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ビカットマン  作者: 蟹谷梅児
21 加速
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84

 五月十三日・金曜日。午前二時半。



 紺屋マンションの自室で改良版のイグナイターを作成していると、ドアチャイムが鳴ったので、出てみると、加賀美優心と新沼朝飛だった。


「どうして……?」

「お前の相棒から聞いた」

「あ、あのバカタレ……!!」

「いまなにしてた?」

「イグナイターをシンジ用に改良してたんだ。神性のろ過装置を取り付けるなど……あっ、勝手にあがらないで……」

「なんで?」

「散らかってるから……」

「恐ろしいほどモノがねぇじゃねぇかよ。っつーか夜中になにやってんだ。隣人に迷惑だとは思わねぇの?」

「ここ私以外住んでないから」

「キモいマンション」


 優心は、取り敢えず置いてみました、というような雑に部屋の真ん中に置いてあるソファに腰を下ろし、「ふぅー」と息をつく。


「今はどっちで呼べばいいのかね」

「え?」

「祓い屋としてか、人としてか」

「私は、私でしかない。滝シンスケだ。君の思うような」

「尾島ァ」

「人の話を聞かない……!?」


 しばらくの沈黙。


「お前の夢見てたから、お前がどう考えるのかっていうのとかは、なんとなくわかるし、お前なら間違いなくそうするだろうなっていうのも、少し考えればわかることだから、それに関しちゃ俺たち何も言わないけどさ」


 優心が口を開いた。


「帰ってきたら、ただいまの一つくらい言えよ」

「マジでな」

「…………君は幻滅しなかったのか、私のような情けないのに」

「お前がカス野郎だって言うの、割とずっと知ってたから。いまさら情けなくても別に何とも思わねぇよ」

「…………」

「ただいまは?」

「…………」


 言うまで待つぞ、という顔をしていた。


 シンスケは耐えられなくなって「ただいま」と弱々しく言った。


「でもお前も仕事柄『滝シンスケ』でなくちゃダメだもんな。そうだ、お前さあ、仕事中はグラサンかけろよ」

「意地悪だな……」

「むしろ優しさだろ、お前」


 善人。


「…………」


 その時、尋常維持局に配布される通信機がピーと鳴いたので、シンスケは大慌てで通信を入れた。


「シンスケ? シンスケ! まずいぜ、愛星友が信者非信者含めて一万人を殺害……んで、なんかよくわかんねぇけど、なんかやろうとしてる」

「……。わかった。わかっ、え? あっ、わかった。すぐ向かう」


 通信機を切ると、シンスケはサングラスをかけた。

 すぐにクローゼットのなかに雑にかけられていた青いジャケットを見もせずに掴んで、外に飛び出した。


「滝」

「なに」

「ファイト」

「ああ」


 愛星友対策本部に向かうと、先に到着していたシンジが紙の束を投げるので、それを受け取る。


「れんじゅうはとうとうなにをした」

「まず、信者三千人の集団自殺。全員律儀に遺書が書かれていて、『地球を次のステージに進める』というような文言が確認された。そして次に、岩手県内各地で七千人の非信者の殺害行為。トカゲの尻尾切り的に逮捕した禿頭信者曰く、『さらなる高みへ』……と」

「要するに、バカが発作的に正体現したってことか? なぜ今? 予兆も何もなかったんだろう」


 たぶん、気まぐれ的に。


 その一言が出ると、シンスケは怒り心頭に発する。気まぐれで一万人も人を殺すのか、と。


「失礼します!」


 警官が入ってきて、ビデオテープを掲げてきた。

 どうやらそれは、愛星友が送ってきたものらしい。


 モニターとビデオデッキをすぐに用意して、その映像を再生すると、そこには青い和装のミコトが立っている。


「わわわ。久しぶりに触ったので、これで会ってるかわからないね。えーっと、やあ! こんな感じでいいのかな? よくないかもね。まず、僕が把握している君についてのことを、ちゃんと開示しておかないと君が僕のことを理解していないといけないものね」


 ミコトは笑って言う。


「僕は、君だ」

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