85
青い和装がふわふわと、クラゲのように浮かび上がる。
「──と言っても、いきなりこんな事を言われても理解しづらいよね。まぁ、僕と君は魂的に見ても同じ存在なんだよね。でもまんま同じって訳じゃないよね。それだったら同時に存在できない訳だし。つまり、君のなかの異態肉彦としての魂が僕ってこと。なんて言えば簡単に伝わるのかなあ。よく分からないと思うけど、僕も異態肉彦だって事」
理解不能。
「簡単に言えば、君は本当は最初から尾島家の長男・尾島青空としてうまれる筈だったんだけど……ほらッ、尾島っていえば、異態隕獄の相方じゃない? で、『えー、尾島に息子できるのか〜』って思ったんだよね。さんざん異態家とか愛星友の邪魔ばかりしてきた尾島だぜ? 単純に幸せになってもらっちゃ困るよね。気持ち、分かるだろ?」
分かるわけがない。
シンスケに人の幸せを妬むほどの成熟した精神はなかった。
「だから君のお母さんのお腹を霊的に潰しちゃって、死んだ本来の尾島青空の魂と、僕の魂の半分を融合させて、君のお母さん……つまり、星野空良のお腹のなかの赤ちゃんに移し替えたってこと。その際、いらなくなった本来の赤ちゃんの魂は、僕がちゃんと使ったから安心して。異理箱っておぼえてる? あれにしたんだよね。寒河江ハヂメが祓った奴。君ってなかなかひどいことするよね」
怒りが上がっていく。
怒りのボルテージが上昇していくたびに、周囲の物が浮遊する。
「ここまで言えば、君の性格的に怒っちゃって、固有霊術が発現するかな。見て……ほら、姿見。分かる? カメラはね、僕の固有霊術で浮遊させてるの。ここまで言えばちゃんと分かるかな。異態肉彦は僕。異態肉彦は君。君は僕で僕は君。同じ魂を半分こしあった仲なんだよ。僕たちとっても仲良しさんだね!!」
お前は何者だ、お前は何様だ。そんな言葉が込み上がってくる。
「でね。本当はいろいろ言いたいことがあるんだけど、なんかもう面倒くさくなったから言わない。異態肉彦ってそもそもなんなのってところだけはちゃんと教えておかないといけないよね。あっ。そうだよね。うん、じゃあそこだけはちゃんとおしえてあげようかな。君もやっぱり気になるよね。夜も眠れないんじゃないの?」
ミコトが馬鹿にするように言ってきた。
三年前、悪夢を見てから一睡もしていない……というシンスケの事情を完全に把握している。意味がわからない。
「異態肉彦っていうのは、江戸の初期に実在した人だよ。異態家の成り立ちにも関わってくるよね。高俣家っていう祓い屋家系の末弟だったんだけど、ちょっと人を殺しすぎたんで、なんかお家を追い出されちゃったんだよね。で、地元にあった山に忌死山っていうクソみてぇな名前をつけて、そこで高俣家にギャフンと言わせるための兵器を作り始めた。それが邪視。邪視になりかけてる『名前をつけてはいけない怪異』には、君も会ったことがあるね。お試し体験版として送りつけたのに君自分で戦わないの意味わかんない。すぐに神様だよりってのはダメだよ。面白くない」
ミコトはずっと面白そうにニヤニヤしている。
「異態肉彦は邪視を作り上げると、異態家をつくったんだ。いろいろな事業に手を出して、昭和の頃には、高俣家を完全に操れるようになるんだがね、その頃にはもう悲しいことに本来の異態肉彦は死んじゃった訳だけど、その代の当主・異態龍星がちゃんとできる人だったのがいいよね」
まるで面白い話のように、つまらない話をしていく。
こういうところがシンスケにそっくりだと思う。
「でもいじめすぎちゃったのがあれだったのかも。高俣敏彦っていうのに仕えていた馬路森子が固有霊術を発現させちゃって、一瞬危うかったんだけど、すぐに持ち直して、馬路森子にたくさん子どもを産ませたんだね。で、何人目かなあ、何十人めかで、固有霊術を持つ『天獄』という子供が生まれた。まぁそれが僕なんだけど。殺された天獄は母から奪った固有霊術〈死捨〉で、再生して今の今まで生きてきたんだよね。で、いろいろなものを見たよ。もちろん戦争も経験した。木戸小夜子っていう愛する人も失った。樋村佳道っていう親友も、田村良治っていう相棒もね。僕にも歴史ありってね」
そう言ってミコトが笑う。
「で! 僕は思ったんだ。人間気持ち悪いから殺しちゃおっかな〜って。殺し合うばかりで気持ち悪い。で、過去の異態肉彦を参考にしていろいろやってみたんだよな。そしたら僕も異態肉彦になっちゃった。ので、いろいろやれることが増えていったんだ。僕も異態肉彦としての恒例行事的に、邪視を作ってみた。忌死山で。そしたらもともと大昔の異態肉彦がつくった邪視がいて、バトルになって面白かったこともあるよ。で、融合して、新しく神に近い邪視になった。邪視ってもともと神様なんだけど、まぁそこら辺は面倒くさいから良いか。で、神様が目の前にいたら割ることと言えば一つ。そう、融合だね。だから僕も君と同じ光の力を持つ変身態になれるんだよ」
こんなところまでおんなじなんだね、とミコトが笑う。
「飛騨峰志郎くんの家族殺したの僕だよー」
「は?」
「で、もう言うこともないから終わるね。ちなみに、今回一万人くらい殺したと思うんだけど、なんでかっていうと、なんか、なんかもう、君のお兄ちゃんに幹部殺されちゃってさあ。なんか、ふふ、面白くなっちゃってさあ。ってことだから、じゃあね。次のステージとか言ってるけど、要するに地球に銀河を落として天国・地獄・現世を融合させるだけだから気にしなくてもいいよ」
映像が終わる。




