9
夏祭りの帰りに、光輝を引き取った叔母が光輝を迎えに来た。
光輝は彼のほうを向いて、「またね、ミスター」と手を振った。
光輝の叔母は光輝が笑うところを久しぶりに見た。
親が死んでしまってから、心を閉ざしてしまったようになって……何をしても全く笑わなくなった。
「お前、何をしたんだよ」
「人として当然のことをしたまでだよ」
彼も「また」と少し声を張り上げた。
朝飛は「うお」と驚いて、光輝と彼を見比べてから「お前もなんだか変わったらしいね」と腕を組んだ。
「じゃあ、俺たちも帰ろうぜ」
「ああ、そうしよう……と、言いたいところだけれども、とても空腹なので、どうだろう。ここで何か屋台の飯でも買って君の家に行かないか。たしか近かったろう」
「あ、いいね。でもうち今日兄ちゃんとか姉ちゃんとかいるぜ」
「かまわないよ」
屋台で結構買い込んで。
それから、コンビニへ行ってそこでも結構買い込んだ。
そうして新沼家へ。
事前に朝飛母・春花に話していたので、春花は歓迎してくれた。
「俺の部屋めっちゃアレだからリビングでいい?」
「かまわないよ」
「ごめんな、たぶん兄ちゃんも姉ちゃんもお前に絡んでくるだろうけれど。気に障ったらマジごめん」
「お気になさらず」
「えー! ミスターって呼ばれてるんだ」
「じゃあ俺もミスターって呼んじゃお」
「ミスターくんはウチのと仲良くしてくれるんだ」
「私自身もたいへん良くしてくれていますので」
「ミスターくんお酒飲める?」
「未成年飲酒はしないつもりです。お誘いありがとうございます。今日の分は、三年後の九月二十日にでも」
「九月二十日が誕生日なんだ」
「はい。秋生まれです」
「いいね~! うちのは八月十日うまれだよ」
「ミスターくん抹茶とか好き? 抹茶ケーキあるけど」
「はい。好物です」
「じゃあ食べちゃって!」
「いただきます」
「ミスターくんちゃんとした子じゃ〜ん!!」
「ちょっと姉ちゃん絡みすぎだって」
「へいへ〜い。ミスターくんゆっくりしてってね」
ん? と疑問に思う。
「弟妹の言葉は兄姉に聞こえるのか」
「は?」
「ふむ。認識を改めよう」
「あー……。…………。…………ん? あっ! え? え? えっ、えっ、え? え? え? え? え? え? え? え? え? え? え? え? えっ? ……え? おまえまさか……」
彼の特性を、すかさず理解。
「お前、それいつ学習した?」
「小学六年生のころだろうか。それがどうかしたか」
「ひどく大昔じゃねぇか……」
たしかこいつ妹いたよな、と記憶の中をめぐる。
うん、いた。
リビングでこのアホの言動にドン引きしていたのがひとり。
弟妹の言葉は兄姉に聞こえるのか……?
それは、つまり。
「お、お前……」
お前それは、さすがにお前それは可哀想だろ、と。
しかし、こいつも悪意があってやったわけではないのだろう。
これをどう指摘するべきか。
「新沼朝飛、どうかしたかい」
「どういう状況なの? 妹ちゃんとは」
彼は兄妹についてを語った。
すると、朝飛は自分の考察が少し当たっていたことに軽くめまいを起こし、いきなり兄からガン無視されるようになった妹への心労に思いを馳せた。
「お前それ……『普通妹の言葉は兄には響かないものなんだけど』……って、それ……たぶん、声が聞こえないってわけじゃなくて、言うことを聞かないだとか、リスペクトがないだとか、そういうニュアンスのことだろ……そういう点で言えばお前は妹ちゃんの言うこと聞いてないしあのコへのリスペクト皆無だけど……」
「毎日勉強と部活を頑張っていて偉いし、彼氏に付き合ってやれる根性はすごいと認識しているつもりだ」
「そこまで認識してたらさぁ! ……んん……まぁ、そうか。そういやお前化け物だったな……」
小六でその理解力はとうなんだ、と思いつつたこ焼きをほおばる。
「あとでちゃんと謝ろうな」
「わかった」
「ひとりで謝れる?」
「ああ。おそらくは」
「やんじゃん」
朝飛が頬杖をつくようにして顔を傾けた。
じわり、胸の奥から湯が滲むように、なにか得体のしれない感情が湧き上がってくるのを感じ、彼はアホなのでそれが何であるかがわからなかった。
「どうかしたか?」
「いや、わからない。が、どうせ大したことではない」
「そういうのが後々効いてくるんだよな」
「恐ろしい事をのたまいなさる」




