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ビカットマン  作者: 蟹谷梅児
16 仏国
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 ISPO総帥リスベット・ベールという女性は、ふたりを迎え入れると、「ここは国際刑事警察機構のような真面目なところではないので、スーツとかぶっちゃけ着んくていい」とクソみてぇな日本語で伝えた。


「でもかっけーし働いてる感あるからスーツ着たいっす」

「わかる〜」

「なんだか不安になってきたな……」


 彼は二人の様子を見て、岩手を出たことを少し後悔し始めた。しかし、尋常維持局に入社することになれば結局岩手に帰るので、しばしの我慢。


「そうだ、ふたりとも。われわれは基本的に嘘の名前で活動するからマジ考えといてね」

「えっ、偽名をですか」

「尋常維持局に行くんなら尚更ね。シャルル・ギャバンも偽名。アズナヴールをジャンに取られたからシャルル・ギャバンにしたらしいよ」

「なるほど。……日本人らしい名前にしようか」

「それがいいね」


 伝えたかったのはこれだけなそうで、解放されたふたりは寮の方に案内され、照太郎がヴィシーの鉄火場に飛び出していったのをいいことに、彼はひとり考え事をしていた。


 フランスに来たのは、尋常維持局に入るというのもあるが、一番は「岩手に愛星友をおびき寄せる」ということのため。


 今のところ脅威になりえるビカットマンが不在となれば、どうせ頭の悪い愛星友のれんじゅうはこれを好機と見て岩手に住み着くだろう、と考えたのだ。


 三年くらい空けていれば大丈夫だろう、と踏み、フランスにやってきた。もしなにかあっても東京にいる寒河江ハヂメや飛騨峰志郎なんかがどうにかしてくれるはずだ。


 しかし……問題はそこではない。彼は、新沼朝飛と加賀美優心の二人の声を思い出せなくなってきていたのだ。


 もともとあまり会話をするほうでもないし、あのふたりも彼がそういう性格をしているのもあって、用事がなければただ静かに隣にいてくれるような優しい人たちだった。


 そういう所に惚れたのもあるが、いまはそれがかえってあだになっていた。どこかで出来たら声とか聞けたらいいな、と思いつつ……寮のふかふかベッドに腰をおろした。


「ただいまー」

「おかえり。勝ったかい」

「負けだよ。やっぱルーレットなんてつまんねーのな」

「ルーレットなんてナヨナヨしいの博奕じゃないさ。男なら正々堂々カードやんなよ。ゲンメツしたね、君のことね」

「俺達法律の下で働くのにこんなんでいいのか?」

「知らんよ。君、名前考えたかい?」

「いやぜんぜん。お前は?」

「ぜんぜん」

「考えんべ」

「んだね」


 たとえば、かっこういい名前にしたとして。絶対に偽名だとわかってしまうのは悔しい。寒河江ハヂメだとか、飛騨峰志郎だとか、そういうかっこういい名前に憧れがある彼にとって見れば、それはまたとないチャンス。さりげなく格好良くなろう。


 ということで考えた偽名がこう。


 尾島青空  → 滝シンスケ

 林田照太郎 → 辺見シンジ


「うーん、なんとなく格好良さがわかる。いいお名前」

「今日から私は滝シンスケだ」

「どうせならキャラ変せん?」

「面倒くさいから嫌だ」

「ちぇっ。俺めっちゃクールなキャラやりてぇのに」

「やればいいじゃない。一人でご勝手に」

「つれないな」

「小便なら一緒に行ってやるよ」


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