源実忠(その7)
宰相の源実忠殿から、また文が届きました。
「無理に文を出しているのですから、恐縮して、今はもうあなたに恋することはやめましょう。
死ぬといわば 試しにもせん ものをのみ 思う命は 君がまにまに
(恋のために死ぬと言えば、きっと後々まで語り草の例にもなることでしょう。ですから、わたしの命は、あなた次第なのです。)
恋するあて宮様、本当に死ぬのか試してみられるとしても、今日の御返事は、門の少しだけでも見せてください。」と書いてありました。兵衛の君は、
「やはり、今度だけは御返事をなさってください。お返事をなさらないのは、あまりにも情け知らずななさりようです。乳兄弟であるこの兵衛の願いを聞くためと思ってください。」と言いました。
「それで兵衛の願いを聞けば、わたくしは、けしからぬ人(恋に溺れた不届きな人)になってしまうではありませんか。」とは言いましたが、さすがに人の命を奪うわけにはいきませんから、
「苔生うる 岩に千代経る 命をば 黄なる泉の 水ぞ知るらん」
(苔が生えるほど幾千年も生きるであろうあなたの寿命は、『黄なる泉』(黄泉の国の水)が知っていますわ。『君がまにまに』などと言われましても、現世に生きるわたくしが知ることはできません。)と書いて、兵衛の君に渡しました。
実忠殿は、この上もなく喜ばれたということです。
(男性が愛していると言えば、NO!と答えるのが、恋の歌の贈答の基本ですもの。返歌があるかどうかが重要なのです。)




