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ビカットマン  作者: 蟹谷梅児
17 臨戦
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 二〇一六年・四月九日・土曜日。

 岩手県北上市。



 友人。


 そういう言葉を聞くと、胸がざわざわとする。まるで、近くでライターでも灯されているような感覚が、襲ってくる。 


 恋愛。


 そういう言葉を聞くと、胸になにか嫌な返しがついた針でも刺さったような、痛みが発生して、苦しくなる。


 友人が消えた。


 高校二年生の頃に消えてしまった彼は、新沼朝飛にとって彼は、「世界で誰よりも格好いい人」だった。


 誰かの笑顔を守りたい……誰かの幸せを守りたい……そういう優しさがつねに頭の中にある人で、誰かを助けたいと思うとそれに一直線。


 けれど、その人はおそらく誰よりも心が弱い人で、朝飛が知るなかでも何度も何度も心が砕けて、それでも、心が折れてしまっていても構わずに立ち上がってしまう人。


 彼は、ぼろぼろになりながら愛星友の幹部を倒したらしい。みんなはそれを称賛していたし、朝飛も一度はそれを喜んだ。けれど、思い返してみれば……人を殴るのがめっぽう嫌な彼は、どんな顔をしていたのだろうと思い……悲しくなる。


「それじゃあ、空明の大学進学を祝しまして、かんぱーい」


 この日は、尾田空明という贔屓にしていた後輩が無事自分たちと同じ岩鷲(がんじゅ)大学に進学してきたというのを祝って、というか、それを口実にして、岩手県内のキャンプ場でバーベキューをしていた。


 空明は人当たりの柔らかいオタクだったので、朝飛の家族にも大変好かれ、このバーベキューを提案したのは朝飛の姉だった。


 ここ数年なんだか陰鬱な雰囲気だったから、それを吹き飛ばしたかったというのもあるのだろう。


「彼」が自分たちの前から消えたから。いま、彼は生きているのだろうか。死んでいてもおかしくはない。木戸寛治という男は、彼の家族の仇だったらしいし、その復讐を果たせば、もう……。


 朝飛はそこまで考えてしまってから、頭を振るった。


 バーベキューは昼間から始まって、夜まで続いた。日が落ちるころになると、酒を飲める奴らは酔っ払っていて、朝飛もピーマンを口に咥えたまま空を眺めていた。


 今ごろ彼は何をしているんだろうか、と考えてみる。


 もし生きていてくれたら、の話。


 彼は顔と性格がいいし、体格もいいから、いろいろな人から好かれるだろうな……。彼女なんかもできていたりするんだろうか。


 コンビニのグラビアを見ていたところから推理するに、彼は金髪の巨乳が好きなのだろうし。彼女がいたとしたら、そういう女性と付き合っていたりするんだろうな、とわかる。


 正直、彼のそういうスペックの良さは憧れてしまう。いろいろな恋ができるのだろう。対して自分はなぜか恋の一つもできやしない。


 …………。


 くだらん。


 朝飛は気を紛らわせるために烏龍茶を飲もうと姿勢を正した。その瞬間だった。何か嫌な気配が、朝飛の心臓を貫いた。


 その感覚はすぐそばで花火の準備をしていた加賀美優心という友人や、空明も感じ取っていたらしく、三人は顔を見合わせた。


 これまでも怪異が出現した際……このような気配はあったが、この数年で一番大きい気配だった。


「母さん、父さん、なにか危ない気配がするからいつでも帰れるようにしよう。たぶん、怪異だ」

「むっ……そりゃあ……愛星友か?」

「んん……わかんないけど……なんだかデカい気配だった」

「よし、じゃあそろそろ畳むか」

「ごめんね」

「何を言うか」


 帰宅の準備を始めていると、木々の間から「ヒョコロ〜〜〜〜」という老爺の声が聞こえてきた。


 そこにいた全員が身体を硬直させる。


「ヒョコロ〜〜〜〜」


 老爺の声はまた別のところから聞こえた。


「ヒョコロ〜〜〜〜」

そろそろ異態家を出したいね

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