分かりました、コハク!」

「ふふっ、後輩と客将だけにいい格好はさせないにゃ!」

 背後から、元気な声が響いた。

 フェリだった。

 重力に押し潰されかけていたはずの青髪の少女が、二丁拳銃を腰だめに構えて立ち上がっていた。

 その青い三角耳は戦意に満ちてピンと垂直に突っ立ち、青い尻尾がバチバチと床を叩いている。

「……第7小隊の斥候、健在。道は作る」

 シエルもまた、音もなく立ち上がった。

 銀白のポニーテールが夜風に揺れ、その長いエルフ耳が重力波の軋みを捉えてピクッ、ピクピクと鋭敏に跳ね上がっている。指の隙間には、黒塗りの影縫いクナイが四本、鈍い光を放っていた。

「皆さん、足元に意識を集中してください!」

 エレナが豊満な胸元を大きく波打たせ、両手で『医療用短杖(ペンシル・ワンド)』を天へと掲げた。

 短杖の宝珠から、目も綾な蒼き魔導光が溢れ出す。

「清らかなる奔流よ、重圧を抱き留め、風となって友の足を押し出せ──『水流の追風(アクア・ゲイル)』ッッ!!」

 ザザァァァァァッ!

 澄み切った水流の渦が、カナタとカイン、そして小隊全員の両足へと螺旋を描いて巻きついた。

 それはただの防御膜ではなかった。

 下から押し上げる水流の浮力が、上から押し付ける超重力を完全に相殺し、さらに前方へ向けて滑らかな推進力を与える──エレナの支援魔導の真骨頂!

「身体が……軽くなった……!?」

 カナタが目を見張る。

「今だにゃあぁぁぁっ!」

 フェリが跳躍した。

 水流の加速に乗って、重力の檻の中を信じられない軌道でジグザグに疾走する。

 両手の魔導拳銃が火を吹いた。

 バババババァンッ! ドバババババババァンッッ!

 放たれた蒼紫の魔導徹甲弾の嵐が、異形ドレイクの顔面、巨大な竜角の付け根、そして背中の骨翼の関節へと雨あられと撃ち込まれる。

 硬質な竜鱗に弾かれながらも、激しい衝撃波と煙がドレイクの視界を真っ向から奪い去る!

「鬱陶しい羽虫がァッ!」

 怒り狂ったドレイクが巨大な腕を振り回し、フェリを叩き潰そうと身を乗り出した。

 その瞬間──。

「……そこ」

 虚空から囁くようなシエルの声。

 ドレイクの足元に生じた巨大な影へ向けて、四本の影縫いクナイが十字を描いて突き刺さった。

 シュバッ! キィィィン!

 エルフの秘術が影を大地へ縫い留める。

 ドレイクの四メートルを超える巨躯が、ガクンッ、と一瞬だけ前傾姿勢のまま静止した。

 物理的な時間は、わずか一秒にも満たないコンマ数秒。

 だが──百戦錬磨の戦士たちにとって、それは世界を変えるのに十分すぎる時間だった。

「カインさん!」

「ああ、行こう──カナタ君!」

 二人の影が、同時に大地を蹴った。

 ドガァァァァァンッ!

 エレナの水流加速と、自らの脚力が融合する。

 カインが黄金の雷光を纏って先行し、ドレイクの牽制の重力波を雷槍で次々と叩き落としてカナタの直進ルートを確保する。

 その後ろを、カナタが一陣の風となって駆け抜ける。

(吸って、吐いて、丹田に落とす──!)

 世界が、極限まで引き延ばされたスローモーションへと沈み込んでいく。

 耳元をかすめる風の音。

 コハクの鋭い叫び声。

「今じゃ、カナタ! 右奥の鎖の根元、青白く光る節を断てェッ!!」

 見えた。

 中庭の右奥、石畳に深々と突き刺さった、大木ほどもある漆黒の重力灰鎖。

 その根元に、結界全体の重力波を吸い上げ、脈打たせている青黒い脈動の核が存在していた。

 カナタは右足を強く踏み込み、中空へと大きく跳躍した。

 身体が宙に浮く。

 心臓の奥底から引き出した純白の火種。

 死の灰に故郷を奪われ、絶望の淵にいた自分を救ってくれた父の教え。

 クロードが教えてくれた、刃に熱を吸着させる熾衣の極意。

 そして──今、自分の背中を押してくれている、大切な仲間たちの想い。

 それらのすべてが、丹田の中で極限まで過熱され、不知火の刀身へと注ぎ込まれていく。

 カチリッ!

