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ビカットマン  作者: 蟹谷梅児
15 変身
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 次の瞬間、彼の身体が燃え上がった。


 照太郎が慌てて「尾島!」と小さく叫び、飲みかけのペットボトルの水を浴びせかける。しかし、炎は消えない。


 それも構わず、彼は脚を上げると戸を蹴破った。


 そこには白いスーツの男が立っている。隣には赤い和装の少年もいる。木戸寛治とその側近だということは、すぐにわかった。


「やっときたか! 異態肉彦くん! ずっと待っていたんだよ、ずーっとね、なんで来てくれないの! 私待ちくたびれちゃったよ! あれ、なんで燃えてんの。もしかして熱血漢だったりしちゃうかい?」


 彼は何も答えずに、ハァと息をつく。途端に「ビカン!」という閃光が走り、赤いビカットマンが姿を現す。ビカットマンは炎を吸収し、消火してしまうと、木戸に近づいていく。


「何かを言いなさいよ」


 木戸の顔面を殴りつけた。


 吹っ飛んだ木戸を睨みつけ……少年の方には一瞥もくれずに一歩一歩、ギチギチと生体装甲の擦れる音を滲ませながら、寄っていく。


「尾島」

「君、あれらは炎だ。安易に近づきすぎるとやけどをしてしまうので、おとなしく下がっていなさい」

「…………」


 木戸は起き上がると、両手を組んで内向きの河童を作ってみせると、召喚霊術でティラノサウルスのような恐竜を召喚してみせた。


 ビカットマンはその恐竜を燃やすこともなく殴り殺すと、木戸との距離をゆっくりと、ゆっくりと縮めていく。


「わ、わたしの生得怪異を……! き、きさま!」


 顔面を殴りつける。


 倒れたところで、腹を蹴り、だんご虫のように丸まったところを持ち上げて、腐った木の壁に投げつけ、地面に落ちきる前に蹴りを叩き込む。


 木戸は外に飛ばされた。


「グエッ、ゲーッ、ゲッ、ウ、ウウ!?」


 ビカットマンは何も言わずに、また、一歩一歩……近づいていき、木戸は今度は、後天的に契約した、人頭がだんごのように連なった蛇のような怪異を召喚してみせた。


 それもあっけなく殴り殺されてしまう。


「なんで……」


 顔面を蹴りつける。


 ビカットマンは何も言わずに……ただ、目の前のこの男をどうにかしてしまわないと、世界のほうがどうにかなってしまう……ということを考え、理屈としてこの男に対する「処分」を決定させていた。


 ただ、その怒りの矛先に。


「私は強いはずだろう……!? ミコト……!!」

「ええ、あなたは強いですよ。先生。きっと凡人の中ではね」

「う、うう……!!」


 木戸はティラノサウルスの怪異に手を伸ばし、同化を試みた。


 死にかけの命と死んで消えかけの怪異──おまけに目の前には、神性を持った邪悪な存在がある。その神性を借りて、木戸はついにその怪獣と同化してしまった。


 木戸の肉体が炎に転換されていき、赤い怪人になった。


「炎と……炎だ!! 私と貴様のどちらが優れているかは、この際もうどうだっていいはずだ! 貴様は私を殺したくて……私は貴様を殺したい! ただそれだけ! なら、もうやることは決まっているはずだ! そうだろう……!? そうだろう!! 異態肉彦!!」


 ビカットマンは何も答えない。ただ、その拳に力を込め、木戸を殴りつけるだけである。木戸は転がりながら、笑い出した。


「その怒りは殺意だ! 貴様は知るかな……!? 貴様の両親を殺したのは私だ! 貴様の妹を殺したのは私だ! 父親は最後まで君を含めた『家族』のことを心配していたし、母親は最後まで『二人の我が子』を心配して、ずっと、ず〜〜っと、名前を叫んでいたよ! ナナ! ナナ! ショーク! ショーク! いや実際殺したのは私だけどぶっちゃけ可哀想で、心が痛かったよ」


 ビカットマンは何も言わずに、立ち止まり、木の枝を掴むと、それは炎の剣になった。


「君、夢の中で妹の名前間違ってたぞ」


 その剣を、木戸の顔面に突き刺した。そして、胸ぐらをつかみ何度も何度も殴りつける。


 木戸は血反吐を吐きながら、ビカットマンの腕を掴んで見せて、燃やし始めた。いくら神と同化して怪人態になっていようと、生き物であるうちは血も沸騰するだろう。ただ、そのためのハードルがきわめて高くなっているだけで、そのハードルをぶち破れるほどの高熱を出せば、ビカットマンの動きは、止まる!!


