第15話 帰りたくない場所
1.駅前の偶然
仕事を終えたひろきが駅に着いた頃、空には細かな雨が降り始めていた。
十二月の終わり。
街路樹に巻きつけられたイルミネーションが、濡れた歩道にぼんやりと映っている。
ひろきは傘を開こうとして、ふと足を止めた。
駅前の小さなカフェ。その軒先に、見覚えのある女性が立っていた。
まさこだった。
スマートフォンを片手に、店の看板を眺めている。どうやら営業が終わっているらしい。
「……まさこさん?」
声をかけると、彼女は驚いたように振り返った。
「あ……ひろきさん」
その顔に、ほっとしたような笑みが浮かんだ。
ひろきも笑い返した。
ただ、それだけのことだった。
けれど、仕事の疲れも、上司とのやり取りで感じた苛立ちも、その瞬間だけは遠くへ引いていった。
「こんなところで、珍しいですね」
「この近くで用事があって。帰る前に少し休もうと思ったんですけど、閉まっていて」
「そうだったんですか」
「ひろきさんは、お仕事帰りですか?」
「はい。今から帰るところです」
そう答えてから、ひろきは自分が少しも帰りたいと思っていないことに気づいた。
帰れば、まなみがいる。
まなみと話したいと思っていた。二人のこれからについて、治療をどうするかについて、もっと正直に話し合いたいとも思っていた。
それなのに。
目の前にまさこがいると、もう少しだけ、この場にいたいと思ってしまう。
「よかったら、少しだけお茶でもしませんか?」
まさこが言った。
すぐに答えられなかった。
以前なら、何も考えずに頷いていたかもしれない。
しかし今は違う。
友人の健吾から言われた言葉が、頭の片隅に残っていた。
寂しいときに優しくしてくれる人を、特別な人だと思い込んでしまうことがある。
ひろきは腕時計を見た。
「……三十分くらいなら」
「はい。私も、そのくらいで」
たった三十分。
二人はそう決めて、駅の反対側にある喫茶店へ向かった。
その約束が、どこまで自分を守ってくれるのか。
ひろきには、まだわからなかった。
### 2.あなたは、家に帰りたいですか
喫茶店の窓際の席に座ると、まさこは温かい紅茶を注文した。
ひろきはコーヒーを頼んだ。
向かい合う二人の間には、小さなテーブルがある。
それだけの距離なのに、ひろきは自分の家でまなみと向かい合っているときよりも、ずっと自然に息ができるような気がした。
「この前、メッセージをもらいましたよね」
ひろきが言った。
「ご主人が、ご親戚の前でかばってくれたって」
「はい」
まさこは紅茶のカップに視線を落とした。
「まだ、全部が変わったわけじゃありません。でも、あの人が私の代わりに何かを言ってくれたのは、初めてだったかもしれません」
「よかったですね」
「……そうですね」
まさこは微笑んだ。
その笑顔を見て、ひろきも嬉しくなった。
彼女が少しでも楽になったのなら、それでいい。
本当に、そう思った。
しかし同時に、胸のどこかで小さな声がした。
もう、自分がいなくても大丈夫なのではないか。
その考えが浮かんだことに、ひろきは戸惑った。
まさこが幸せになることを願っているはずなのに、自分を必要としなくなることには寂しさを覚えている。
彼女のためを思っているのか。
それとも、彼女に必要とされる自分が好きなのか。
まだ答えは出なかった。
「ひろきさんは、どうですか?」
「え?」
「奥さんと、少しずつ話せるようになりましたか?」
ひろきはコーヒーを口に運んだ。
「……はい。前よりは」
「よかった」
まさこは素直にそう言った。
「私たち、似たような悩みを抱えていますけど、同じように進まなくてもいいんですよね」
「同じように?」
「はい。私が夫と話せたからといって、ひろきさんも奥さんと同じように話さなければいけないわけじゃない。ひろきさんたちには、ひろきさんたちの時間があるから」
ひろきは黙って頷いた。
