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ビカットマン  作者: 蟹谷梅次
2 変身
6/48

6

「あのこさ、変な奴らに親を殺されたって思ってんだね」

「親をですか」

「うん。ほんとうは交通事故なんだけど、現実逃避なのかな。だから、そういうヒーローを考えて、助けてくれるのを待ってる」

「なるほど」


 彼は少年のほうを向いて、「とても優しい子供じゃないか」と小さく言い、向かっていった。


「思い内にあれば色外に現る……っていう言葉を、君は知るか」

「えっ」

「心の中で思っていることは顔や行動に出るんだ。君がヒーローを望むのは、きっと『助かりたい』っていうのもあるんだろうな。けれど、君の場合はなんだか違う気もする。おそらく、ビカットマンのおかげだろう。私には君のような、感受性がない。頭で生まれた感情をそのまま頭の中で分解して解釈して、理屈で理解しているからだ。君のその感情は、理屈では理解しきれない」


 彼は言う。少年は、ただ俯くままだった。


「君は心が目に出るタイプだな」


 隣に座って、太陽が遮られた。


「君は『自分を助けてほしい』ってのと同じくらい、他の誰かが自分と同じような不幸な気持ちを感じるのを、嫌がってる」


 少年が顔を上げて、自分よりはるか大きい彼を見る。


 彼もまた少年を見た。


 二人の間に、ホースから垂れた水たまり……太陽の光が反射して、彼の瞳にきらりと、光。


「ビカットマンになってもいいかい」


 抑揚のない声。


 まばたきのない双眸。


 感情のわからない顔。


 まるで巨人のようなおおきな体躯。


 少年は彼を見上げたまま、「わかんない」と返した。


 その日は結局終わってしまった。


 帰りがけになって、そのことを朝飛に言う。


 柳原橋、二人の影が水面で揺れている。


「人の問題にあまり首を突っ込むべきではないけど……まぁ、それがお前なんだろうな……聞いたことあるな、たぶん猪地(いのち)光輝(こうき)くんだな」

「ほう。知るか」

「同じ地区だし……っていうか、ニュースにもなってたろ」

「テレビは下品だから普通の人間は見ない」

「そういう奴に限ってドラマとかは見てそう」

「…………」


 図星。たまに見る。


「お前はその子、どうしたいの」

「俺にも親がいなかった時代がある。孤独は切ない。とても悲しいと思う。俺はあの子に『可哀想だ』と思った。出来ることなら救ってやりたいと思う。しかし、俺の身では救えるものなど無い」

「こういうときは普通、理屈じゃなくてどう思ったかを優先するんだよ。……じゃあ、俺ん家あっちだから、また明日な」

「ああ。また明日」


 人を救いたいと思えるくらいの善良な心があり、やっぱりほんの少しは真面目なのかもしれなくて、子供に好かれる謎のオーラがある。


 ただほんの少し人間から逸脱しているだけ?


「……その少しが致命的なんだな……」

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