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『灰燼の世界で、俺の白銀(アウラ)だけが消えない』 ──東方の刀『不知火』で切り拓く夜天の夜明け──  作者: 柊 篝


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第18話:雷槍の貴公子と、白銀の太刀

天を引き裂く黄金の雷光とともに、戦場へ舞い降りた十星天刃第9席、カイン・アルヴァレスト!

死の灰を寄せ付けぬ特注の騎士軍服と、体表を覆う高密度の黄金熾衣。

竜人の血を引く若き貴公子が振るう白銀の雷槍は、音速を超えて中庭を駆け抜ける!

空間を歪めるドレイクの超重力を真正面から切り裂き、圧倒的な武威を見せつけるカイン。

しかし、追い詰められたドレイクの狡猾な凶刃が、背後のカナタたちへと向けられたその瞬間──!

翻る白銀の太刀筋──『不知火・水月』!

死灰を完全に蒸発させるカナタの刃が、十星天刃の碧眼を激しく見開かせる!!

 中庭に突き刺さった白銀の雷槍を中心に、バチバチと黄金の放電が爆ぜていた。

 鉛色の灰雲を引き裂いて降り注いだその雷光は、瓦礫の斜面を照らし出し、肌を刺すような絶対零度の冷気を一瞬にして焼き払っていた。

「……十星天刃、第9席……カイン・アルヴァレスト……!」

 瓦礫の山から這い上がってきたドレイクが、青白い顔を歪めて憎悪を吐き出した。

 その額から生え出た黒鋼の竜角が、不協和音を奏でるように細かく軋んでいる。

「第7席の黒炎に続き、またしても王国の手先が現れるとはな。だが、小僧一人で我が重力の檻を破れると思うなよ!」

 ドレイクの手首から、再生した漆黒の重力灰鎖が鎌首をもたげた。

 先ほどカナタたちを地面に縫い止めた、全方位への超重力波が再び蠢き始める。

 だが──カイン・アルヴァレストは、眉ひとつ動かさなかった。

 金髪の隙間から覗く、淡い黄金の小さな竜角。

 澄み渡る碧眼の瞳孔が、爬虫類のように縦に鋭く細まる。

 青年は肩に乗せていた白銀の雷槍を、無造作に右手に持ち替えた。

 その全身から、パチリ、と小さな黄金の火花が散る。

「行くよ」

 静かな呟きだった。

 次の瞬間──ドレイクの視界から、カインの姿が完全に掻き消えた。

 ──ドガァァァァァンッッッッ!!!!

 遅れて届いたのは、大気を突き破る轟音の衝撃波だった。

 音速の壁を突破した踏み込み。

 カインが立っていたはずの石畳は円形に粉砕され、巻き上がった白灰の粉塵が宙に静止する暇すら与えられず、青年はすでにドレイクの眼前──わずか一メートルの至近距離へと肉薄していた。

「なっ……速──!?」

「遅い」

 冷徹な声とともに、白銀の雷槍が閃光と化した。

 ──『迅雷三連突き(じんらいさんれんづき)』ッッ!!

 ドバババババァンッッ!!

