第2話:聖王都アストリアと、おかしな第7小隊
全てが灰に呑まれた故郷を背に、辿り着いた人類最後の希望の都『聖王都アストリア』。
案内された特務遊撃部隊『第7小隊』の拠点は、美しくも危険極まりない問題児たちの魔窟だった!?
尊大なる神獣の白狐コハクとの出会い、そして下町の大衆酒場『黒炎亭』の温かな食卓。
少年カナタの、過酷で賑やかな新生活が幕を開けます!
深い朝霧を切り裂き、夜天紺の天幕を張った頑丈な軍用馬車が、乾いた蹄の音を響かせて石畳を踏み鳴らしていた。
馬車の小窓から差し込む冷たい朝の光の中、カナタはおずおずと顔を出し、眼前に広がる圧倒的な光景に息を呑んだ。
「……これが、王都……」
視界を埋め尽くしたのは、天を衝くようにそびえ立つ、三重の巨大な外壁だった。黒鉄の重装甲板と白亜の石材が隙間なく組み上げられたその威容は、国境の山あいにあった名もなき寒村しか知らなかったカナタにとって、まるで山そのものが城壁の姿をとって立ち塞がっているかのようだった。
上空を見上げれば、朝靄の遥か高みで、淡い燐光を帯びた半透明の光膜が幾重にも波打っている。都市全域を覆う巨大なアウラ防護結界だ。世界を蝕むあの冷たい死の灰を、一粒たりとも地表へ通すまいと、大気の天蓋でパチパチと音を立てて灰を焼き払い続けている。
三重の重装甲門をくぐり抜けると、肌を刺すような熱気と、けたたましい金属音が正面から叩きつけられた。
ガガガガンッ、カキィンッ! と、激しい槌音とともに、分厚い鉄扉の隙間から眩い火花が路上へと弾け飛ぶ。
「すげえ火花だ……鍛冶屋、ですか?」
「外壁沿いの『黒鉄区』だ。ドワーフの頑固親父たちが、朝から晩まで騎士団の重装甲や馬車を叩き直してやがるのさ」
カナタの隣で腕を組み、長い足を前の座席へと放り出していたクロードが、ニッと白い歯を見せて笑った。身の丈ほどもある無骨な大太刀を抱えたまま、彼はカナタの頭を乱暴にわしゃわしゃと撫で回す。
「どうだ小僧。寒村の薪割りに比べりゃ、少しは賑やかで生きる気力が湧いてきたか?」
「……からかわないでください。ただ、圧倒されただけです」
カナタは苦笑しながら、膝の上に置いた黒漆の太刀──父ソウマが最期に託してくれた東方の神器『不知火』を、両手でぎゅっと抱きしめ直した。
胸の奥底には、まだ昨夜の冷たい灰の感触が焼き付いている。一瞬にして命を奪われた村人たち、自分を庇って灰化していった父の最期の笑顔、そして夜風に散っていった肉体。思い出すだけで指先が凍りつき、胸が締め付けられるように痛む。
けれど、いつまでも立ち止まって項垂れているわけにはいかなかった。父が命を賭して遺してくれたこの命と、手元にある不知火の重みがある限り、前を向いて生き抜かなければならない。
「ここが人類最後の砦、聖王都アストリアだ。……で、お前がこれから暮らすねぐらへ案内してやるよ」
馬車が止まったのは、黒鉄と白亜が織り成す威厳ある軍事要塞──夜天守護騎士団本部の敷地内だった。
しかし、クロードが歩を進めたのは、規律正しく整列した兵士たちや、豪奢な甲冑を着たエリート騎士たちが行き交う白亜の本庁舎ではなかった。広大な敷地の裏手、静まり返った深い木立の奥へと、ずんずんと足早に入っていく。
木々の合間を抜けた先に現れたのは、蔓草が絡まる重厚な赤レンガ造りの洋館だった。元々は名門貴族の歴史ある別邸を買い取ったものらしく、建物の骨組み自体は荘厳で気品に満ちている。
「ここが俺の預かってる特務遊撃部隊──『第7小隊』の隊舎だ。まあ、色々と手のかかる連中が集まってるが、仲良くやってくれや」
「はあ……」
クロードが洋館の重々しい木製ドアの前に立つ。ノックをするでもなく、そのままドカンと革靴の先で蹴り開けた。
「おい、戻ったぞ!」
その瞬間だった。
──ドォォォォンッッ!!