彼女の言葉は優しかった。
だが、その優しさは、彼が期待していたものとは少し違っていた。
まさこは彼を自分のもとへ引き寄せようとしているのではない。
むしろ、彼が自分の生活へ戻っていけるように、そっと背中を押している。
それなのに、ひろきはその手を離したくないと思ってしまう。
「……まさこさんは」
ひろきは言葉を探した。
「家に帰りたくないと思うこと、ありますか?」
まさこは、すぐには答えなかった。
窓の外を、傘を差した人々が通り過ぎていく。
「あります」
やがて彼女は、小さな声で答えた。
「帰りたくないというより……帰るのが怖いんです」
「怖い?」
「家に帰ったら、また妻に戻らなきゃいけないから」
まさこは両手でカップを包んだ。
「夫の妻で、九条家の嫁で、子どもを産むことを期待されている人間に戻る。外にいる間は、ただの私でいられるのに」
その言葉に、ひろきの胸が痛んだ。
「でも、最近は少しだけ違うんです」
「違う?」
「夫が変わろうとしているのを見て、私も、ちゃんと自分の気持ちを伝えてみようと思いました。だから、帰りたくないと思う自分を、これからは少しずつ変えたいんです」
まさこはひろきを見た。
「ひろきさんは、どうですか?」
今度は、ひろきが答える番だった。
帰りたくない。
その気持ちを、ずっと仕事のせいにしてきた。
疲れているから。
家に帰っても気が休まらないから。
まなみとの会話が減ったから。
どれも、嘘ではない。
けれど、それだけでもない。
家に帰れば、まなみの前で夫でいなければならない。
自分の寂しさを押し殺し、彼女の苦しみを理解し、二人で決めた人生に向き合わなければならない。
それは、決して間違ったことではない。
むしろ、夫婦なら当然のことなのかもしれない。
だからこそ、ひろきは逃げたくなる自分を認めるのが怖かった。
「……僕は」
口を開いたものの、言葉が続かなかった。
まさこは急かさなかった。
その沈黙が、ひろきにはありがたかった。
「僕は、帰りたくないんじゃなくて……帰ったときに、ちゃんと向き合える自信がないのかもしれません」
ようやく、そう言えた。
まさこはゆっくりと頷いた。
「それなら、帰りたくない気持ちだけで、何かを決めないほうがいいのかもしれませんね」
ひろきは顔を上げた。
「帰りたくないから、帰らなくていい場所を探すんじゃなくて。帰りたいと思える場所にするにはどうしたらいいか、考えるとか」
その言葉が、ひろきの胸に深く沈んだ。
彼女の隣にいれば、楽になれる。
彼女と話していれば、自分の気持ちを理解してもらえる。
そう思っていた。
けれど、まさこが言っているのは、彼女のもとへ逃げてくればいいということではなかった。
自分の家を、自分の人生を、もう一度考えることだった。
「……そうですね」
ひろきは答えた。
その瞬間、スマートフォンが震えた。
画面には、まなみからのメッセージが表示されていた。
『今日、少し話せる? 病院のことで相談したいことがあるの』
ひろきは画面を見つめた。
まさこも、その様子に気づいた。
「奥さんですか?」
「……はい」
「お話ししたほうがいいと思います」
まさこはそう言って、カップを置いた。
「私たちも、そろそろ帰りましょうか」
約束した三十分は、すでに過ぎていた。
ひろきは、もう少しだけ話していたいと思った。
けれど、今度はその気持ちを口にしなかった。
「そうですね。今日は、ありがとうございました」
「こちらこそ」
二人は店を出た。
駅へ向かう道の途中で、まさこが立ち止まった。
「ひろきさん」
「はい?」
「私、これからは自分の家に帰ることを、怖いだけのものにしたくないんです」
彼女は少しだけ笑った。
「ひろきさんも、そうなれるといいですね」
ひろきは頷いた。
「……そうですね」
それ以上、何も言えなかった。
まさこと別れたあと、ひろきはしばらく駅前に立っていた。
彼女といると、心が軽くなる。