 放たれたのは、人間の動体視力では認識することすら不可能な、神速の三連刺突。

 一撃目がドレイクの張った不可視の重力障壁を紙風船のように突き破り、二撃目が黒鋼の肩当てを粉々に粉砕し、三撃目がドレイクの胸元の黒灰の長衣を深く抉り抜いた。

「グガアァッ!?」

 ドレイクの巨躯が、電撃の衝撃波とともに吹き飛んだ。

 瓦礫の壁に背中から激突し、激しい土煙が舞い上がる。

「は、はっやいにゃーッ!?」

 後方で息を整えていたフェリが、青い両手で頭を抱えながら叫んだ。

 青い三角耳を垂直にピンと張り詰め、太い青い尻尾を激しく左右に揺らしながら、驚愕に青い瞳を丸くしている。

「目で追えないにゃ! 残像すら見えなかったにゃ!」

「……音速、突破。身体能力が桁違い」

 シエルもまた、胸を押さえながら息を呑んでいた。

 銀白のポニーテールが風に揺れ、長いエルフ耳が戦場を切り裂く電撃の余波を捉えてピクッ、ピクピクと激しく跳ね上がっている。

「……あれが、十星天刃の機動戦」

「すごいです……」

 カナタは不知火を杖代わりに立ち上がり、呆然とその光景を見つめていた。

 クロードの剛剣とは全く異なる、洗練された神速の武威。

 無駄のない足運び、風の抵抗すら味方につけた流麗な槍筋。同じ十星天刃であっても、こうも戦い方が違うものなのかと魂が震えるような感動を覚えていた。

「おのれ……調子に乗るなァッ!!」

 崩れ落ちた瓦礫を跳ね飛ばし、ドレイクが狂乱の形相で跳び出してきた。

 額の竜角から、濛々たる黒煙と絶対零度の冷気が濁流となって噴き上がる。

 触れるものすべてを腐食させ、灰へと変える死灰の津波。

 さらにドレイクは両手首の灰鎖を振り上げ、中庭の石畳ごとカインを圧殺せんと、渾身の重力波を叩きつけた。

「死灰に呑まれよ、傲慢なる人の子ォッ!!」

 ゴオォォォォォッ!

 漆黒の冷気と重力の奔流が、カインの全身を完全に呑み込んだ。

 直撃すれば、鋼鉄の鎧を着た屈強な兵士であっても、一瞬で全身の細胞が壊死し、石像のように灰化して崩れ去る──死の嵐。

「カイン様ッ!」

 エレナが思わず悲鳴を上げた。

 だが──。

 パチ……パチパチパチッ!

 死灰の濁流の真ん中から、乾いた火花の弾ける音が響いた。

 黒煙がゆっくりと吹き払われる。

 そこに立っていたカインは──衣服の一片すら乱すことなく、冷ややかな瞳で佇んでいた。

「な……んだと……!?」

 ドレイクが目を見張り、後退った。

 カインの純白と群青の騎士軍服。

 夜天守護騎士団の十星天刃にのみ誂えられるその特注軍服は、対灰魔導鉱物と霊獣の毛を織り込んだ特殊繊維で仕立てられており、死灰の微粒子を物理的に一切通さない。

 だが、それ以上に怪物を戦慄させたのは、カインの体表を覆う「光」だった。

 青年の肌の表面、わずか数ミリの空間。

 そこに、目に見えないほど極限まで圧縮された「黄金の熾衣(アウラ・ヴェール)」が常時展開されていた。

 触れた死灰の粒子は、カインの肌に到達する前に、高密度の黄金の熱量によってパチパチと小さな火花を散らし、瞬時に弾き飛ばされ、大気中へと霧散していく。

 さらに──カインの肉体そのものが持つ特質。

 竜人と人間のハーフである彼が受け継いだ、強靭な竜の皮膚組織と筋骨は、ドレイクが放った超重力の圧力すら、ただのそよ風のように受け流していた。

「俺たち十星天刃に、その程度の灰が通用すると思ったのかい?」

 カインは静かに白銀の雷槍を一閃させた。

 周囲に渦巻いていた死灰の煙が、槍風だけで綺麗さっぱりと吹き飛ばされる。

「言ったはずだ。反撃を開始するとね」

「バカな……! 我が冷気を、灰の呪縛を、埃のように弾くだと……!? 化け物めがァッ!」

 ドレイクの顔に、初めて明確な焦燥と恐怖の色が浮かんだ。

 正面からでは絶対に勝てない。

 重力も通じず、死灰も効かず、速度では音速で圧倒される。

 このままでは、数分と持たずに自分が屠られる。

 その瞬間──ドレイクの爬虫類の瞳が、ギラリと後方へと向けられた。

 中庭の端。

 重力結界に痛めつけられ、肩で息をしている第7小隊の面々。

 膝をつくエレナ、治療を受けるフェリ、そして不知火を握り締めて立つカナタ。

(あの虫けらどもなら……!)

 知性ある怪物の狡猾さが、最悪の判断を下した。

 ドレイクはカインへ向けて跳躍するフェイントをかけると同時に、両手首の漆黒の灰鎖を──真下の石畳へと力任せに突き刺したのだ。

 ズドォォンッ!

