86
舐めやがって、と思った。
「よし、シンジ。相手がその気ならこっちもとことんやろう。多少の法律は犯してでも極限までやろう」
「もとからそのつもりだけど」
シンジは多少無茶をして、異態家の屋敷の場所を突き止める。
どうやら某県の奥地に隠れるようにしているらしい。
「よし、頑張るぞ」
異態家も異態家でいろいろな信者に囲まれてぬくぬくと過ごしているらしい。シンスケはバンテージを巻きつけながら「ルールを決めよう」と神戯閃光児に向かって言う。
『ルール?』
「そうだ」
『どんな感じの?』
「多少強けりゃ二発。弱けりゃ一発」
『いいね』
調べた所、異態家のなかにも「光派」というような、シンスケ側の人間もいるらしいが、「異態の分際で?」と思うので、そういうれんじゅうがいようと構わずに全員殴るし全員蹴る。
「よし、やろう。閃光児、マスク」
顔を隠すための変身。
どうせビカットマンが異態肉彦であることはもう既にバレている。変身をしたところで何も変わらない筈だ。
ピンポーン。
はーい。
殴る。
「やべェッ! 異態肉彦が来たぞ!」
殴る。殴る。殴る。殴る。蹴る。殴る。殴る。殴る。殴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。蹴る。殴る。殴る。蹴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。蹴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。殴る。殴る。殴る。殴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。蹴る。殴る。蹴る。殴る。殴る。殴る。殴る。殴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。殴る。蹴る。蹴る。蹴る。殴る。
ジャケットが邪魔なので脱ぎ、背後から襲いかかってきた異態の戦闘部隊の顔面をそれで叩く。両眼球が潰れ、脳が揺さぶられ、気絶。
目の前に立った異態の男は刀を持っていた。なにか恐ろしい気配を感じたので、それを振るわれる前に背後に回り後頭部を蹴りつける。男が痙攣した後動かなくなると、治癒霊術で蘇生し、次を見る。
女が現れれば両腕をつかみ、千切り落とし、傷口を治癒霊術で塞ぐ。これでつなぎ合わせることもできないな、と。
シンジが調べた所、異態家は平成に入ってからオカルト排除の流れが来てしまったらしく、あまり稼ぎがないので、児童買春婦女売買にも手を出していたらしい。誘拐した子供が使えなくなれば殺し捨てていたことも判明。ゆえに、謝っても許すつもりはないし間違えても手加減はしない。
「彼のところに帰りたい……」
頭の中に浮かぶのは、朝飛だった。
「がんばろう、閃光児」
龍が空から降り、屋敷を潰しながらシンスケを丸呑みにしてしまうが、シンスケは手のひらに光を溜め、龍の腹を焼いた。
「竜と契約しているのがいるな」
「そりゃ俺だ」
「そうか」
「敬語使えよ若造」
「虫けら敬う奴はいねぇよカス」
「生意気っ」
拳を振るう度に、「自分もこいつらと血の繋がった化け物なんだ」と理解してしまう。シャツに赤血が跳ねる度、自分の血も同じ色をしているのだと理解する。仮面があってよかった。
龍使いの振るう小刀が胸に刺さる。どうやらそれで油断したらしいその一瞬、頭を掴み、膝に叩きつける。
殴る……蹴る……殴って、殴って、蹴って蹴って……痛みが拳を伝って身体の中に響き渡る度に、それが自分の罪なのだと思い知る。
自分のことを「死ねばいい」と思う度に……自分のことを「化け物だ」と思う度に、頭の中に朝飛の顔が浮かんでくる。そして頭の中の彼はとても悲しい顔をしていた。
ふと、気付く。
「そういうことか……そういうことか……」
『やっと』
「早く帰ろう。早く終わらせよう」
『それがいいよ』