「うわあああっ!?」
エントランスの奥から凄まじい爆発音が轟き、甘酸っぱい刺激臭を伴う紫色の爆煙がカナタの顔面を真っ向から直撃した!
視界が煙で真っ白に染まる中、ヒュンッと鋭く空気を切り裂く風切り音。
カキィンッッ!!
カナタの鼻先コンマ数ミリ、ドアの横の頑丈な柱に、三寸ほどの黒い忍び苦無が深々と突き刺さった。さらに足元を、怪しげな蛍光緑色の薬液が入ったフラスコがゴロゴロと転がり、絨毯の端をジュウジュウと溶かしていく。見渡せば、気品あるはずの壁のあちこちに、無数の弾痕と刃の傷跡が刻み込まれていた。
「な、なんだここ……!? 屋内なのに戦場ですか!?」
思わず不知火の柄に手をかけたカナタの横で、クロードは「へっ、相変わらず元気だな」と何事もなかったかのように鼻を鳴らした。
「まあまあ、クロードさん。いきなり蹴破って入ってくるから、調合の温度管理を間違えてしまったじゃありませんか」
モクモクと立ち込める煙の向こうから、穏やかで耳に心地よい、大人の女性の声が響いた。
現れたのは、床まで届きそうなロングスカートのスリットから白い太ももを覗かせた、豊満な肢体の美女だった。ハニーブラウンの豊かな髪をゆるく編み込み、レザーハーネスには無数の薬品アンプルが揺れている。
「あら……? その子が、手紙にあった新しい団員君かしら?」
女性は柔らかな笑みを浮かべると、カナタの前へと歩み寄ってきた。ふわりと漂う、甘い薬草と花の香り。彼女は持っていた清潔な手拭いで、カナタの煤だらけの頬を優しく拭い取った。
「怖がらせてごめんなさいね。私はエレナ。この小隊で魔導薬師と衛生支援を担当しています。よろしくね、新入り君」
「あ、カナタです……よろしくお願いします、エレナさん」
至近距離で見つめられ、カナタは思わず耳まで赤くして視線を逸らした。包容力に満ち溢れた、あまりにも温かいお姉さんだった。
──トン。
不意に、カナタの真後ろで羽毛が落ちるような気配がした。
「……新兵。足音が軽い。背後の死角に対する警戒、ゼロ」
「うわっ!?」
驚いて振り返ると、そこには天井の梁から音もなく降り立っていた少女がいた。
透き通るような銀白の長い髪を、高い位置で涼やかに束ねたポニーテール。夜天紺の忍び装束を纏った華奢な身体つきで、陶器の人形のように整った美貌には一切の感情が浮かんでいない。切れ長の青い瞳が、カナタを品定めするように冷ややかに射抜いている。
何よりカナタの目を引いたのは、ポニーテールの結び目の横からすっと伸びた、長くとがったエルフの耳だった。
「あ、あの……さっきのクナイ、鼻先かすめたんですけど……」
カナタが引きつった笑みで会釈すると、少女は静かに短刀を鞘へ納めながら、プイと横を向いた。
「……シエル。斥候担当。……死なないように、努力を期待する」
「カナタです。よろしくお願いします、シエルさん」
口調は極めて冷淡で、無機質そのものだった。だが、束ねられた銀白のポニーテールの隙間から見えるその長いエルフ耳が、まるで小動物のように、ピコッ、ピコピコッと照れ隠しに上下に動いていた。
(み、耳が……めちゃくちゃ本音を語ってる……!)