 鯉口が弾け、不知火が鞘から滑り出た。

 刃の輪郭にまとわりつく白銀の陽炎が、かつてないほど眩く、太陽のような輝きを放ち始める。

 上段から、全身の質量と魂の熱量をすべて乗せて振り下ろされる、必倒の一閃。

 不知火流抜刀術──『不知火・天断(しらぬい・てんだん)』ッッ!!!!

 ──ズババババァァァァァァンッッッッ!!!!

 中庭の空が、真っ白に染まった。

 不知火の白銀の刃が、大木のような漆黒の重力鎖の根元を、真っ向から両断した。

 硬質な金属を断ち切る感触すらなかった。

 まるで熱したナイフが雪の塊を撫でるように、白銀の熱量は重力鎖の外殻を融解させ、内部の脈動する核ごと一刀両断に切り裂いた。

 そして──。

 ジュウゥゥゥゥッ! ジュウゥゥゥゥッ!!

 シュオォォォォォォォッッ……!

 切断された鎖の断面から、濛々たる白い蒸気が爆発的に噴き上がった。

 不知火から放たれた白銀の浄化光が、鎖の輪のひとつひとつを伝って、四方八方へと稲妻のように駆け巡る。

 黒煙は出ない。

 悪臭もない。

 絶対零度を誇っていた死灰の呪縛が、光に触れた瞬間に根底から存在を許されなくなり、キラキラと輝く純白の光の粒子へと強制的に昇華させられていく。

 パラパラパラ……と、美しい光の雨が降り注いだ。

 右奥の鎖だけでなく、連動していた残りの三本の鎖までもが、連鎖反応を起こして光の粒子となって崩壊し、夜空へと溶けるように完全に蒸発・消滅していった。

 パリンッ……!!

 ガラスが割れるような甲高い音が中庭に響き渡った。

 中庭全体を覆い尽くしていた超重力結界が、跡形もなく完全に崩壊したのだ。

 大気を押し潰していた鉛の重圧が霧散し、清らかな夜風が中庭を吹き抜けていく。

「な……にっ……!?」

 影縫いから拘束を解いたドレイクが、信じがたいものを見るように目を見開いた。

 自らの絶対の切り札であった結界が、たった一振りの太刀によって消滅させられたのだ。

 結界の強制破壊による強烈な反動がドレイクの全身を襲い、その巨躯が大きく前のめりに傾いでバランスを崩した。

 メリメリッ!

 胸元の黒鋼の竜鱗甲殻が左右へと押し開かれ──その奥底で、青白くドクンドクンと激しく脈打つ「巨大な核」が、中庭の空の下へと完全に露出した。

「バ、バカな……我が結界が……我が灰鎖が……一瞬で消滅しただと……!? 小僧……貴様、何をしたァッ!!」

 ドレイクが狂乱の悲鳴を上げる。

 だが──その怪物の絶叫を、遥かなる天空から響く神鳴の音が完全に塗り潰した。

「──カナタ君」

 着地したカナタの耳に、涼やかで、力強い声が届いた。

 振り返る必要すらなかった。

 背後から放たれているのは、戦場全体を昼間のように照らし出す、圧倒的な黄金の光。

 重力の枷から完全に解き放たれたカイン・アルヴァレスト。

 青年は白銀の雷槍を腰だめに構え、全身の黄金熾衣を槍の穂先へと極限まで収縮させていた。

 その碧眼──縦に引き絞られた竜の瞳孔が、露出したドレイクの巨大核を、寸分の狂いもなく射抜いている。

「見事だ、第7小隊の諸君。……そして、カナタ君」

 カインの口元に、戦士としての最高の賛辞を込めた笑みが浮かんだ。

 雷槍の切っ先から、パチリと、極大の黄金の火花が爆ぜる。

「道は──完全に開かれた!」

 音速を超える黄金の雷鳴が、鉄鋼砦の夜空を揺るがすように轟き始めた。

第19話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

異形化し、中庭全体を圧殺する超重力結界を展開した副官ドレイク!

しかし、十星天刃カインの冷静な戦況分析と、第7小隊の完璧なチームワークが奇跡の突破口を切り拓きました!

エレナの水流加速、フェリの陽動乱射、シエルの影縫い、そしてコハクの指示のもと、カナタの『不知火・天断』が結界の要を真っ二つに両断!

死の灰を完全に純白の光の粒子へと蒸発・消滅させ、重力の檻を粉砕しました!

そして結界の崩壊により、完全に露出したドレイクの巨大核!

重力の枷から解き放たれたカインの雷槍が、今、必殺の閃光を放とうとしています──!

第20話、十星天刃第9席カインの必殺奥義が炸裂し、中ボス討伐へ!

しかし、その歓喜を切り裂くように、天より本物の災厄が飛来します……!

どうぞお楽しみに!

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