91
いつだって誰かを愛することのできる子に生まれてほしい。
きっと世界の平和を愛して、決して他者を捨てることの無い優しい子に育って欲しい。そう思って……走った。
走る。
走る。
脚はすでに折れ砕け、それでも世界は丸いから、走れる。
遠心力に振り回されて、きっと私は死んでしまう。けれど、お腹のなかのこの子や……まだ赤ん坊のこの子は捨てたくない。
空波は優しいお兄ちゃんになって、美空や、青空、空明をちゃんと守ってほしい。
美空は、きっとあの人に似てしまう男れんじゅうを笑って引っ張ったり、たまには怒って背中を叩いたりしてほしい。
青空は、そんな二人を守れる人であってほしい。
空明は、どうか、そんな三人といっしょに笑って暮らしてほしい。
隕獄という名前を最後まで捨てなかったあの人は、きっと天国に行っていると思う。
こんな事を言うと、あの人はきっと私のことを怒ると思う。「私が天国に行けるわけがないだろう」とか「私は醜い化物だ」とか。そんな事を言っちゃうんだと思う。
でも、私は、あの人の事ずっと見てた。
だから、思っちゃっても仕方ないと思うんだ。あの人はきっと天国にいるんだって。
だから、きっと見守っててください。隕獄さん。あの日のことを、あの日のキスを……全部、守ってあげることはできないけど、あなたがいないこの世界は、せめて幸せでありますようにって。
願います。
心の底から、願います。
この子たちのうえに広がる空が、きっと青いものでありますように。明るいものでありますように。美しいものでありますように。波風立ってもいいから、曇天だけは……。
「あっ」
目の前に、愛星友の禿頭信者が現れた。
月の明かりもないような夜の下に、あらわれた。
ダメだ。ダメだ、ダメだ。ダメだ。立ち止まっちゃダメなのに。視界が歪んで足が痛んで、もう動けない。
「お母さん……」
美空が、不安そうに私を見上げる。
ごめんね。私が弱いばかりに。
そうして禿頭信者に引き剥がされて……腹を蹴られた時だった。ビカッという輝きとともに──その裏に、黒い人影があった。
光が消えると、街灯の下にそれが現れる。
変身したあの人によく似た──けれど、黒い。
黒い強化皮膚、黒い生体装甲……赤く淡く点滅する、複眼。
怪人は禿頭信者を簡単に倒してしまうと……私のほうに向かってきた。そして、私のお腹に触ると、お腹の中の生命が甦るのがわかった。そして、怪人は青空を見つめ……頭を撫でて、去って行ってしまった。