 その狙い通り蹲ったビカットマンを、木戸は蹴飛ばした。


「作戦、大成功! フォーーー!! こんなに興奮するゲームもなかなかない! 異態肉彦くん、私はねぇ、君のような『最初から力を持って生まれた存在』というのが、実のところ大嫌いなんだよ!! たとえば固有霊術だったか!? 天才にしか発現しない特別な霊術だそうじゃないか、羨ましい! それに、霊能異理! 天才の所業だというじゃないか! 羨ましいい!! だから、それを超えるのは私にとってはセックス以上の快感だ!! 私は今、とても気持ちいいよ!」


 木戸は笑いながら、歌い始めた。その歌はとても耳障りで、ビカットマンは内部破壊を再生させながら、立ち上がる。


「まだ立つんだ、結構かっこいいね。やっぱりヒーロー扱いされると立ち上がりたくなっちゃうんだろうけど、ぶっちゃけ言って君って英雄症候群だから論外だし気持ち悪いんだよね。ノーセンキュー!」


 木戸はビカットマンの顔面を高熱の炎をまとった拳で殴りつけた。その火の粉が林に燃え移り、火の手が……!!


「あああ! あああ! たすけて! たすけてショーク! ショーク! たすけて~!! あついよー! あついよ、あついよショーク! お兄ちゃん! おにいちゃあーーん! ワハハ。面白いよね、君のお母さんと妹の叫び声。金切り声って、ああいうのを言うんだろうね、耳を塞ぎたくなったよ、その点君はいいよね。耳を塞がないで、最後まで家族の断末魔を聞き続けたんだから。なあなあ! なんで君、ずっと黙っているんだい!? もしかして、もう喋る体力もないんじゃないか!? そりゃあそうだよな! 闇の性質を持つ君が、光の性質を持つ神性を纏い続けるのは、お命に関わるものなァ! いいか、才能ヒーロー・ビカットマン! ストリートファイトならまだしも、霊能の世界で戦うってのはだなァ! 玄人に殺されるってことよ! 君はつくづくかわいそうな男だよ!!」


 火が燃え上がっている! これは、大火事になる! 照太郎はハンカチで口元を押さえながら、「尾島! 消防車呼ぶけどいいよな!?」と叫ぶが、ビカットマンはそれを聞いていない。


「答えてやりなよ」


 そして、木戸は何度も何度もビカットマンを殴り、蹴り、突き飛ばす。ビカットマンは地面を転がりながら、木々がパキパキと燃えていく音を聞いて、ようやく身体が高熱に慣れた。


 ビカットマンが再度立ち上がった所に、木戸の蹴りが突き進んでくるが、ビカットマンはそれを掴んだ。


「なにっ!?」

「変──」


 体色が、ジワジワと変わっていく。赤から、黒に──なっていく! 強化皮膚も、生体装甲も、赤かった複眼さえも黒く染まっていく。


「──身」

「まだのこってたんだ、変身」


 雨が降った。

 林の上に、局所的に雨雲が形成され、雨が降った。


 豪雨である。息もできないほどの豪雨の中、木戸は目の前の黒ずくめのビカットマンに本能的な恐怖を覚えた。


 神性が、神性が!


「ミコト……たすけ……」


 いない。ミコトはすでにそこから姿を消していた。照太郎は濡れた前髪を掻き分けて、溺れているように息を吸いながら、ザアザアという轟音に支配された世界で、「尾島!」と叫び続けた。


 ビカットマンは木戸の顔面をつかむと、地面にたたきつけた。


「何で!? 光の戦士のくせに……光がないと力も出せないような、神様もどきのくせに! なんで雨雲で太陽を隠した、その下で、なんか、もう、なんで、わかんない、来るな、来るな!」


 異態肉彦としての神性と神戯閃光児の神性が再解釈と再融合を果たし、尾島青空が本能的にセーブしていた「水」の力をビカットマンの力としてアウトプットしている姿が、いまの黒のビカットマンである。


 彼の中にある怒りが、理屈としてアウトプットされている。

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