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屋敷を徹底的に潰すと、当主らしい老爺が現れる。どうやらその老爺は自分のことを強者だと認識しているらしい。
人間として最低限持つべき良識や常識を持たずしてなにが強者か。なにが人間か。なにが祓い屋か。
シワの影を見る度に、布が擦れる音を聞く度に、シンスケに怒りが蓄積していく。怒りで震えて涙が止まらない。
「お前が倒した中には、お前の信奉者もいたんだよ。『待ってくれ!』『話をしよう!』とか言ってた奴いたろ。あれがそうだよ」
「でも、異態家の人間だろ。異態の所業に対して何もせん奴が私を信奉していたところで、私を愛してくれる人が悲しむだけだ。汚れるだけだ。だったら、私は私のできる最大限の恩返しを、この拳として、出力する」
「男を女に変えた上でそれを言うのか? きもちわるいなお前。歳の割にこじらせすぎている。その上、異常性愛者ときた」
「ヒトの言葉を喋れるのがそんなに自慢か? 口数が多いな二本棒。いいから黙ってやりに来い。虫けら風情が」
「なめるなよ小僧」
「それしか言えんのか戯け者」
老爺が固有霊術の影響を始めようとすると、シンスケは瞬間的に移動して、口を光で焼き付けると、治癒霊術をかけて口を完全に塞いでみせた。
「…………」
これで終わりか……? 異態家は……?
「あ!」
底抜けに明るい声が響く。
「やっちゃったね、帰る家なくなったよ、君」
「あるさ。新沼家が」
ミコトである。ミコトは青い和装をしていた。すっかり赤く染まりきった白シャツを指さして、「それ洗わないと落ちないよ」と言う。
「ちょうど赤が着たかったんだ」
「いやあ、乾くと茶色になっちゃうよ?」
「捨てりゃあいい話だよ」
「今日、それを学んだのかな?」
「そうかもな」
「そっか。成長したね。初めて見たときは、拳振るう度に泣いてたのに……いや、今もそれは変わらずか。君を見ていると、昔の自分を見ている気分だよ。じゃあ、とりあえず第一回戦やっておこうか」
「そうだな、やろう」
拳と拳がぶつかり合った。しかし、力の差というのがありすぎる。ミコトの拳がシンスケの腕をつぶして消し飛ばした。
蹴飛ばされて、地面転がる。
頭を掴まれ、何度もなんども地面に叩きつけられ、脳が三割ほど溢れ出た。
「神戯閃光児は……君の側にいたいだろうから、そこは自由だよね。でも、さすがに異態肉彦としての魂はもらっていくよ。君の寿命とか半分になって四十半ばで死んじゃうかもだし、黒いビカットマンにはなれなくなるけど、まぁ許してよ」
弱肉強食だろ、とシンスケ。
弱肉強食だね、とミコト。
「うん、完全体になった気分は良いね。もしかしたら、君は弱くなっても僕を止めたいかも。だろ? 君はそういう奴だ。だから、ちゃんと日程決めよう。怪我を治してよ。その間は計画の方を進めていから。ちゃんと僕を殺さないとダメだよ。銀河落としは僕が死なないと止まらない。君も人殺しになろう! ……あっ、違うか。今はもう神様みたいなものだ。だって僕百パーセント異態肉彦だもん!」
意識が朦朧としていく。
ミコトが去ろうとするので、思わず足を掴む。
「どこまで耐えられるかチャレンジしようか」
玄関までは絶えたが、転がっていたガラス片が腕に突き刺さり、段差に引っかかり、手が離れてしまった。
「凄い食らいついてきたね。凄い覚悟だ。じゃあね、ビカットマン。羨ましい人生、短いけど楽しんでね」
「ころさない……」
「えー?」
「わ、た……わっ、わたしは……ひ、人は、殺さ、こ、ころ……さ、ころさ、ない……! お、おまえは……おまえ……お、お、おーっ、お……ま、おまえ……おまえは……」
脳みそが減りすぎた。
言葉がうまく紡げない。
「おまえは……ほうに、さ……。…………し、さ……さばかれるべきだ……お、おれはおま……おれ……おまえを…………たおして……つ、かまえる……それが……はらいや……はら……いーっ、いっ、いやの……ハァ……ハァ……ハァ……」
「がんばれがんばれ」
気絶。