それは確かなことだった。
だが、心が軽くなることと、その人と一緒にいるべきだということは、同じではない。
ひろきはスマートフォンを握りしめた。
帰らなければならない。
いや。
帰りたいと思える場所にするために、帰らなければならないのだ。
その違いを、彼は初めて考え始めていた。
### 3.妻としてではなく、一人の人間として
同じ頃、まなみは自宅のダイニングテーブルに、病院の診察券と手帳を並べていた。
手帳には、これまでの治療の記録が細かく書き込まれている。
通院した日。
検査の結果。
薬を飲み始めた日。
期待して、落ち込んだ日。
何度も繰り返してきた日々の記録だった。
以前のまなみなら、次の治療日を確認し、必要な準備を進めるだけだった。
治療を続けることが、子どもを望む夫婦としての責任だと思っていたからだ。
けれど、最近は違う。
ひろきと話した夜から、頭の中に一つの問いが残っていた。
もし、子どもがいない人生になったら。
自分たちは、どう生きていくのだろう。
そして、もう一つ。
自分は、本当はどうしたいのだろう。
まなみはスマートフォンを手に取り、病院の予約画面を開いた。
次の診察を予約する。
それは、治療を続けると決めることとは違う。
医師に相談する。
これまでの治療で何が負担だったのか、これからどのような選択肢があるのか、自分の気持ちも含めて話してみる。
続けることも、休むことも、やめることも。
誰かに決めてもらうのではなく、自分で考えたい。
予約を確定させたあと、まなみは手帳を開いた。
そして、余白に書いた。
『私は、子どもが欲しい。
でも、子どもを授かるためだけに生きたいわけじゃない。
ひろきと笑いたい。
仕事も続けたい。
自分のことを、自分で決めたい』
書き終えると、胸の奥にわずかな痛みが走った。
子どもを諦めようとしているわけではない。
まだ、望んでいる。
それでも、望み続けることだけが自分の人生ではないのだと、少しずつ思えるようになってきた。
まなみは手帳を閉じた。
そのとき、玄関の鍵が回る音がした。
「ただいま」
ひろきの声だった。
「おかえりなさい」
まなみは立ち上がった。
ひろきは、いつもより少し疲れた顔をしていた。
「ご飯、食べた?」
「いや、まだ」
「じゃあ、温めるね」
「ありがとう」
何気ない会話。
何年も繰り返してきた、夫婦の日常。
それでも、まなみは今日、少しだけ勇気を出すことにした。
「ひろき、今日ね、病院の予約をしたの」
ひろきが顔を上げた。
「次の治療?」
「ううん。これからどうするか、先生に相談しようと思って」
ひろきは何かを言いかけて、口を閉じた。
まなみはその様子を見ながら、続けた。
「治療を続けるか、少し休むか、ほかに選択肢があるのか。ちゃんと聞いてから考えたいの」
「……うん」
「あなたにも、一緒に考えてほしい」
ひろきはゆっくりと頷いた。
「わかった。一緒に考えよう」
その返事を聞いて、まなみはほっとした。
けれど、すべてが解決したわけではない。
ひろきが何を考えているのか、まだわからない。
自分たちの間に、以前とは違う距離が生まれていることも、薄々感じていた。
それでも今夜は、もう一歩だけ踏み込んでみたかった。
「それとね」
「うん?」
「私、これからは、つらいときにつらいって言うようにする」
ひろきは黙って聞いていた。
「あなたに心配をかけたくなくて、ずっと我慢していたけど……我慢しているだけじゃ、何も伝わらないんだよね」
「……そうだね」
「だから、あなたもそうしてほしい。仕事のことでも、私とのことでも。言いにくいことでも、少しずつ話してほしい」
ひろきの胸が締めつけられた。
まなみは、自分に向かって手を伸ばしている。
もう一度、夫婦として向き合おうとしている。
その手を握り返したいと思った。
なのに、彼女に言えないことがある。
まさこと会っていたこと。
