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兄妹の物語がはじまったように、不幸の物語もまたはじまる。
その日、彼は光輝と会っていた。
ビカットマンには色々いるんだ、というのを教えてもらっていたのだ。青いビカットマン、黒いビカットマン、そして、白いビカットマン。
それぞれの能力を教えてもらっていた。
頭の中の声は「いい力だ」と光輝を褒めていた。
「きっと、この力は君が愛の失われない世界を求めるがために俺に宿ったものなのだろう。そしてあの祠の主は、俺にその力をくれる存在だった。君が信じて、君が悲しんでくれたからこそ、俺はこの力を得ることができた。猪地光輝、君は心の優しき良い子だね」
夏休みの終わり際のことだった。
その日は、家を空けていた。
蝉の声がして、けれど涼しげな風が流れる空の青い日だった。
青空が曇天になる。
尾島家が燃えた。どうやら放火らしい。
家の中からは、三人の遺体が発見され、父と母、そして妹のディー・エヌ・エーと一致した。
どうやら放火らしい。
分解して、分析して、理屈で理解しようとした感情が、その過程をすり抜けきれなくなって、心の奥底にたまっていく。
感情が、たまりに溜まって……例えば輪郭のなかであろうとしても、それは、重くのしかかってくるのだから。
燃えた家の中からは、燃えカスの「普通の人間ノート」が発見されたが、それを見て、笑うしかなかった。
処理しきれない!
夏休みが終わり、新学期が始まる。
「おい! 大丈夫かよ」
「大丈夫だよ。一人のご飯は冷たくて……冷たくて、冷たいけど、アツいよりはマシだと思うがね」
「……俺、相談に乗るからな。もし、本当に自分でもどうしょうもなくなったら、相談してくれて良いんだからな。俺、お前のこと分かるつもりだ。お前は優しいから……」
「新沼。俺は大丈夫だ」
心のエンジンがかからない。
無気力になってしまった。
勉強も手がつかなくなってしまって、一日中教室の天井を見つめるだけの大きな人形のようである。
「新沼、俺はいっとう大切にするものを、蔑ろにしてここまで来てしまったんだ。俺は……おれは、もっと家族のほうを向くべきだった。勉強キライだよ、もうやりたくない……」
感情的になっている。
いつものように、冷静でいるための作業ができていないのだろう。
「じゃあ勉強サボっちゃおう」
「いいのかな」
「いいんだよ、学生だから。俺たち子供だろ、二十歳まではさ」
「ああ。そうだ……帰ろう、新沼」
身体も心も、思うように動いてくれない。
動き出そうとして、ふと止まる。




