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あの動画を藤田から見せられた後。
私たちは、それぞれの家へ帰った。
――その翌日。
石上徹と連絡がつかなくなった。
電話をかけても出ない。
メッセージを送っても既読にならない。
大学にも来ていなかった。
そして。
徹の部屋は、鍵がかかっていなかった。
家具などはそのまま。
まるで――。
本人だけが、突然消えてしまったみたいに。
警察は徹を行方不明者として捜索している。
◇
とある喫茶店。
私たちは、テーブルを囲んでいた。
「石上と連絡が取れなくなった」
新田が、重い口調で言った。
「……どうなってるのよ!」
思わず声を荒らげる。
向かいに座っていた磯山が、私を見る。
「優香ちゃん。抑えて」
「でも……!」
私は藤田を睨んだ。
「元はと言えば、あんたが心霊スポットに行こうなんて言うからでしょ!」
「……」
「あんたのせいで、徹がいなくなっちゃったじゃない!」
「お前も乗り気だったじゃないか」
「それは……!」
「俺だって悪いと思ってる」
藤田は目を伏せた。
そして。
「だから、調べる」
「……調べる?」
「有名な霊能者を見つけた」
藤田はスマートフォンを取り出した。
「今週末、四人で会いに行こう」
「四人?」
私は聞き返した。
「俺と、お前と、新田と磯山」
「……徹は?」
「……」
誰も答えなかった。
その沈黙が。
何よりも嫌だった。
◇
その後。
私は一人で部屋へ戻った。
玄関のドアを閉める。
鍵をかける。
チェーンもかける。
念のため、もう一度確認した。
カチャ。
鍵はかかっている。
「……」
私はようやく息を吐いた。
部屋に入り、ベッドへ腰を下ろす。
スマートフォンを取り出した。
写真フォルダを開く。
何枚かスクロールして。
指が止まった。
徹とのツーショット写真。
大学の近くで撮ったものだった。
徹は、いつものように少しだけ面倒くさそうな顔をしている。
私は笑っている。
「……徹」
写真の中の徹は。
何も知らない。
何も起きていない。
この写真を撮った時には。
まさか、こんなことになるなんて。
「どこ行っちゃったのよ……」
私は画面を撫でた。
返事が来るはずもない。
それが、無性に悲しかった。
気を紛らわせようと思って、私はWhoTubeを開いた。
適当な動画を眺める。
くだらない動画。
料理。
ゲーム。
そんなものをぼんやり眺めていた。
すると。
「……え?」
関連動画の欄に。
見覚えのある映像が表示された。
廃病院。
あの廃病院だった。
「もう……」
私はため息をついた。
見たくない。
そう思った。
なのに。
指は再生ボタンを押していた。
◇
動画が始まる。
ボロボロの廊下。
壁紙は剥がれ。
天井には黒い染みが広がっている。
撮影者は無言で歩いている。
靴音だけが響く。
「……これ」
藤田が見せてくれた動画と同じ場所。
でも。
何かが違う。
撮影されている場所も。
映像の順番も。
カメラは廊下を進み。
階段を下り。
地下へ向かっていく。
「……なんで」
画面はそのまま進んでいく。
やがて。
あの部屋に着いた。
あの手術台。
そして。
撮影者が。
手術台の上に乗った。
「……何してるの?」
次の瞬間。
画面が切り替わった。
「――っ」
無表情の男の顔。
見覚えがある。
毎日見ていた。
「……徹?」
石上徹だった。
私は反射的にスマートフォンを落とした。
「ひっ……!」
床に落ちたスマートフォンから。
動画の音声だけが聞こえてくる。
私は恐る恐る画面を見た。
そこには。
全裸の徹が映っていた。
手術台の上。
「……嘘」
徹は動かない。
目も開いている。
なのに。
何も感じていないような顔をしていた。
そして。
――館内放送が流れた。
『いしがみとおるさん』
「……!」
『侵蝕部位の切除を開始します』
「いや……」
何かが。
徹の身体に触れた。
だが。
そこには誰もいない。
「やめて……」
次の瞬間。
徹の身体が跳ねた。
「――ッ!」
目に見えない何かが。
徹の身体を深く切り裂いていく。
「いや……」
皮膚が。
肉が。
まるで最初から切り取る場所を決められていたかのように、綺麗に剥がされていく。
「やめて!」
徹が叫んだ。
今まで聞いたことのないような声だった。
身体が激しく痙攣する。
「いやああああああああ!」
私はスマートフォンを掴んだ。
動画を止める。
画面が暗くなった。
「はぁ……はぁ……」
息ができない。
手が震えている。
「嘘……」
そんなわけがない。
あれは動画だ。
誰かが作った偽物。
そうに決まっている。
徹が。
あんなことになっているはずが――。
その時。
――ブン。
「……え?」
部屋の隅。
ノートPCの電源が勝手に入った。
「……何?」
私は立ち上がった。
PCの画面が明るくなる。
そこにはニュース番組が映っていた。
女性アナウンサーが、無表情で原稿を読んでいる。
『明日は曇りとなるでしょう。続いて、次のニュースです』
「……」
私は画面を見つめた。
『……かんざきゆうかさん』
「え?」
アナウンサーが。
私の名前を呼んだ。
『石上徹さんとの濃厚接蝕のため――』
「……何?」
『侵蝕を確認しました』
背筋が凍った。
『明日、午後一時三十分に、――』
ノイズ。
画面が一瞬乱れる。
『蝕肉解体室へお越しください』
「……」
意味が分からない。
何を言っているの?
私はPCへ近づいた。
「何よ……これ」
電源ボタンを押す。
反応しない。
もう一度押す。
「消えてよ!」
画面は消えない。
アナウンサーが。
こちらを見ている。
いや。
テレビ画面の向こうから。
私を見ている。
『続いて――』
「やめて」
『かんざきゆうかさん』
「やめてよ」
『侵蝕部位を確認しました』
「やめて!」
『明日、午後一時三十分――』
「うるさい!」
私はPCを掴んだ。
そして。
壁へ投げつけた。
ガシャァン!
画面が割れた。
ようやく。
映像が消えた。
「……はぁ……」
肩で息をする。
静かになった。
今度こそ。
何も聞こえない。
私はその場にへたり込んだ。
その時。
――ピコン。
「……!」
スマートフォンが光った。
WhoTubeからの通知。
新着動画。
私は見たくなかった。
絶対に。
見たら駄目だ。
なのに。
震える手で。
通知を開いてしまった。
表示されたタイトル。
『次回予告』
そして。
その下に。
『次回は、かんざきゆうかさんの...』
私はスマートフォンを投げた。
ガンッ!
壁にぶつかる。
床に落ちる。
画面が消えた。
「いや……」
私はベッドへ駆け込んだ。
布団を頭まで被る。
耳を塞ぐ。
「違う……」
あれは嘘。
全部、嘘。
徹は生きている。
警察が探している。
きっと見つかる。
明日になれば。
全部、元通りになる。
そう。
元通りに――。




