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日曜日の祭は六時からの参加ということなので、彼は勉強をしていたが、うっかりノートが切れてしまったので、買いに出た。
渡辺文具店というのが家の近くにある。
理容店のすぐ目の前に家があり、そこから交差点のある方を直線に進むと、その文具店がある。
午後六時まであと三時間。
そこまでの道を歩いていると、まさしくその交差点で、原動機付自転車に乗っかった洋子が居り、「ミスター! ミスターくーん!」と手をブンブン。
「猫野洋子さん、どうもこんにちは。お元気ですか」
「なにしてたの〜?」
「ノートを買いに行くんです。勉強をしていて、切れたので」
「お! 真面目だなあ。偉いぞ〜」
「どうもありがとうございます」
褒められたら感謝の意を伝えなければならない。
そう学習している。
「今日はお祭来る?」
「はい。十八時頃に昨日と同じように、新沼朝飛くんとお伺いする予定です。ご贔屓のほどよろしくお願いします」
「お! そっかー、いいね」
「どうも」
「勉強がんばれ!」
「ありがとうございます。頑張ります」
それからノート五冊束を十セット購入し、帰り道を歩いていると、ふと「たすけて」という声が聞こえたような気がした。
そして、思わず声のするほうに思わず身体が動いた。
十字路を北に曲がって、畑が見える。
交流センターのすぐ近くの田畑のなかにある小さな家で、その家のそばには何の変哲もない大きな車がある。
「たすけて」
また、声が聞こえる。
助けを求められたならば、何も言わずに救うもの。
これは、いつの間にか記憶していた「普通」である。
畑の中を踏みにじるように進む。
邪魔なノートを腋に捨てた。
畑のなかにあった、「哀しき死をむかえた子を偲び」という札のついた祠のようなものに躓いて、しめ縄がちぎれたが、それを気にしている余裕もない。
細枝で出来たような柵に躓いて転んだ。
「なんだ……!?」
猪地光輝が小太りの男に地面に組み伏せられている。
「なんだ、貴様ァ!!」
「俺は……」
光輝が彼を見つめていた。
細腕にアザがある……小指が折れ曲がっている……顔中血や泥まみれで、小汚く……そして、泣いている。
「俺は……」
「く、そ……死ね!」
小太りの男は彼の腹を蹴り、次に頭をボールのように蹴った。
「ああ……ああ……!」
「おい! おい! タカシ!! なんで見張ってねぇんだ、こんなのが来ないようにさァ!! 目撃者だよ、殺すんだよ!」
「えっ、えっ、マツモトさん……こ、殺すんですか!?」
「頭蹴り続けりゃ死ぬだろうが。そうでなくてもクルクルパーになる筈だ。わかったらさっさとやんだよ! 俺はこのガキで遊ぶから」
「ウ、ウウ……!!」
状況を理解する必要が、あった。
この二人組は誘拐かあるいは性暴力が目的で、タカシと呼ばれた方はあまり立場が強くなく、マツモトは知能指数は高くない。
マツモトは小児性愛の趣味がある異常性愛者。
おそらく誘拐犯だろう。
性暴力だとすると、家の隠れられるところでさっさと済ませてさっさと帰ったほうが身のためなのに、わざわざ人目につく場所でやるのは、誘拐が主目的だが頭がクルっちゃった証拠。
「小児性愛者は、気が狂っているから気持ちが悪くて同じ空気も吸いたくない」
「あ?」
「同じ言語を話しているのも不気味」
「お前、らんぼうけってー」
「ラーメン好きそう」
「おいタカシ、よく見張っとけよ」
マツモトが彼の頭を重点的に蹴りつけ始めた。
一時的に解放された光輝は恐ろしくて腰を抜かしていた。
こんなに殴られたのでは、きっと……死んでしまっている……。
光輝は泣きながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と言っていたが……泣き声や、鼻を啜る音が響くたびに痛みが消えていくのがわかった。
頭おかしくなってしまいそう。
どのくらいの長さ、蹴られていたのだろう……と過去を振り返ってみようと思うが、それもできそうにない。
突如、タカシが「ヒャッ」と言って双眼鏡を落とした。
彼がタカシを見上げると、一点を見つめて放心しているようだった。
双眼鏡を掴み、その方を向く。
畑の中で何かが蠢いている。
クネ……クネ……と、身体をよじらせて、踊るように……。
ばちん!