「ちょっとクロードぉぉぉーーーッ!!」
突如、リビングの奥から弾丸のような怒鳴り声が響いた。
ソファーの上で愛用の二丁拳銃を布で磨いていた小柄な人影が、目にも留まらぬ身軽さで宙を舞い、エントランスのローテーブルの上へ飛び乗ってきた。
鮮やかなコバルトブルーのショートヘアが、窓からの陽光を浴びて跳ねている。青い三角の獣耳をピクピクと怒りに震わせ、お尻のあたりからは、見事なふさふさの青い尻尾が生えていた。
「勝手に男の新入りなんか連れてきて、どういうつもりだにゃ! アタイたちの部屋が狭くなるし、飯の分け前が減るにゃ!」
カチャリと二丁拳銃の撃鉄を起こし、銃口をカナタの額へ真っ直ぐ突きつけてくる。
クロップド丈のへそ出しジャケットにホットパンツという、極めて活動的で健康的な猫獣人の少女だ。
「おいおいフェリ、いきなり銃口を向けんじゃねえよ。こいつはカナタ、今日からお前らの仲間だ」
「ふん! アタイは実力のない奴は仲間とは認めないにゃ! 大体、こんなひょろっこい──」
フェリと呼ばれた少女の青い瞳が、ふとカナタの腰元に止まった。
黒漆の鞘に、月と星の透かし彫りを施した鍔。中央の騎士たちが帯びる無骨な両刃長剣とは全く異なる、流麗な東方の反り刃。
「……あれ? 変わった刀だにゃ。面白い形してるにゃ……」
フェリは銃口を下ろすと、興味津々にカナタの周りをくるくると回り始めた。
さっきまでの好戦的な威嚇はどこへやら、彼女の背後で、ふさふさの青い尻尾がピーンと垂直に直立し、左右へブンブンと激しく揺れ動いている。
(こっちは尻尾がわかりやすすぎる……!)
「アタイはフェリ! 遊撃銃士だにゃ。おい新入り、後でその刀、抜いて見せてみろにゃ!」
「あ、ああ……機会があったらかな」
強烈な個性を持つ三人の美少女に囲まれ、カナタが圧倒されていると──部屋の奥、暖炉の前から、呆れたような高慢なため息が聞こえてきた。
「……フン。朝から騒々しいことじゃ。下等な野良猫の鳴き声ほど耳障りなものはないのう」
「なっ……! 誰が野良猫だにゃ、この泥棒狐ーーッ!」
フェリが牙を剥いて威嚇した先、暖炉の前の最高級のふかふかクッションの上に、それはいた。
白銀に輝く見事な毛並みを持つ、小柄な一匹の白狐。首元には小さな注連縄風の鈴飾りが揺れ、切れ長の金色の双眸が、眠たげにカナタたちを見下ろしていた。
「あいつは数か月前に迷い込んできた子狐なんだけど、気取ってて誰の言うことも聞かないし、隙あらばアタイの干し肉を盗み食いする憎たらしい駄狐にゃ!」
「たわけめが。妾が口にした時点で、それは神への供物となったのじゃ。光栄に思うがよい。……さて、二度寝でも──ん?」
あくびを噛み殺そうとした白狐の耳が、ピクッと跳ね上がった。
金色の双眸が、カッと見開かれる。
その視線は、カナタの腰にある『不知火』、そしてカナタの身体の奥底からかすかに漏れ出ている、目に見えない魂の残り香へと一直線に注がれていた。
スタッ、とクッションから飛び降りた白狐は、音もなくカナタの足元へと駆け寄ってきた。
「えっ、ちょ、なんだ……?」
戸惑うカナタの足元で、白狐はフンフンと鼻を鳴らし、不知火の鍔の匂いを嗅ぎ、カナタのズボンの裾に顔を擦り付ける。
そして次の瞬間──。
トトトンッ、と驚くべき身軽さでカナタの足を駆け上がり、胸元を蹴って、まずはカナタの左肩の上へとちょこんと飛び乗った!
「うわっ!?」
「ふむ……! 間違いない、この不知火に宿る霊気、そして……心臓の奥底で脈打つ、清浄にして心地よき白銀の温もり……!」
白狐はカナタの首元に顔をうずめてスリスリと甘えるように喉を鳴らすと、そのまま流れるようにカナタの頭頂部へとよじ登り、ふかふかの尻尾を巻きつけて丸くなった!
