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二十五日・水曜日になると、尋常維持局にはいるための訓練に混ぜてもらえることになり、ふたりは身体を強化するためのトレーニングを開始させた。たいていの場合、それなりの才能があろうと音を上げてしまってろくに訓練もできなくなってしまうらしいが、ふたりは初日からほかの訓練生たちについていくほどだったので、すっかりその場に馴染んでいた。
訓練が終わり自由時間になると、シンスケは支給された訓練生用の拳銃の手入れをしていたが、そこに嫌味な女が現れた。女の名前はマカリア・リマというが、マカリアはいきなり現れて自分より成績の良いシンスケや裏でクソを食っていると噂のシンジが憎いらしい。
「あなた、なにかズルをしているに違いないわ」
「ズルだって? 私が、どんなズルをしたっていうんだい」
「身体強化の霊術を使ったり、たとえば、記録をごまかしたり」
「君ね」
「なによ」
拳銃を懐にしまって、マカリアに微笑みかける。
「君は少し早とちりをするらしいな。思い返してみなさい。あの訓練場には教官が四人いたんだ。それだけじゃなく、尋常維持局の祓い屋だって何人か来ていたろ、私たちが新しく入ったと言うんで。となると、私たちがズルをすればわかるし、そもそも私にズルだなんてものは必要ないじゃないな」
「なんで」
「だって私強いもの。ハハハハハハ」
マカリアはその高笑いが気に食わなくて、ロッカーの上の埃を被り置いてけぼりになったペンケースを、そっぽを向いて歩き出したシンスケの頭をめがけて投げつけた。
シンスケは、それを見もせずに受け止めて見せて、「使わせてもらうよ」と言い、その場をあとにした。
「腹立つ〜〜あのカス〜〜!!」
「おやめなさいよ……新入りに絡みに行くの……」
ご立腹のマカリアにそう言うのは、マカリアの親友であるテレサ・ヘイである。テレサは落ち着きのないマカリアとかわってたいへん落ち着いた少女だった。
テレサは煙草を口にくわえながら、「あれには私たち敵わないよ」と言ってみせた。それが気に食わないので、マカリアは「どうして」と食って掛かる。
「どうしてそんなこと、わかるの」
「あいつがここに来る前……つまり、日本でね。何をしていたかっていうのを、ギャバンさんに聞けちゃったの。何してたと思う」
「知らないわよ、そんなの」
「簡単に言えば実戦。あの男、私たちじゃ考えられないような怪異と何度も戦って、ほとんどが圧勝……。ほら『愛星友』っているでしょ。その幹部を一人で倒したのもあの男らしいよ」
「なっ……」
マカリアやテレサをはじめとした候補生はまだ怪異との戦いを経ていない。生得怪異の召喚ができるようになってはいるものの、それはあくまで「できる」だけで、「戦いに使える」ようなものではない。
「じゃあなんであいつ、ここにいるのよ!」
「本人に聞いてみれば?」
聞いてみた!
「なんであなた、ここにいるのよ」
「時間潰し。と、いえば君は怒るかい?」
「ええ、怒るわ」
「じゃあやめよう。そうだな、副次的な目的としては、辺見シンジが『成る』のを待っている。じつは彼は私とは違って戦ったことなどないのだけれどね、私について回ると言うから、せめて死なないくらいに強くなってもらいたいと思ったんだ」
「…………」
「疑わしければ、彼にも聞くかい?」
「…………そんなに強いのに、なんで人といたがるの。私が知ってる、『強い人』は一人でいるのを嫌ったわ。弱いのと群れるのは嫌だって言ってた。ねえ、何故?」
「一人でいるのは、私が堪えられないからだね。つよいのは身体だけなんだ。私は……家族が死のうってときに、なにもしないで突っ立ってた男だから。……けどいいかい、マカリア・リマくん」
「なによ」
「私は生まれたときから力を持っていた勝ち組だから、こういうことを言えるんだけれど……君は、いずれ手が付けられない位に強くなるね」
「意味わかんないこと言わないでよ」
「ハハハ」
シンスケの高笑いが鼻につく。




