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彼が動かなくなると、マツモトは恐ろしくなって、光輝の腕を無理矢理掴み、車に押し込むと、その家をあとにした。
夏祭りの横を過ぎて、市外へ出ようとしている。
彼の停止した思考に、「おきて」という声がする。
彼の停止した視界に、クネクネと蠢く何かが近づいてくる。
それは動きを変えた。
「お、に、けん、ばい……」
「おきて」
白い人の形をした化け物が、彼の頭を優しく持ち上げると、頭に染み入るような声色で「いっしょに、おかしくなっちゃおう」と声がした。
まるで子供の声。
まるで少女のような柔らかな子供の声。
頭のなかで、「普通の人間ノート」が燃える幻を見た。
彼の心臓が動きをとめると、身体がふわりと立ち上がる。
「…………あっちか……」
そして彼が走り出すと、頭がいじられるような感覚とともに、肉体が変わっていくような感覚があった。
まるで世界と一体化するような──
それは、おそらく「光になった」のだろう。
そして、綱取断層でマツモトの車がまるでミニチュアを蹴飛ばしたように吹き飛んだ。
車窓から赤い鬼のような形相の怪人が見える。
「ビカットマン……」
「な、に……!? き、きさま……おまえのせいか!!」
あれは……ビカットマンだ!
光輝は目尻に涙を浮かべて、叫んだ。
赤いビカットマンは、とぉぉ〜〜〜〜〜〜っっっても強い力で悪い人をやっつけてくれる。
光輝は叫んだ。
「ビカットマン!!」
ビカットマンは光の粒になり、光輝を救い出す。
「ここにいてくれるかい」
光輝は力強く頷く。
マツモトは起き上がると、何かの呪文のようなのを唱えた。
すると、奴の背後からおおきな人の顔が団子のように連なった化け物が現れるが、頭のなかで「殴れる」という声が響く。
なら、安心だ。
ビカットマンは拳を引き絞り、跳躍し──殴り潰した。
血の入った風船がはじけるように──……そして、それが伝染していき──……パン、パン、パン、パパン、パパパパパ……!!
「アアア! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!! てめええええ! お、俺がどういう思いであれを手なづけたと思ってるんだアアア!!」
「知らぬさ」
「許せんなぁ、許しておけんなぁ!!」
「そうか。私もだ」
マツモトが殴りかかると、ビカットマンはその顔面を殴りつけ、地面に叩きつけてしまった。
それから、気絶してイビキをかき始めたのを見ると、「やりすぎた」と思い、胸のあたりと頭に手を当て力を送り込む。
容体が安静したのを確認すると、ビカットマンは今度は光輝を見る。
「祭り、行こう」
しばらくの沈黙。
のにち、「うん」という返事。