「小癪な十星天刃め! 守るべき玩具ごと、大地に沈むが良いッ!!」

 ジャララララッ!

 地中を潜行する漆黒の鎖。

 砕かれた石畳の地下深くを音もなく這い進み、後方で無防備に治療を続けていたエレナとフェリの足元──その真下から、二本の鋭利な重力槍となって急浮上した!

「なっ……!?」

 前線にいたカインが、ハッと振り返る。

 だが、前線から後方までは三十メートル以上の距離がある。

 音速を誇るカインであっても、地中からの奇襲を察知して背後へ駆け戻るには、コンマ数秒の遅れが生じる──!

「エレナ、危ないにゃ!」

 フェリが叫ぶが、重力で痺れた足がもつれて動けない。

 エレナも短杖を構え直そうとするが、間に合わない。

 石畳を突き破り、黒く脈打つ二本の槍が、二人の頭上へ向けて振り下ろされようとした──その刹那。

 サッ──。

 衣擦れの音すら立てず、一人の黒髪の少年が、二人の前に滑り込んでいた。

「カナタ君……!?」

 エレナが息を呑む。

 カナタの視界は、信じられないほど静まり返っていた。

 先ほどまでの疲労も、激痛も、すべてが意識の外へと押し出されていた。

 足裏から伝わってきた微細な大地の振動。

 風を切り裂いて迫る死灰の殺気。

 それらのすべてが、丹田に深く落とし込んだ呼吸とともに、鮮明な「太刀筋」として頭の中に描かれていた。

(吸って、吐いて、丹田に落とす──)

 父ソウマが教えてくれた、薪割りの呼吸。

 クロードから叩き込まれた、刃の輪郭に熱を吸着させる熾衣の理。

 恐怖はない。

 ただ、仲間を守るという純粋な祈りだけが、少年の心臓の奥底にある純白の火種を優しく、けれど力強く燃え上がらせていた。

 カチリッ。

 不知火の鯉口が静かに弾けた。

 カナタの身体が、水が流れるように低く沈み込む。

 突き出される二本の漆黒の重力槍。

 激突まで、コンマ零秒。

 カナタの右手首が、弧を描いて翻った。

 水面に映る月を掬い上げるように。

 どこまでも滑らかに、どこまでも柔らかく、けれどその刃筋には極限まで圧縮された白銀の陽炎が宿っていた。

 不知火流抜刀術──『不知火・水月(しらぬい・すいげつ)』ッッ!!

 ──キィィィィィィィンッッッッ!!!!

 澄み渡る金属音が、戦場を支配していた轟音を切り裂いた。

 不知火の白銀の切っ先が、振り下ろされた二本の重力槍の切っ先を、撫でるように滑らかにいなした。

 直撃の威力を円の動きで虚空へと逃がし、その流れる軌道のまま──不知火の刃が、二本の漆黒の鎖を根元から真一文字に両断した。

 パァンッ! と乾いた切断音が響く。

 そして──。

 ジュウゥゥゥゥッ! ジュウゥゥゥゥッ!!

 切り落とされた二本の漆黒の鎖が、空中で濛々たる白い湯気を噴き上げた。

 黒煙ではない。

 煤でもない。

 不知火の白銀に触れた瞬間、鎖に宿っていた絶対零度の冷気も、死灰の呪縛も、その存在の根本から強制的に融解させられたのだ。

 サラサラサラ……と、美しい音がした。

 両断された鎖は、石畳に落ちることすらなく──キラキラと輝く純白の光の粒子となって、夜空へと溶けるように昇華し、完全に蒸発消滅した。

 跡形もなく、ただの一片の灰すら残さずに。

「…………え?」

 救援のために駆け戻ろうとしていたカインが、ピタリと足を止めた。

 その碧眼が──縦に細まっていた竜の瞳孔が、驚愕のあまり大きく見開かれていた。

 カインは、自らの目を疑っていた。

(……何だ、今の太刀筋は……!?)

