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ビカットマン  作者: 蟹谷梅児
16 仏国
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 十二月二十四日、火曜日。

 岩手県警、愛星友対策本部。


「──えっ、フランスに?」

「ああ。行こうと思う。岩手には飛騨峰さんもいるし、何かあれば寒河江ハジメさんのようなのも呼び出せるので、幹部一人失った愛星友はしばらくは活動もできないだろうし、余裕があるので、フランスへ行こうと思う」

「俺が紹介状を書いたんだ。優秀な祓い屋になれるだろう奴を紹介するので、よろしくお願いします──とね」

「じゃあ、尋常維持局に?」

「そうしようと思います」

「なるほどなあ。まぁ、君はそういう奴だからな」


 盛岡もすっかりクリスマスの空気感が漂っており、あちらこちらでアベックの甘々としたムードが立ち上っている。


「一人で大丈夫かい?」

「ハハ。まぁ、大丈夫じゃあなさそうなので、信頼のできる男を連れていきますよ。林田照太郎というんですがね、優しい男ですよ」

「あの二人では、なにがいけなかったんだ」


 智和のその質問に、しばらくの間が空いた。


「林田照太郎の祖父は、愛星友の信者だった。つまり、規制ということになる。対して君の言うその『ふたり』はもともと愛星友とは何の関係もない一般人だ。『巻き込んでいい人間』と『そうでない人間』がいることを、分かんなさいよ」


 彼は黒く戻した頭髪を軽く撫でながら、微笑のなかでそう言った。


「君はあまり人がわからないんだな」

「なにか?」

「いや、もういい」

「では、もう行くよ」

「彼らに挨拶はしないんだな」

「そろそろ空港に行かないと、林田照太郎が怒る。奴は時間に対して非常に厳しい性質を持つ」


 殴られたくはないのでね、と彼は笑いながら出ていってしまった。


「いや、待たせたね」

「ほんとうだよ、おまえ。ちゃんとしろ」

「ハハハ」

「何笑ってんだよオイ」

「ハハハ」


 尻を蹴られ、「いてっ」と泣く。


 ふたりはそのまま挨拶も面倒なので省略し、フランスへと旅立った。彼らのこのフットワークの軽さは彼らの性格によるものが大きいだろう。照太郎はもともとそういう人間だったとして、尾島青空になると、もともとあった性格がボキボキに折られ照太郎と同じような軽薄になってしまっていた。


「来たぜフランス!」

「恥ずかしいのであまりはしゃぎすぎないでほしいがね。君が跳びはねるたびにEUは日本を警戒すると考えなさい」

「マジか、めっちゃ飛び跳ねよ」

「日本は嫌いか?」

「成人が二十歳からだからきら〜い」

「不良少年め」


 彼は笑いながら懐から地図を取り出した。


「んで、ISPOの本部はどこ?」

「ヴィシー」

「どこだよ」

「えぇ……んん、まあ私についてきなさい」

「おまえフランス語できる?」

「できない理由が無いだろ。跳びはねるのをやめなさい」


 ヴィシーにも空港あるくない? と思ったが、今さら遅いので彼は照太郎にそれを悟られないように移動を開始した。


 それからなんやかんやとやって五時間のち──


「たぶんここだろ」

「なんでこんな遅れたんだよ」

「君が腹壊すから」


 照太郎が今朝食ったおにぎりが悪さをしたらしい。


 しかし着いたのだからいいじゃないか、ということで、ふたりはISPOの門をくぐった。


 随分と立派な建物にはいると、入り口のそばに男が立っている。


「《やあ、待っていたよ。君が尾島青空と林田照太郎だね》」

「《ええ。ですが、異態肉彦と呼んでいただきたい》」

「《了解した》」

「えっ、わかんないわかんない。フランス語わかんない。おまえらいったい何をお話ししてらっしゃるのん?」

「ただの自己紹介だよ」

「《ふたりとも、ついてきなさい》」

「《了解》」


 男の名前はシャルル・ギャバンというらしい。


「《ちなみにこの林田照太郎という男は、うんこをする際に飛び跳ねる癖があるので、毎日母親に怒られている》」

「《ハハハハハハハハハハハハ!!》」

「えっ、こわい。なんで急に笑ってんの。お前なんか変なこと言ったか?」

「面白いギャグをちょいとね」

「お前俺の名前出したよな?」

「空耳だよ」

「たぶんうんこっつったよな?」

「勘違いじゃないか? 君フランス語わかんないだろ」

「お前の悪事暴いてやる……!」

「《ちなみに彼はうんこを食う癖がある》」

「《ハハハハハハハハハハハハ!!》」

「お前またうんこっつったろ!! 笑かすなやうんこで人を!」

「うるさいぜ、あまり大きい声を出しなさんな」

「純粋にカス〜〜〜〜〜!!」


 純粋にカス。

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