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拳。振るう。血肉がはじけて、雨粒が赤く染まり、跳んで行く。
ビカットマンは逃げようとする木戸の首を掴み、殴りつけた。
身を捩る木戸の顔面を殴りつけて黙らせると、何度も殴りつけた。
元気がなくなったところで、直感的に習得した治癒霊術で傷などをすべて回復させるが、それがビカットマンからの温情でないことを察した木戸は、泣きながらなんとかして退こうとするが、胸を踏み付けるように蹴りつけられ、地面に倒れ伏した。
「ご、ごめ……」
ビカットマンは木戸の顔面を何度も踏みつけた。
木戸が痙攣して動かなくなると、心臓のあたりを強く踏みつけながら治癒霊術を施し、蘇生させ、頭部の強化皮膚と生体装甲を無理やり引き剥がす。
顔面の肉が強化皮膚にくっついていたので、生丸ところの肉がちぎれてえぐれている。
それを何度も何度も殴りつける。
ビカットマンの拳に木戸の血肉がつくと、気が狂ってしまった木戸の脳みそを揺さぶりながら治癒霊術を施し、正気に戻した。
気を狂わせることなど許さない。
何度も、何度も、泣いて許しを請う木戸を殴りつけて、気を狂わせる木戸を正気に戻して、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ、何度も殴りつけ。
木戸は地獄を味わった。このまま死んだとしても、きっと蘇生され、変わらない地獄を味わい続ける。
どうしてこんなことになってしまったのだろう。
木戸は過去を思い浮かべた。
昔の自分は……どんな人間だったのかも思い出せないくらい、昔の自分は……自分が世界の中心だった。
昔たすけた少女が、自分を慕ってくれるのが嬉しかった。
いろいろなところへボランティアに行ったし、困ってる人がいたら、ためらいなく助けてやれるような人間だった。
いつ変わった? どこで変わった?
いつから平気で人を殺せるようになってしまった……?
いつから平気で……。
「オ、ギャ、ア!」
顔面にビカットマンの拳が入る。
ビカットマンの「絶対に逃さない」という怒りの拳が、木戸の顔面に何度も叩きつけられる。
痛みも熱もなくなっていき、「つめたい」という感覚だけが宿り始めたところで、全身の傷がなおっていく。
ビカットマンの垂れ目のような複眼から水があふれ出している。口部シャッターの隙間から水があふれ出している。背を伝った雨粒が……彼の怒りを冷ましていく。
ビカットマンはとうとう殴るのをやめた。
戦闘開始から二時間が経った頃のことだった。
ビカットマンの肉体が、尾島青空のものに戻っていく。
「ハァ──ハァ──ハァ──ハァ──……」
「尾島、もう良いのか」
「……ああ……」
「……殺さないんだな」
「殺さない。殺したって……殺したって、こいつに殺された命が返ってくるわけじゃない……こんなに、こんなに死んでほしいって思ってるのに、こいつは……法に裁かれなきゃ死にもしない……!! そ、それでいい! それで!! でも、でもさ、頼むよ、おねがいだから……木戸……!! おまえ……頼むから本当に死んでくれ……!!」
彼はそう言って、その場に蹲った。