 カインたち十星天刃が纏う高密度の熾衣は、あくまで「死灰を弾く」ものだ。

 強大な熱量とアウラによって、灰の侵食を皮膚の手前で遮断し、身を守るための盾に過ぎない。

 だが──目の前の少年が放った白銀は、違った。

 弾いたのではない。

 防いだのでもない。

 触れた死の灰そのものを、根底から無へと還し、清らかな光の粒子へと「消滅・浄化」させていた。

(灰燼種を……死の灰そのものを消滅させる力……? そんなものが、この世に存在するのか……!?)

 王国の最高峰として数多の戦場を潜り抜けてきたカインの背筋を、かつて経験したことのない強烈な戦慄と、名状しがたい感動が駆け抜けた。

「……ふぅ……っ」

 不知火を流麗な所作で鞘へと納め、カナタは息を吐いた。

 背後のエレナとフェリを振り返り、優しく微笑みかける。

「怪我はありませんか、エレナさん、フェリさん」

「か、カナタ君……! 助かりました……本当に、ありがとう……!」

 エレナが胸を押さえ、涙を浮かべて頷く。

「カナタぁぁ! かっこよすぎにゃーっ!」

 フェリが青い三角耳をパタパタと動かし、尻尾を激しく振って抱きついてきた。

「ふん、妾のカナタを侮るからそうなるのじゃ」

 首元のコハクが誇らしげに鼻を鳴らし、ふかふかの尻尾を立ててみせる。

 だが──。

 二度にわたって攻撃を阻まれ、奥の手の奇襲すら白銀の光に呑み込まれたドレイクは、もはや理性を保つことができなくなっていた。

「おのれ……おのれェェッ! 羽虫が……小僧がァァッ!!」

 ドレイクの絶叫が、中庭の石畳をビリビリと震わせた。

 切断された両手首から青黒い体液を撒き散らしながら、怪物は自らの胸倉を爪で引き裂いた。

 その瞳は血走り、額の黒鋼の竜角が──メリメリ、メリメリと、おぞましい音を立てて巨大化を始めた。

「カリグス様から賜りし……我が真の姿……! 貴様ら全員、この砦ごと……押し潰して肉泥に変えてくれるわァァッッ!!!!」

 ズズズズズズズズッッッッ……!!

 ドレイクの全身から、漆黒の灰が暴風となって噴き上がった。

 皮膚が黒い竜の鱗へと変貌し、背中から巨大な異形の骨翼が生え出していく。

 中庭の空間がぐにゃりと歪み、砦全体を丸ごと押し潰さんとする、桁違いの「超重力結界」が渦を巻き始めた──!

「……チッ、最後の悪あがきか」

 カインが碧眼を険しく細め、雷槍を強く握り直した。

 そして──横手で不知火を構えるカナタへと、その鋭い視線を向けた。

「君、名前は?」

「えっ……? か、カナタです!」

 突然声をかけられ、カナタは慌てて背筋を伸ばして答えた。

 カインは、その端整な唇の端をふっと持ち上げ、少年に向けて頼もしい笑みを浮かべた。

「カナタ君。……君のその白銀の太刀、僕に貸してくれるかい?」

 黄金の雷光と、純白の白銀。

 二人の若き刃が、今──異形化する副官ドレイクを打ち倒すため、ひとつに重なろうとしていた。

第18話をお読みいただき、本当にありがとうございました!

十星天刃第9席カインの圧倒的なスピードと武威!

死灰を寄せ付けぬ特注軍服と黄金の高密度熾衣、そして竜人の強靭さを見せつけ、ドレイクを完膚なきまでに圧倒しました。

しかし、後方の仲間を狙ったドレイクの卑劣な一撃を、カナタが流麗なる『不知火・水月』で鮮やかに両断!

死の灰そのものを完全に光の粒子へと蒸発・浄化させるカナタの白銀を目撃し、カインの胸にも計り知れない衝撃が走りました。

そして追い詰められたドレイクが、ついに異形化の咆哮を上げ……!?

第19話、中庭全体を圧殺する超重力結界に対し、カインの雷電とカナタの白銀が重なり合う!

どうぞお楽しみに!

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