彼女からのメッセージを、何度も読み返していたこと。
彼女に必要とされる自分に、喜びを感じていたこと。
どれも、まだ取り返しのつかない出来事ではない。
そう言い聞かせることはできる。
けれど、隠していることがある以上、まなみが求める正直さに、完全には応えられない。
「……うん。僕も、そうする」
ひろきは答えた。
まなみは微笑んだ。
「ありがとう」
その笑顔を見て、ひろきは目を伏せた。
彼女の信頼は、まだここにある。
自分は、それを裏切らずにいられるのだろうか。
### 4.九条家の夜
九条家の書斎では、宗一郎が古いアルバムを開いていた。
若い頃の自分。
その隣に立つ、まだ幼さの残る千鶴。
結婚したばかりの頃の写真には、二人とも笑顔で写っていた。
宗一郎は、長い間その写真を見つめていた。
やがて、書斎の扉がノックされた。
「父さん、少し話せるか」
しんいちだった。
「入れ」
しんいちは部屋に入り、向かいの椅子に座った。
「来月の親族会議のことか」
「ああ。それもある」
宗一郎はアルバムを閉じた。
「お前は、何を言うつもりだ」
「九条家の跡継ぎについて、考え直したいと言うつもりだ」
「考え直す?」
「子どもを持つことと、九条家を残すことを、同じものとして扱っていいのか。俺は、そこから考え直したい」
宗一郎の眉間に、深い皺が寄った。
「お前は、九条家がどれだけのものを背負ってきたか、わかっているのか」
「わかっているつもりだ」
「ならば、簡単に言うな」
「簡単に言っているつもりはない」
しんいちは、膝の上で手を握った。
「俺は、まさこに負担をかけてきた。子どもができないのは彼女の問題だと、どこかで思っていた。自分の検査結果を知るまではな」
宗一郎は黙った。
「俺にも問題があった。それなのに、まさこは何年も治療を続けてきた。俺は、その苦しさを本当に理解していなかった」
「……それで、九条家を捨てるのか」
「捨てるなんて言っていない」
しんいちは、父の目を見た。
「俺は、まさこと生きていきたい。子どもがいても、いなくても。それを考える前に、九条家のために子どもを持たなければならないと決めつけていた自分を、変えたいんだ」
宗一郎は、すぐには答えなかった。
窓の外では、雨が降り続いていた。
「お前には、わからんだろうな」
やがて、宗一郎が口を開いた。
「何がですか」
「守るものがある人間の怖さだ」
しんいちは、父の顔を見た。
「私も、好きでこうなったわけではない」
宗一郎はアルバムに手を置いた。
「父から、家を守れと言われた。先祖から受け継いだものを絶やすなと。私は、その言葉を守ることが責任だと思ってきた」
「母さんも、そう思っていたのか」
宗一郎は答えなかった。
しんいちは、父の沈黙に何かを感じた。
「……母さんは、幸せだったのか?」
その問いに、宗一郎の手が止まった。
彼は、しばらくしてから小さく息を吐いた。
「それを、私は聞いたことがない」
しんいちは驚いた。
「聞いたことがない?」
「家のこと、親族のこと、子どものこと。そういう話ばかりしてきた。あいつが何を望んでいたのか、何に苦しんでいたのか……私は、ちゃんと聞いてこなかったのかもしれん」
宗一郎は、窓の外へ視線を向けた。
「お前は、私のようになるな」
その言葉は、あまりにも静かだった。
しんいちは、父が初めて自分の弱さを認めたように感じた。
「父さん……」
「だが、九条家の問題をどうするかは、別の話だ。長く続いてきた家には、家なりの責任がある。お前の代で、それをどうするのか。親族には説明しなければならん」
「わかっている」
「ならば、まさこと二人で考えろ。私のためでも、親族のためでもなく、お前たち自身でな」
しんいちは、深く頷いた。
父と分かり合えたわけではない。
来月の親族会議で何が起こるかも、まだわからない。
それでも、九条家の中で何かが変わり始めている。
