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ビカットマン  作者: 蟹谷梅児
22 序章
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88

 零から未来……。


 零から?


 なんで?


 思考の歪みを感じる。


 最近はうまく思考を処理できていなかった。


 そうする必要も、本来はないのかもしれない。


 そうしてしまったので、自分の心は弱く脆くなったのだから。


 諦めてはならないことを……再認識。


 人を救い、人々の営みを守る……笑顔を守りたい。みんなには幸せでいてほしい。


 その願いを実現するためには一体何が必要か?


 諦めない心。


 ではその心を手に入れるためには?


 …………わからない。


 どれだけ理屈で物を考えても、理解できない。心というのはどういうふうにして強くすればいいのだろう。


 わからない。


 理解しているつもりだ。力は自分の望みのためだけに使われるべきではないということを、理解しているつもりで、それを首にぶら下げたことなど一度もなかったつもりだ。


 けれど……いまになってようやく、何かが違う、とわかる。


 自分の持つ思考回路だとか、思想の根源に、なにかいらないものがある。それをまずすてなければならない。


 どうせ身体は再生期間。時間はある。


 自分の認識を改めるべきでは? ……そう考える。


 シンスケは自分を見つめ直した。


 クズ。情けない。弱い。優しくなくて。暴力漢。誰かに愛されたことなどなく、誰かを愛する資格もない。


 それがもしかしたら間違っているのかもしれない。いや、確実に間違っているのだろう。もし、間違っていなかったとしても、今この場においてシンスケはこう決める。


「自己を肯定しよう」と。


 〝私は優しい〟〝私は情けなくなんかない〟〝私はみんなに愛されている〟〝私はみんなを愛していい〟


 もしこの新認識こそ間違ったものだったとしても、「それは違うよ!」という言葉は今後一切無視することにしよう。


 自分はこの人生の主人公で。


 誰よりもかっこいい。


 正義のヒーロー。


 とにかく、とにかく、とにかく。


「──……私ってめっちゃかっこいいな……」

「寝起き一発目の言葉キモ……」


 シンスケの顔を覗き込んていた朝飛が言う。

 どうやらここには朝飛しかいないらしい。


「キモくない。どういう状況か……? シンジは何処か?」

「今出払ってるよ」


 そこはおそらく、新沼家なのだろう、と思う。懐かしい匂いを感知した。北上なのかなあ、とも思う。懐かしい空を視認した。


「何故ここに?」

「閃光児だよ。あいつが異態肝徒とかっていう人を呼んで運んでくれたんだ」

「異態肝徒……」


 あの女か、とわかる。


「そうか。ありがとう」

「やっぱりやっつけちゃうのか?」

「もうやったよ。少し前に。いまは何月何日?」

「八月十日」

「随分寝てたな……」

「いろんな医者とか、治癒霊術とかってのを持ってる祓い屋を呼んで、治すのにそのくらいかかったんだ。閃光児の神性があったおかげで散らばった脳みそは生きてたし、その他にも、いろいろ……」

「そうか。此処にいるのは君だけか?」

「そうだけど、それがどうかした?」


 シンスケは自分の頭を撫でた。髪の毛まで生え揃っている。


「寝てる間、自分の感情を分析して……解釈して、理解した」

「久しぶりの」

「それでようやく、私は私の本当の価値のようなものを理解したよ。私はとても優しくて、強くて、格好いいことが分かった」

「えらいナルシストになっちまったなあ」

「そうだよ私はナルシスト」


 そう言って、多少痛む身体を無理やり起こして、立ち上がる。


「ハッピーバースデー。誕生日プレゼントはこの私だ」


 しばらく沈黙があってから、朝飛は笑った。


「アハハ。アハハッ、なんだそりゃ。ハハ」


 笑って、笑って……朝飛も立ち上がる。


「立ったってことはもう出るんだろ」

「ああ。そうしたいな」

「オートバイクの整備もバッチリ」

「ありがとう。病み上がりのバースデープレゼントのために外出着の準備をしていただきたいな。山だからな、動きやすいようにジーンズパンツ、終わったらこのままツーリングとかいきたいからライダースジャケット。上下白で行こう」

「シャツは?」

「花火の柄がいい。絶対花火」

「なんぼしたって注文が多すぎる」

「あっ、そうだ」

「まだなにか?」

「終わったらみんなで飯とか食いに行こう」

「いいじゃん。今度は消えんなよ」

「消えんよ。消えてたまるか。私は君のものだぜ」

「ナンパ師」

「アッハッハ」

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