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まとわりつく声【夏のホラー2026・音】  作者: A.N.C.


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新着動画

 あの動画を藤田から見せられた後。


 私たちは、それぞれの家へ帰った。


 ――その翌日。


 石上徹と連絡がつかなくなった。


 電話をかけても出ない。


 メッセージを送っても既読にならない。


 大学にも来ていなかった。


 そして。


 徹の部屋は、鍵がかかっていなかった。


 家具などはそのまま。


 まるで――。


 本人だけが、突然消えてしまったみたいに。


 警察は徹を行方不明者として捜索している。


     ◇


 とある喫茶店。


 私たちは、テーブルを囲んでいた。


「石上と連絡が取れなくなった」


 新田が、重い口調で言った。


「……どうなってるのよ!」


 思わず声を荒らげる。


 向かいに座っていた磯山が、私を見る。


「優香ちゃん。抑えて」


「でも……!」


 私は藤田を睨んだ。


「元はと言えば、あんたが心霊スポットに行こうなんて言うからでしょ!」


「……」


「あんたのせいで、徹がいなくなっちゃったじゃない!」


「お前も乗り気だったじゃないか」


「それは……!」


「俺だって悪いと思ってる」


 藤田は目を伏せた。


 そして。


「だから、調べる」


「……調べる?」


「有名な霊能者を見つけた」


 藤田はスマートフォンを取り出した。


「今週末、四人で会いに行こう」


「四人?」


 私は聞き返した。


「俺と、お前と、新田と磯山」


「……徹は?」


「……」


 誰も答えなかった。


 その沈黙が。


 何よりも嫌だった。


     ◇


 その後。


 私は一人で部屋へ戻った。


 玄関のドアを閉める。


 鍵をかける。


 チェーンもかける。


 念のため、もう一度確認した。


 カチャ。


 鍵はかかっている。


「……」


 私はようやく息を吐いた。


 部屋に入り、ベッドへ腰を下ろす。


 スマートフォンを取り出した。


 写真フォルダを開く。


 何枚かスクロールして。


 指が止まった。


 徹とのツーショット写真。


 大学の近くで撮ったものだった。


 徹は、いつものように少しだけ面倒くさそうな顔をしている。


 私は笑っている。


「……徹」


 写真の中の徹は。


 何も知らない。


 何も起きていない。


 この写真を撮った時には。


 まさか、こんなことになるなんて。


「どこ行っちゃったのよ……」


 私は画面を撫でた。


 返事が来るはずもない。


 それが、無性に悲しかった。


 気を紛らわせようと思って、私はWhoTubeを開いた。


 適当な動画を眺める。


 くだらない動画。


 料理。


 ゲーム。


 そんなものをぼんやり眺めていた。


 すると。


「……え?」


 関連動画の欄に。


 見覚えのある映像が表示された。


 廃病院。


 あの廃病院だった。


「もう……」


 私はため息をついた。


 見たくない。


 そう思った。


 なのに。


 指は再生ボタンを押していた。


     ◇


 動画が始まる。


 ボロボロの廊下。


 壁紙は剥がれ。


 天井には黒い染みが広がっている。


 撮影者は無言で歩いている。


 靴音だけが響く。


「……これ」


 藤田が見せてくれた動画と同じ場所。


 でも。


 何かが違う。


 撮影されている場所も。


 映像の順番も。


 カメラは廊下を進み。


 階段を下り。


 地下へ向かっていく。


「……なんで」


 画面はそのまま進んでいく。


 やがて。


 あの部屋に着いた。


 あの手術台。


 そして。


 撮影者が。


 手術台の上に乗った。


「……何してるの?」


 次の瞬間。


 画面が切り替わった。


「――っ」


 無表情の男の顔。


 見覚えがある。


 毎日見ていた。


「……徹?」


 石上徹だった。


 私は反射的にスマートフォンを落とした。


「ひっ……!」


 床に落ちたスマートフォンから。


 動画の音声だけが聞こえてくる。


 私は恐る恐る画面を見た。


 そこには。


 全裸の徹が映っていた。


 手術台の上。


「……嘘」


 徹は動かない。


 目も開いている。


 なのに。


 何も感じていないような顔をしていた。


 そして。


 ――館内放送が流れた。


『いしがみとおるさん』


「……!」


『侵蝕部位の切除を開始します』


「いや……」


 何かが。


 徹の身体に触れた。


 だが。


 そこには誰もいない。


「やめて……」


 次の瞬間。


 徹の身体が跳ねた。


「――ッ!」


 目に見えない何かが。


 徹の身体を深く切り裂いていく。


「いや……」


 皮膚が。


 肉が。


 まるで最初から切り取る場所を決められていたかのように、綺麗に剥がされていく。


「やめて!」


 徹が叫んだ。


 今まで聞いたことのないような声だった。


 身体が激しく痙攣する。


「いやああああああああ!」


 私はスマートフォンを掴んだ。


 動画を止める。


 画面が暗くなった。


「はぁ……はぁ……」


 息ができない。


 手が震えている。


「嘘……」


 そんなわけがない。


 あれは動画だ。


 誰かが作った偽物。


 そうに決まっている。


 徹が。


 あんなことになっているはずが――。


 その時。


 ――ブン。


「……え?」


 部屋の隅。


 ノートPCの電源が勝手に入った。


「……何?」


 私は立ち上がった。


 PCの画面が明るくなる。


 そこにはニュース番組が映っていた。


 女性アナウンサーが、無表情で原稿を読んでいる。


『明日は曇りとなるでしょう。続いて、次のニュースです』


「……」


 私は画面を見つめた。


『……かんざきゆうかさん』


「え?」


 アナウンサーが。


 私の名前を呼んだ。


『石上徹さんとの濃厚接蝕のため――』


「……何?」


『侵蝕を確認しました』


 背筋が凍った。


『明日、午後一時三十分に、――』


 ノイズ。


 画面が一瞬乱れる。


『蝕肉解体室へお越しください』


「……」


 意味が分からない。


 何を言っているの?


 私はPCへ近づいた。


「何よ……これ」


 電源ボタンを押す。


 反応しない。


 もう一度押す。


「消えてよ!」


 画面は消えない。


 アナウンサーが。


 こちらを見ている。


 いや。


 テレビ画面の向こうから。


 私を見ている。


『続いて――』


「やめて」


『かんざきゆうかさん』


「やめてよ」


『侵蝕部位を確認しました』


「やめて!」


『明日、午後一時三十分――』


「うるさい!」


 私はPCを掴んだ。


 そして。


 壁へ投げつけた。


 ガシャァン!


 画面が割れた。


 ようやく。


 映像が消えた。


「……はぁ……」


 肩で息をする。


 静かになった。


 今度こそ。


 何も聞こえない。


 私はその場にへたり込んだ。


 その時。


 ――ピコン。


「……!」


 スマートフォンが光った。


 WhoTubeからの通知。


 新着動画。


 私は見たくなかった。


 絶対に。


 見たら駄目だ。


 なのに。


 震える手で。


 通知を開いてしまった。


 表示されたタイトル。


『次回予告』


 そして。


 その下に。


『次回は、かんざきゆうかさんの...』


 私はスマートフォンを投げた。


 ガンッ!


 壁にぶつかる。


 床に落ちる。


 画面が消えた。


「いや……」


 私はベッドへ駆け込んだ。


 布団を頭まで被る。


 耳を塞ぐ。


「違う……」


 あれは嘘。


 全部、嘘。


 徹は生きている。


 警察が探している。


 きっと見つかる。


 明日になれば。


 全部、元通りになる。


 そう。


 元通りに――。

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