しんいちは立ち上がり、書斎を出ようとした。
「しんいち」
父に呼び止められた。
「まさこを、一人にするな」
しんいちは振り返った。
「……ああ」
今度の返事には、迷いがなかった。
### 5.帰る場所をつくる
その夜、ひろきとまなみは、久しぶりに二人で食卓についた。
温め直した料理を食べながら、学校であったことや、仕事のことを少しずつ話した。
特別な話題はなかった。
それでも、以前よりも会話が続いた。
「今日、学校でね」
まなみが言った。
「進路のことで悩んでいる生徒がいたの。周りの友達が進路を決めていくのを見て、自分だけ取り残されている気がするって」
「それで、なんて言ったの?」
「すぐに決めなくてもいいんじゃないって。進路を選ぶことは、自分の人生を全部決めることじゃないからって」
「……いい言葉だね」
「そうかな」
まなみは少し笑った。
「本当は、自分にも言い聞かせているんだけどね」
ひろきは、その言葉を聞きながら、今日のまさことの会話を思い出した。
帰りたくない場所を避けるのではなく、帰りたいと思える場所にする。
そのために何ができるのか。
まずは、目の前にいる人の話を聞くことなのかもしれない。
「まなみ」
「なに?」
「今度の病院、僕も一緒に行くよ」
まなみは、少し驚いたように彼を見た。
「仕事、大丈夫?」
「調整するよ」
「……ありがとう」
彼女は嬉しそうに笑った。
ひろきは、その笑顔を見て胸が痛んだ。
自分は、まだ何も失っていない。
まなみはここにいる。
二人で話す時間も、これからの人生を考える機会も残っている。
それなのに、自分は何を求めていたのだろう。
まさこに、自分の寂しさをわかってほしかった。
自分のことを必要としてほしかった。
そして、彼女と話すことで、まなみとの間にある問題から目をそらしていたのではないか。
ひろきは、箸を置いた。
「……僕も、ちゃんと考えたい」
「何を?」
「これからのこと。治療のことも、僕たちの生活のことも」
まなみは、彼の顔を見つめた。
「うん。一緒に考えよう」
その言葉に、ひろきは頷いた。
だが、彼のスマートフォンには、まさことのメッセージが残っている。
今日の会話も、心に残っている。
まなみと向き合おうと決めたからといって、まさこへの気持ちが消えたわけではない。
人の心は、決意した瞬間にきれいに整理されるものではないのだ。
ひろきは、今夜もメッセージの履歴を消さなかった。
ただ、もう一度読み返すこともしなかった。
それが誠実さなのか、単なる先延ばしなのか。
自分でも、まだ判断できなかった。
食事を終えたあと、まなみは食器を片づけた。
ひろきも立ち上がり、隣に並んだ。
「僕も洗うよ」
「じゃあ、お願い」
二人は並んで、食器を洗った。
肩が触れそうな距離だった。
その距離を、ひろきは遠いとは思わなかった。
帰りたい場所とは、どこなのだろう。
帰ればすべてが解決する場所ではない。
自分の弱さを隠さなくてもいい場所。
相手の弱さから逃げずにいられる場所。
そして、自分が何をしたのかを、いつか正直に話さなければならない場所。
ひろきは、まだその意味を十分には理解していなかった。
それでも、今夜は逃げずに隣に立っていた。
それだけが、彼にできる最初の一歩だった。
### 次回予告 第16話「境界線の手前」
まなみは、治療を続けるかどうかを医師に相談するため、ひろきと病院へ向かう。
二人は初めて、子どもがいない未来について具体的に話し始める。
一方、まさこは、しんいちとともに自分たちの結婚生活を見つめ直そうとしていた。
それぞれが自分の居場所を取り戻そうとする中、ひろきのもとに、まさこから一通のメッセージが届く。
短い言葉だった。
それでも、ひろきの心は揺れる。
何も起きていない。
まだ、何も越えていない。
けれど、境界線の手前で立ち止まることが、以前より難しくなり始めていた。




