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「あのこさ、変な奴らに親を殺されたって思ってんだね」
「親をですか」
「うん。ほんとうは交通事故なんだけど、現実逃避なのかな。だから、そういうヒーローを考えて、助けてくれるのを待ってる」
「なるほど」
彼は少年のほうを向いて、「とても優しい子供じゃないか」と小さく言い、向かっていった。
「思い内にあれば色外に現る……っていう言葉を、君は知るか」
「えっ」
「心の中で思っていることは顔や行動に出るんだ。君がヒーローを望むのは、きっと『助かりたい』っていうのもあるんだろうな。けれど、君の場合はなんだか違う気もする。おそらく、ビカットマンのおかげだろう。私には君のような、感受性がない。頭で生まれた感情をそのまま頭の中で分解して解釈して、理屈で理解しているからだ。君のその感情は、理屈では理解しきれない」
彼は言う。少年は、ただ俯くままだった。
「君は心が目に出るタイプだな」
隣に座って、太陽が遮られた。
「君は『自分を助けてほしい』ってのと同じくらい、他の誰かが自分と同じような不幸な気持ちを感じるのを、嫌がってる」
少年が顔を上げて、自分よりはるか大きい彼を見る。
彼もまた少年を見た。
二人の間に、ホースから垂れた水たまり……太陽の光が反射して、彼の瞳にきらりと、光。
「ビカットマンになってもいいかい」
抑揚のない声。
まばたきのない双眸。
感情のわからない顔。
まるで巨人のようなおおきな体躯。
少年は彼を見上げたまま、「わかんない」と返した。
その日は結局終わってしまった。
帰りがけになって、そのことを朝飛に言う。
柳原橋、二人の影が水面で揺れている。
「人の問題にあまり首を突っ込むべきではないけど……まぁ、それがお前なんだろうな……聞いたことあるな、たぶん猪地光輝くんだな」
「ほう。知るか」
「同じ地区だし……っていうか、ニュースにもなってたろ」
「テレビは下品だから普通の人間は見ない」
「そういう奴に限ってドラマとかは見てそう」
「…………」
図星。たまに見る。
「お前はその子、どうしたいの」
「俺にも親がいなかった時代がある。孤独は切ない。とても悲しいと思う。俺はあの子に『可哀想だ』と思った。出来ることなら救ってやりたいと思う。しかし、俺の身では救えるものなど無い」
「こういうときは普通、理屈じゃなくてどう思ったかを優先するんだよ。……じゃあ、俺ん家あっちだから、また明日な」
「ああ。また明日」
人を救いたいと思えるくらいの善良な心があり、やっぱりほんの少しは真面目なのかもしれなくて、子供に好かれる謎のオーラがある。
ただほんの少し人間から逸脱しているだけ?
「……その少しが致命的なんだな……」