「決めたぞ! よいかカナタ、そなたの頭の上は、本日より妾の特等席と定める! 感謝して運ぶがよい、カッカッカ!」
「お、重い……! なんで初対面で他人の頭の上に居座って偉そうにしてんだよ!?」
「な、な、なんであいつが初対面の男にデレデレになってるにゃーーーーっ!?」
フェリが頭を抱えて絶叫し、シエルのポニーテールの隙間から耳がピクピクと動き、エレナが「あらあらまあまあ」と口元を押さえて微笑む。
クロードだけが、腹を抱えて大爆笑していた。
「ガハハハッ! 誰にも懐かねえあのコハクが、一発で手懐けられちまったか! 傑作だな!」
「笑ってないで助けてくださいよクロードさん! 爪が地味に頭皮に刺さってるんですから!」
「苦しゅうないぞカナタ、もっと背筋を伸ばすのじゃ」
「降りろーーっ!」
ドタバタと騒ぎ立てる中、カナタのお腹が、盛大に鳴り響いた。
──グゥゥゥゥ〜〜〜〜ッ。
静まり返るリビング。
カナタが顔を真っ赤にして腹を押さえると、クロードがニヤリと口元を歪めた。
「そういや、夜通し馬車に揺られて腹が減ってたな。よし、新入りの歓迎会だ! いつもの店へ行くぞ!」
「やったにゃーー! 肉だにゃーー!」
「……任務外の外出。……肉、賛成」
「ふふ、クロードさんのおごりですね? 高いお肉、頼んじゃいましょう」
「妾にも極上の油揚げと鳥肉を寄越すのじゃ!」
クロードに連れられてやってきたのは、王都の華やかな目抜き通りを外れた、下町の大衆街だった。
石造りの古い家並みが続き、洗濯物が頭上に干され、子どもたちが路地を駆け回る温かな平民街。その一角、香ばしい肉の焼ける匂いと湯気をもうもうと吐き出している大衆食堂があった。
看板には、力強い文字で『黒炎亭』と書かれている。
「おいお袋! 腹を空かせたヒナ鳥どもを連れてきたぞ!」
クロードが暖簾をくぐって大声を出した瞬間──
バシィィィンッッ!!
「ぎゃっ!?」
厨房の奥から凄まじい速度で飛んできた鉄のフライパンが、クロードの側頭部を正確無比に叩きのめした!
よろめく人類最高戦力・第7席の男。その前に仁王立ちしたのは、割烹着を着て腰に手を当てた、恰幅のいい中年女性──クロードの母、マーサだった。
「またお前は、給料日前にツケで後輩たちに飯を食わせる気かい! 十星天刃だか何だか知らないけどね、実家でツケを溜めるんじゃないよ、この親不孝者が!」
「い、痛えな、お袋……! 今日は新入りが入った歓迎会だっつってんだろ!」
「新入りだろうが何だろうが、払うものは払う! ……おや?」
マーサの鋭い視線が、クロードの後ろでおずおずと立っていたカナタに向いた。
頭の上に白狐を乗せ、腰に不知火を差した黒髪の少年。そのどこか寂しげで、故郷を失った影を残す瞳を見た瞬間、マーサの厳しい表情が一変し、太陽のような温かな笑顔へと変わった。
「まあ……! お前さんがカナタかい? クロードから手紙で聞いたよ。大変だったねぇ……寒かったろう、お腹が空いたろう。さあさあ、奥の広い席にお座り!」
「えっ、あ、ありがとうございます……」
「おいクロード! 突っ立ってねえで、裏から予備の丸椅子持ってこい!」
厨房の奥から、野太い怒鳴り声が飛んできた。腕を組み、分厚い前掛けを締めた強面の男──父親のガルドだ。無口で頑固そうな職人気質の親父だが、その手元ではすでに、巨大な寸胴鍋からもうもうと湯気を立てる極上のスープが注がれていた。
「へいへい、分かってるよ親父……」
外では灰燼種を焼き尽くす英雄が、実家では完全に顎で使われる男の顔になって丸椅子を運んでいる。カナタはその光景に、思わず口元を緩めた。
「ほらよ、新入り。……残したら承知しねえからな」
ドン、とカナタの前に大皿を置いたのは、15歳ほどの少年だった。クロードによく似た精悍な顔立ちをしているが、思春期特有の反抗的な目でカナタを一瞥する。クロードの弟、レオだ。不愛想な態度とは裏腹に、運んできた皿には山盛りの焼きたて黒パンと、湯気の立つシチューがこれでもかと盛られていた。
「わあぁぁっ! お兄ちゃんだー!」
