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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
3 憤怒
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 兄が謝ってきた。


 五年間無視してしまい、たいへん申し訳ありませんでした──と取引先に失敗を謝罪するみたいに、謝罪をされてしまった為、妹・菜奈(なな)は許さざるを得なかった。


 一応「なんで無視をしたのか」と聞いてみたが、理由が本当にクソみたいなものだったので、ぶん殴りたかった。


「響かない」をそういうふうに解釈するのはさすがに無理があるし、仮にそう解釈できたとしてまったくもってそのとおりに声が聞こえなくなることはねぇよ、と。


「なんで今なの?」

「……友人の、きょうだい仲がよかった。ほんとうの普通がわかった。自分の過ちもわかった」

「お兄ちゃん友達いたっけ?」


 新沼朝飛という人らしい。


 誘拐未遂をきっかけに話すようになったのだそうだ。


 世も末みたいなきっかけだな、とツッコミたくなる。


「まぁいいや。お兄ちゃんがそういう奴だって分かんなかった私にも非は…………」

「ない」

「……」

「この場合、君に非はいっさい無い」

「ある」

「……え?」


 菜奈のスイッチが入った。自分の言葉を即座に否定されたのが気に食わなくて──狂犬スイッチ、オン。


「ある」

「いや、ない。この場合俺に百パーセントの非が……」

「ある!」

「頑固だな君も……無いんだよ」

「あるって言ってんでしょう! 兄のくせに妹に譲りもしない!」

「それはもう理不尽だろ……いいかい、状況を軽く整理しよう。俺は五年前にくだらんクソみたいなドラマに影響を受け、君の言葉を無視するようになった。対して君はめげずに俺に話しかけてくれたろう」

「おみまいいった。タイミング悪くいつも熟睡してたけど」

「そうだったのか。それも、本当に済まない。わかるだろう? だから、君に非はいっさい」

「ある」

「な、なにを言ってるんだ……?」


 このままじゃ埒が明かない。


 翌日、朝飛がやってきた。


「兄妹そろってやべぇ奴なのか?」と、思いつつふたりの仲裁に入る。意地でも自分にも非があったと認めさせたい菜奈バーサス意地でも菜奈には何の非もなかったと認めさせたいアホの兄貴。


「兄妹そろってバカなんかな」


 疲れる。


 結局、「どっちもどっちだから、もうこの話題は忘れて普通の兄妹になっちまえよ」ということで──渋々ではあるものの、話に決着をつけることができた。


「なんだか、申し訳ない」

「意地っ張りなんだな、お前たちって」

「意地っ張り?」

「そうだろ。不幸だけれど兄妹なんだな。でも幸せだろ」

「わからない。まだ、人間にはなりきれない」

「なら、人間だな」


 また、ジワリと感情が滲んでくる。

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