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そんな彼の様子を見ていた者がいた。
ある日、彼の方に寄っていって、声をかける。
加賀美優心という男だが、彼の親も殺人で家族を喪っていた。
彼の場合は強盗殺人で、たまたま祖母の家に行っていたので無事だったのが幸いしていたが、父と母はそれで死んでしまった。
「自分を不幸にした、こんな社会に復讐、したいと思うだろ」
「…………」
「尾島! お、俺の家族もなんだ。殺されたんだよ、人の悪意に。だからさ、俺とお前で、俺たちを不幸にした人間を殺してやろうってんじゃないかよ。えぇ!? これ、結構いい案だろ」
そこにはほかのクラスメイトたちもいた。
「すまない、俺はそうは思わない」
「日和ってるだけなんだ。ほんとうの怒りをおまえは知ってるんだから、それを炸裂させればいいんだ! やり方なんての、いくらでもあるだろ! 一人ではできないことをふたりでやろう!」
「何を言うのか。俺にはお前の気持ちが分からない」
「わかっているくせに!」
「恨むさ。人なんて……悪意の塊だと思うさ、でもね! けどね、そこで、そこで『殺す』なんて手段選んだらそれこそ俺だってお前だって、奴らとおんなじになってしまうんだ。だから俺はそれを率先して行おうとする、お前の気持ちは分かってやれない」
「傲慢なんだ、そうだお前、傲慢だ……」
「言われる」
優心は狼狽えながら、懐からカッターナイフを取り出して、すぐそばで怯えるような顔をしていた女子に振りかざした。
彼は咄嗟に体を動かし、そのカッターナイフを掴んだ。
「び、っくりした。どうしてそう、ゼロか百しか分からんのだ、君は! もう少し落ち着いて物事を考えさえすれば! もう少し平和的な考えに到れるかもしれないのに!」
「そういう平和主義が俺の家族を殺した! 犯人だって捕まっていないのは、日和見主義の結果だろうが! そういう思想を吸って、俺達の怒りは、俺達の憎悪は育っていく! そういう怒りの力を復讐に使えば! 俺達の悲願だって果たされるんだ! それを分かったらどうなんだ、尾島!」
ようやく見つけた仲間になれそうな人間を前にして、まともな思考なんかできるわけがなく、彼はすっかり支離滅裂になっていた。
クラスメイトを害されそうになったので、彼もまた怒る。
たまたま席を外していた朝飛がそこに帰ってきた。「誰か先生呼んでこい」という悲鳴にも似た声が飛んでいる。
「分からないよ。分からない! 君は! お前は!」
感情的になるべきではない。
理性がセーブをかけようとする。
「そうやって、自分が加害者になるのを、君の家族は望むのか!? いまなら学生同士の行き過ぎた喧嘩だ。けれど、そのカッターナイフを他者に向けるというのであれば、貴様は犯罪者に成り下がる。貴様の過去なんて、悪事の動機でしかなくなる。家族との思い出を、そうやってけがして、誰が喜ぶものかよ! 誰が笑うか! 我慢して、一生苦しみながら、生きるしかないだろう……!? 俺たちは!」
「復讐ができれば、俺の家族の無念は浮かばれる! 俺はそこでようやく家族に墓参りができる!」
「そういう無念がお前の心を怪我にしているのだから、我慢するしかないはずだ!」
「我慢なんか、できるものかよ!」
「するんだ。その怒りの心を復讐のために使うな、どんなに爆発しようと、一生向き合っていくトラウマなんだ。つらくとも」
他者に嫌な思いをさせられたから、他者が苦しむ姿を見てせいせいして「ざまぁみろ」だなんていうのは、根暗の思想だ。
気持ちが悪い。
「うるせぇ!!」
優心はカッターナイフを離すと、窓から飛び降りようとする。
まともな思考ができてない。
「お前が人を苦しめるなら、俺は一生お前に付き合ってやる。俺が思ったのは、憎悪の次に、思ったのは『もう誰も苦しませたくない』だ。やっと、感情が見えた」
自分よりヤバイ奴がいると冷静になれると言うが……。
「加賀美優心。君が君自身を傷付けるなら、俺も一緒に傷付いてやる。俺の心にあるのは、こういう感情だ」
そうなのだろう。
「俺は君の怒りを理解できない。自分を誰にも理解されないまま、散っていくのは、いけないよ。理屈で片付けられない感情は否定しないと」
「もう、黙ってくれ」




