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「君は、祖父がカルトの信者だったこと、どう思うかい?」
「どう? なんだよ、それ」
「世間的に、そういうのはあまり歓迎されないだろう」
「俺自身あまり歓迎されてねーもん。別に変わんねーわ」
未成年喫煙だろうか、照太郎は煙草を一本懐から出しながら、彼の言うことに答えてくれた。
寒い風に染めた金髪が揺らいていた。
「それに、家族だもの」
「…………」
彼はその横顔をしばし見つめてから「そうだね」と目を逸らした。
「お前はどうなんだよ」
「私がどうかしたか?」
「カルトの神様なんだろ」
「私はそれを良しとは思えないし、思うだけでなく、行動もする」
「なんで? 神様ならふんぞり返ってるだけでいいじゃんな」
「良くないよ」
「あ?」
「人を傷つけるの、良くない。私は拳を握るのが苦手なんだ。人を殴るのが嫌いだ。暴力は……人を不幸にしてしまう。誰も幸せにならない。ボクシングだとか、そういうのはエンターテイメントになり得るけれど、仮に……ストリートファイトなんかがあっても、バカがワチャワチャしてるだけだろ? 怖いだろ。そういう事だよ」
「へぇ」
心の底からそう言っていることは、照太郎にもわかった。
だから、「昨今では珍しいタイプの人間だ」と分かる。
「なぁ、俺やっぱり……お前について回ることにするよ。信者の孫ならさ、神様と一緒にいてもおかしくねぇだろ」
「あまりよろしくはないがな……」
「決まり」
「決まってない決まってない」
「決まり。俺はお前が逃げても追いかけることに決めたぜ。逃げ切れると思うなよクソ野郎」
「こわすぎる」
それから数日、時が過ぎて……十二月五日の木曜日。
公園で顔を洗っていると、そこに照太郎がやってきて、「おまえ、今朝のニュース見たかよ」と話題が持ちかけられた。
「今朝のニュース……?」
「見てねぇのかよ、いま話題になってんだぜ」
照太郎は近くのコンビニエンスストアに行き、新聞を見つけてくると、その記事を彼に見せてくれた。
それには「怪奇の人体発火現象! 泣き叫ぶ学生たち……」とある。
盛岡にある高等学校の二年生が一昨日の夜から五人ずつ「いきなり燃える」という方法で死んでしまっているそうだ。
死ぬ直前を目撃した人によれば、「うわあ、来るな、来るな」と何かから逃げているようだった……ともいう。
「これって怪異ってやつのしわざじゃねぇの」
「…………」
「だろ?」
「だな。しかし……これは……」
神戯閃光児が「奴だ」と言った。
確証はなく、ただの憶測でしかないが……これは、「白いスーツの男」だ、と彼も神戯閃光児も考えた。
「これは……」
突如、少女が現れた。
走ってなにかから逃げているようで、二人と目が合うと、「助けて!」と叫び、目の前で燃え始めた。
夢の中の……光景と……重なる……。
「あああ!」
思わず、彼は叫んでいた。
そして、手のひらから「水」が、滝のように溢れ出し、少女を包み隠していた炎を消してしまった。
「うう、ううう、うう。……わ、私は……この事件の犯人を、絶対にゆるせない……こ、これは正義感じゃなく……し、私怨だ! わ、私は自らの手で復讐者になろうというのだ!」
「尾島?」
「林田照太郎くん、君がこれからついて回ろうというのは……自分の心もろくに制御できない……人類の出来損ない、醜いおばけ……異態肉彦……そして、邪悪なる悪魔だ!」
心臓がバクバクと動く。
痛む。
彼はそれを無視して、少女に寄っていくと、「救急車を呼ぶ」「君は大丈夫だ」と呼びかけ続けた。
少女は気絶していた。救急車が到着すると、すぐに引き渡され、救急隊員に会釈をして、白い車体を見送る。
それから一時間後、またも林田家に乗り込むと、照太郎の祖父に脅すような目つきでたずねこんだ。
「……私の家族は、おそらくこの事件の犯人に殺された。それが白いスーツの男だが……心当たりはあるかい……!?」
「そりゃあ、『木戸寛治』だな。木戸は、東北圏の愛星友を仕切っている幹部……通称で〝先生〟をしている。たしか、物体を燃やす霊術を使うんでなかったかな。固有霊術ではないみたいだが、遠隔で燃やせるのはあの男くらいだ」
「や、はり……」
夢とは記憶。
あの燃える家を見たとき、どこかで白いスーツの男・木戸寛治をみていたに違いない!
それを、夢を操る怪異が汲み取り、「トラウマを刺激する」という方法で再現してみせたのだ。
「異態家のれんじゅうが木戸に下剋上されたという話は聞かないが……お前は、いったい何の話をしているんだ?」
「…………」
「いや、別に『家族』ってひとつきりって訳じゃねぇべ」
黙ってしまった彼に代わって、照太郎が返事をした。
「人にはいろんな事情あんだろ。クソジジイは人間にもいろいろあるってことが分からないから困んだよな」
「…………私、人として育てようとしてくれた人たちだ。尾島というがな、彼らはほんとうに善良な心を持っていた。私のようなのですら、息子として接してくれていた。私は彼らのことを守れなかった。守るべきだったのに、ろくに、ろくに……だから、だから私は……この心に変えても、その木戸という男に復讐をしたい」
照太郎の祖父はその苦しんでいるような顔を見つめながら、「照太郎とたいして歳も変わらんだろうに」と腹の中で言葉を転がした。
「復讐は何もうまない」
「お前が言うなでや」
「自分でも、わかってる。私自身、復讐に理解はしてなかった。甘かったんだ。自分の心が、制御できなくなったせいで……」
「違うな、お前のそれは『家族を殺した男を見つけた復讐者』じゃない。私は長く生きているがな……むかし、いまのお前と同じ顔をよくする子供の面倒を見たことがある。それは、『もうこれ以上誰かが死ぬのを黙って見ていられない』という顔だ」
照太郎と、たいして歳も変わらんだろうに。
「そうだ、聞きそびれていた。おまえ、父親の名前は分かるか」
「尾島浩次」
「そっちじゃない。馬鹿者」
「……異態隕獄」
「そうか、隕獄か」
聞きたかった言葉を聞けた、と安堵。
「お前の慰めになるかはわからんがな、小僧」
去り際、老爺は言う。
「隕獄は心の優しい男だったよ」




