見えない出口 〜妹皇女の悩み〜
どうすれば良いのだろう・・・。
ずっと、そのことばかり考えていると、出口が見えないことに焦りが募る。
願いはたった一つ。自分の大切な人たちにしあわせになってもらいたいだけなのだ。
フリューレはそっとため息を零す。
そっと消えてしまいたいと望んだら、誘拐されそうになった。でも、未遂に終わってしまい、これから先自分への警護はさらに厳しいものとなるだろう。
「もう、こっそり消えるのは無理ね・・・」
このままいけば、姉である第一皇女のティアーヌがこのリアルシャルンの正妃に選ばれ、自分は自国に戻って縁談の来ているキミリアード侯爵の後妻になる・・・。それは出来れば避けたかった。あの太った好色親父の後妻になりたい娘など居るはずがないと、彼のフリューレを舐め上げるような眼差しを思い出し、フリューレは小さく身震いをした。
それにしても、何故、自分が誘拐されそうになったのか、フリューレには見当もつかない。
「誰が、何の為に?」
自分が居なくなることで、誰が損をして、誰が得をするのだろう?
キミリアード子爵家は、子爵家に商家から養子に入った先々代のジョフレ・キミリアードの事業手腕によって、没落寸前だった子爵家を立て直し、皇家の財政に多いに貢献したことで現在皇国の中で一番勢いがある家だろう。
そのジョフレ・キミリアードの孫に当たるジュピル・キミリアードが今は後を継いでいるが、甘やかされて育った彼は色好みで放蕩の限りを尽くし、事業は部下任せにし、女遊びに明け暮れていて屋敷にも外にも数名の側室を囲い、彼の子どもはすでに両手の指でも足りないくらいに居ると言われている艶福家として有名だった。
すでに50歳を越えており、もてるとは思えない太鼓腹で禿げ上がっている彼が、多くの側室を囲えるのは、ひとえにその財力に物を言わせているからだと、「所詮、卑しい商家の血が入った成り上がりよ」と彼を影であざ笑う者も多いと聞いている。
そんな彼の後妻になど、死んでも行きたくは無いと思うのは当たり前ではないだろうか。
だが、しかし、皇家への財政的貢献を考えると、彼の家からの縁談を一蹴出来ないのも事実ではあったのだ。
フリューレをキミリアードに嫁がせたいと思わない一派があるとすれば、それはキミリアードの前正妻であったパミラ夫人の実家であるテアオード男爵家だろうか。パミラ夫人とジュピルの間には嫡男となる男の子が一人居たはずだ。
でも、もっと可能性を広げるとすれば、このリアルシャルンの国内の闘争に巻き込まれたという可能性も否定は出来ない。
開いた園遊会で、他国の皇女が誘拐されたとあれば、主催したハンクルイエ家の失脚を望む者たちの仕業ということもあり得る。
そして警護にあたってくれていた、リュエマのいるシャルア男爵家の失墜を望む者がいるのかもしれない。
「何にせよ、厄介なことだわ・・・」
本当は、こっそり消えてしまいたかったのにと、皇女とも思えぬ思考で、フリューレはおっとりと思案する。
皇女という身分を捨てて、どうやって生きていくのかなどと、後々の身の振り方を考えてあった訳ではない。
ただ、おそらく、このリアルシャルンにいる間しかチャンスは無いのだ。
もう一つ、フリューレに来ていた縁談は、年齢的にも釣り合いが取れていた。
モリスン男爵家の次男、エドワルドとの縁談である。
エドワルド。涼しい灰褐色の瞳に凛々しい面差し。絹糸のような金の髪を持つ優しい幼なじみ。小さな頃から憧れの兄のような存在で、フリューレには夢のような縁談であった。
でも、彼の想いはティアーヌに捧げられていることを、幼い頃から彼等と共に過ごしてきたフリューレは痛いほど分かっていた。だから、自分がエドワルドの妻になることはあり得なかった。
「私が・・・この国に残るには・・・」
抜け出して身分も名も捨てて生きていくか、もしくは・・・ノルディアスに選ばれてこの国に嫁ぐか・・・。
「ノルディアス様の・・・」
昨日の事をフリューレは思い出す。
すらりとしているのに、自分を抱き上げてくれた腕は力強く、寄り添った胸板も逞しかった。心配そうに間近で覗き込んできた瞳は、黒に近い濃い紺色で、フリューレの頬に触れた彼の髪は柔らかかった。衣装に焚きしめた香なのだろうか、柑橘系のすっきりとした香りがしていた。
「フリューレ様っ!ノルディアス様がお見舞いに来られる前に、もう一度髪をお梳きします」
いつの間にか側に来ていた侍女クレリレアにブラシで髪をとかされながら、フリューレはぼんやりと考え込んでいた。
そんなフリューレを伺うように、クレリレアもまた、考えを巡らせながら手を動かしていたのだった。
お読み下さってありがとうございます。
また、ちょこっとお待たせしました。
一週間に一話か二話のペースで頑張ります!
雨生