奥から駆け出してきたのは、9歳ほどの天真爛漫な少女、妹のミリーだった。クロードの腰にぎゅっと抱きついた後、カナタの頭の上で丸くなっていた白狐を見て、目をキラキラと輝かせた。
「もふもふ! 白狐ちゃん、もふもふだぁーっ!」
「ひゃああっ!? や、やめんか人間の童! 妾の美しき毛並みを撫で回すでない……ああっ、そこは耳の裏じゃ、ふにゃぁぁ……っ!」
ミリーに抱きしめられ、威厳を保とうとしながらも秒で骨抜きにされるコハク。
その横で、フェリとレオが肉の乗った皿を取り合い、「アタイの肉にゃ!」「俺が運んできたんだよ!」と小競り合いを始めている。シエルはポニーテールを揺らしながら黙々とパンをちぎって口に運び、エレナはマーサと楽しそうに薬草談義に花を咲かせていた。
「ほらカナタ、冷めないうちに食え」
頭をかきながら席に着いたクロードが、木のスプーンを投げてよこした。
目の前に置かれた、熱々の煮込みシチュー。
ごろごろと入った根菜と、柔らかく煮込まれた牛肉。スプーンですくって口に運んだ瞬間、濃厚で温かな出汁の旨味が、口いっぱいに広がった。
「……っ」
あたたかい。
喉を通って胃に落ちた熱が、じわりと全身の血を巡っていく。
昨夜、故郷が冷たい灰に飲まれ、父を失ってからずっと、カナタの身体の芯はずっと凍りついたままだった。呼吸をするたびに胸が痛み、世界全てが色を失っていた。
けれど──この騒がしくて、温かくて、笑い声に満ちた食卓が、その氷を少しずつ溶かしていくのを感じていた。
「美味しいです……すごく」
ぽつりとこぼしたカナタの言葉に、マーサが優しく目を細めた。
「たくさんお食べ。ここはお前の家でもあるんだからね」
(父さん……)
カナタは木のスプーンを強く握りしめた。
(俺、この街で生きていくよ。父さんが遺してくれたこの命で、この温かい場所を守ってみせる)
夕暮れ時、腹を満たした一行は、木立の奥の洋館へと戻ってきた。
隊舎のエントランスで、クロードが一つの包みをカナタへと手渡した。
「開けてみな」
包みを解くと、中から現れたのは、深みのある夜天紺を基調とした、上質な軍服だった。
胸元には夜天の双星を象った銀の刺繍章、縁取りには白銀のパイピングが施された、夜天守護騎士団の正式な制服。
「お前の採寸に合わせて、工廠の連中に急ぎで作らせた。今日からお前も、正式な夜天の騎士だ」
カナタは自室の姿見の前に立ち、そのジャケットに袖を通した。
父仕込みの動きやすさを重視し、詰襟の前を大胆に開け、中には白い晒と黒のインナーを合わせる。そして腰には、特注のレザー刀帯を締め、父の形見である『不知火』を差した。
鏡の中に映るのは、昨夜までの頼りない村の少年ではない。
闇を切り裂く意志を瞳に宿した、一人の精悍な剣士の姿だった。
左肩の上では、満腹になって丸くなったコハクが、首元にふさふさの尻尾をマフラーのように巻きつけ、すやすやと心地よさそうに寝息を立てている。
カチャリとドアが開き、腕組みをしたクロードが部屋を覗き込んだ。
「へっ、様になってるじゃねえか」
「クロードさん」
「明日からさっそく特訓だぞ。薪割り仕込みの身体の操法は上等だが、アウラの扱いはお粗末そのものだ。死線で生き残れるよう、俺の黒炎で嫌ってほど扱いてやるから覚悟しとけ」
「望むところです」
カナタは不知火の柄に手を添え、迷いのない笑みを返した。
「俺の白銀は、絶対に消させませんから」
聖王都アストリアの夜空に、二つの星が静かに瞬いていた。
吹き荒れる灰燼の世界で、少年と第7小隊の戦いが、今ここから始まろうとしていた。
第2話をお読みいただき、本当にありがとうございました!
舞台は聖王都アストリアへ移り、美しくも騒がしい第7小隊の仲間たち(エレナ、シエル、フェリ)、そして尊大な相棒白狐コハクが登場しました。
ポニーテール姿のくノ一シエルのピコピコ動くエルフ耳や、青髪猫獣人フェリの尻尾など、ヒロインたちの愛嬌を感じていただけたら嬉しいです。
クロードの実家『黒炎亭』の温かなシチューが、カナタの凍えた心を救う第一歩となりました。
次回、第3話はクロードによる過酷なアウラ基礎訓練が幕を開けます。
そして本部で出会う、謎の巫女の正体とは……!?
どうぞお楽しみに!




