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黒いスーツの女・異態肝徒は、盛岡市の駅から徒歩で十二分ほどのところにある完全会員制のバー〈カンムラサキ〉に赴くと、そこにいたマスター・大仁田に銃弾の一つを渡すと、大仁田は頷いて、「どうぞ」と言い、バックバーに置いてあるオレンジの置物をぐるりと回す。
すると、カウンターの一つが動くようになり、肝徒はそのカウンターを蹴るように動かして、下に続く階段をあらわにしてみせた。
そこは肝徒が所有する「隠れ家」の一つで、そこにはいろいろな銃火器やマシンが保管してある。
「肉彦! 異態肉彦ね、盛岡来たよ!」
「え〜じゃあ、おフランスから帰ってきたんですね。どうするんですか、会いに行ったりするんですか?」
そう言うのは、肝徒の部下である静寂園だ。園は異態家に代々仕えてきた静寂家の跡取りであったが、肝徒が「光派」になってからは、静寂家からも離れ、肝徒に仕えている。
「いや、まだかなあ」
「何故です?」
「肉彦はまだ従姉妹が私みたいにマジエロだって知らないだろうし、もし知っちゃったら『異態家にもまだいい人はいるのかもしれない』って思っちゃって、自分がぶれちゃうかもしれないでしょ」
「肝徒さん良い人でしょ」
「私は醜いおばけだよ」
「まったそんな事言っちゃって。そんな事ばかり言ってるとガチモテませんよ。現代人は陰キャ嫌いなんですよ」
「どうして追い打ちをかけるんだい?」
光派、というものが生まれたのは、異態隕獄の息子・異態肉彦=尾島青空の家族が木戸寛治に殺された平成二十五年の夏ごろだった。
異態家を含む異態グループ内で「それは普通にやりすぎだろ」「やりすぎじゃない?」「さすがにやっちゃダメだろそれは」という複数人が、「これ普通にウチがダメなんじゃない?」と思い徒党を組んだのが光派である。
光派の何人かは、もともと異態グループや愛星友のやり方に不満をおぼえていたれんじゅうで異態肉彦を口実にしたいだけようだが、これは新しい流れであるらしい。
「でもあんまり自虐してたら普通に異態の人間としてぶっ殺されるかもしれませんよ。肝徒さんもご覧になったでしょ、怒っているときの彼は平和主義者から遥かに逸脱する。身体能力だけで言えば、たぶんあなたよりちょっと強いかもしれない。おまけに彼には『異態肉彦』という神性もある」
その指摘はもっともだった。
「たぶんあの人、敵の言うことは聞かないですし」
「異態らしいといえば異態らしいけれど……」
「じゃあ、せめて味方だって把握してもらうために愛星友に攻撃とか仕掛けたほうがいいかもなあ。私も……」
「できるんですか? 肝徒さん、肉彦みたいに暴力に何も感じないってわけじゃないんでしょ。むしろその逆でしょ」
「できるよ。私強いもの」




